「人的資本」は現在、ESG投資家が最重要視する企業価値向上のキーワードである。2022年8月には政府が「人的資本開示」の日本版ルールを公表し、国内の全ての上場企業が対応を模索している。この動きが日本経済に及ぼす影響は計り知れないが、企業や人事はどのように人的資本経営と開示を進めていくべきなのだろうか。本講演では、人的資本経営と開示支援を手がける一般社団法人HRテクノロジーコンソーシアム 代表理事の香川 憲昭氏により語られた今後の人的資本経営および開示のあり方、人的資本経営に向けたHRテクノロジーの有用性などをお届けしたい。
企業価値向上を実現する日本版「人的資本経営と開示」のあり方
香川 憲昭 氏
講師:

一般社団法人HRテクノロジーコンソーシアム 代表理事 香川 憲昭 氏

1994年 京都大学法学部卒業後、KDDIにて新規事業開発に従事。2001年 株式会社ドリームインキュベータ入社、マネージャーを経て2007年 株式会社JINS執行役員(経営企画、店舗運営、総務・人事責任者、管理本部ゼネラルマネージャーを歴任)。2014年 株式会社Gunosy(人事責任者)。2015年 HRテクノロジーコンソーシアム創設。2017年 株式会社ペイロール取締役(営業・マーケティング統括)。2020年 一般社団法人HRテクノロジーコンソーシアム(HRT)代表理事(現任)。2020年 日本初のISO 30414導入リードコンサルタント認証取得。HCプロデュースと共に人的資本経営と開示を大手企業向けに支援。2022年 HRTとして日本初の専門書籍「経営戦略としての人的資本開示」を出版し、続編「戦略的人的資本の開示〜運用の実務」を10月に出版予定
一般社団法人HRテクノロジーコンソーシアム

人的資本の重要性を高めた「HRテクノロジーの進化」、「金融市場のメガトレンド変化」、「働き手の変化」

私はこれまでキャリアの約6-7割を、ビジネス開発の分野で形成してきました。その後、ある企業の人事責任者を務めたことをきっかけに経営視点での人事強化に取り組むようになり、近年はこの分野の仕事が3割から4割に増えている状況です。2020年9月に一般社団法人HRテクノロジーコンソーシアム代表理事に就任し、日本で最初の「ISO 30414認定コンサルタント」として人的資本経営と開示支援を実施しています。本日は、日本でもバズワード化している「人的資本」の重要性などを、私の立場からお話しできればと思っています。

最初に、人的資本の注目度が高まっている背景には大きく3つの動きがあることを指摘したいと思います。1つ目は「HRテクノロジーの進化」です。これには各種テクノロジーのHR領域への流入と、それによる業務の効率化、価値向上に繋げられるテクノロジーの進化が関係しています。2つ目は「金融市場のメガトレンド変化」です。これは、人的資本の重要性の高まりという潮流を突き動かす、最も大きなドライビングフォースになっていると思います。3つ目は「働き手の変化」です。価値観を含め、様々な面で働き手の中に大きな変化が起きていることは、皆さんもお気付きでしょう。以上3点の認識を、まずは共有させていただきたいと思います。

まず「HRテクノロジーの進化」についてお話しさせていただきます。HRテクノロジーという言葉は、現在ではクラウドテクノロジーの活用領域のひとつとして認識されるようになりました。その背景として、インターネットの常時接続が当たり前になったことが大きいと思います。HRテクノロジーは、ネットワーク技術とソフトウェア技術、そしてセキュリティ技術がミックスされたテクノロジーです。クラウドテクノロジーのHR領域での活用は、2010年代あたりから始まっています。その理由としては、国境や時間を超えて業務が標準化できる拡張性(スケーラビリティ)の向上、それによるHRの業務プロセスの標準化と財務情報等との統合化、膨大な情報を処理できる通信技術の確立が挙げられます。

こういったクラウドテクノロジーの進化が、人事業務に「業務プロセスの標準化」、「低コスト化」、「省力化による戦略的人事の推進」といった成果をもたらし、HR領域で標準化されたソリューション導入をスピーディに実現できるようになりました。例えば、給与計算領域の日本発クラウドサービスである「ペイロール」、アメリカのHCMクラウドの「ワークデイ」など、クラウドテクノロジーの進化によって業務革新を遂げた企業は世界に数多く存在します。業務プロセスが世界的に標準化されることで、ヨーロッパ、アメリカ、日本など、グローバル展開している企業が、同じ業務プロセスで運用できるようになったわけです。
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