最近、HR分野の話題が盛り上がりを見せています。働き方改革や転職、副業など、社会環境変化により誰もが以前よりHRの領域に関わるようになりました。テレビでもタレントマネジメントシステムのCMをよく目にしますが、これは一昔前では考えられなかったことです。このように人事施策は広く知られるようになってきますが、人事の考え方はあまり知られていないように感じています。それは、人事業務は担当者以外が普段触れることのないブラックボックスになっているからです。そこで、連載『Inside HR』では、大手メーカーで現役の人事を務める筆者が、人事の考え方や視点を広く紹介していきます。
人事が考えるのは、今できることでいかに自社の成長に貢献するか【1】
みなさん初めまして。今月から連載させていただくことになりました中野在人と申します。私は現役で大手メーカーの人事担当者として働いています。この連載では『Inside HR』と称して、人事担当者が普段どんな考え方や視点で動き、現場でどんな仕事をしているのかご紹介します。ただし、一口に人事といっても企業風土や業種によって、その実情は大きく異なります。あくまでも一介の日本企業の人事担当者の経験に基づいた一側面として捉えていただければ幸いです。

早速本題に入りましょう。初回は、なかなか知られていない、人事に共通する物事の考え方や視点をご紹介します。

人事は決して本音を言わない

まず間違いなく人事は本音を言いません。社内に対してはもちろん、社外に対しても絶対に本音を口にしません。唯一、本音に近い話をする場があるとすれば、人事同士のクローズドな飲み会くらいでしょう。

なぜなら、人事が本音を話すと大変なことが起こるからです。例えば、ある社員から他の社員の評価について聞かれたときに、人事が本音を言うと大変なことになります。評価が下がったというネガティブなものはもちろん、あの人は評価されているといたポジティブな話であっても、「人事が言っていた」と噂が広がると一大事。本人のモチベーションが下がる、職場の雰囲気が悪くなる、など影響は少なくありません。評価以外にも、給与や昇進/昇格に関わること、家庭のこと、病気のことなど人事の仕事はむやみに話せないことばかり。私も含めて人事の仕事を続けていると本音を言わない習慣が身につきます。

世の中のトレンドには総論は賛成、各論では反対が基本

この数年、HR分野の話題は、誰もが「歓迎」な話ばかりです。働き方改革、転職、副業、採用強化など、社会背景を考えればこれらのテーマに対してNOという人はいないでしょう。しかし、人事担当者としてはこれらのテーマに全て賛成とは言い難い現状があります。世の中のトレンドは確かにあるけれども、自社はどうするのか、それを考えるのが人事の仕事だからです。例えば、よく人事の友人との間で「Googleのような職場をつくりたいよね!」という話がでます。Googleの例が出るときの根底にあるイメージは、たいてい働きやすくて、やりがいもあって、どんどん良い人材が入ってくるような職場です。確かにGoogleと自社を比べると人事としてまだまだやるべきことはあります。でも、たいていの会社はGoogleたり得ません。Googleのような働き方を自分の所属する会社で実現したとしても、それが自社の風土や事業環境に合うかどうかは別問題なのです。

人事は、外部環境の変化や世の中のトレンドを受け入れる必要がある反面、冷静に自社にとって今、何が問題なのかを見極めることが求められます。人事制度はすべての社員に影響を及ぼすため、簡単には変えられません。世の中のバズワードに振り回されて人事制度をコロコロ変えてしまうと、社員の人生を激変させてしまう可能性があります。時流に流されず、自社の風土、事業の方向性、社員への影響など総合的に考えたうえで社にとってベストな選択を判断するのが人事の役目です。

人事は法律とともにある

人事制度は日本の法律に基づいて作られています。労働基準法はもちろん、様々な法改正に対応する必要があります。人事の仕事は法律と隣り合わせなのです。

日本の人事制度は「制度疲労」を起こしつつあります。法律にも多分に問題があると思いますが、一介の人事が変えられるものではありません。

最近、あるベンチャー企業のマーケティング調査でヒアリングを受けました。欧米では一般的な人事の仕組みを日本に取り入れるサービスでした。とても良いサービスでしたが、一つ残念な点がありました。欧米と日本の人事制度の違いを考慮していなかったことです。当然ながら欧米と日本では労働法が全くことなります。いくら転職市場が活性化してきたといえども、まだまだ日本企業は職務制より職能制が中心です。外資系企業であっても、基本的には日本の労働法を遵守しています。私は仕事柄たくさんのHR系ベンチャーやベンダーから営業を受けますが、日本の人事制度の成り立ちや法律を理解されていないのが残念だなと感じるシーンが多々あります。人事に限らずHR分野の仕事に携わるなら、最低でも人事制度や法律の成り立ちについて勉強するべきでしょう。

人事は多くの関係者との間で常に板挟み状態にある仕事です。常に経営陣と社員の両方のリクエストにこたえる必要があります。

そのような中で時には会社を良くするために経営陣に対して迫る勇気を振り絞る必要もありますし、法律改正などコントロールできないことを受け入れる必要があります。変えられるもの、変えられないものを考えながら自社の成長に貢献するのが人事の仕事なのです。

今回は人事の基本的な物事の考え方や視点をご紹介しました。次回以降も人事の視点から様々なテーマをご紹介します。ぜひ引き続きお付き合いください。
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