最近「遊び心」が足りない。そんな風に感じられることはないでしょうか。いつも何かをやろうとしても無難な案に落ち着いてしまう、あるいは企画を募集してもチャレンジングな提案がなかなか社内から出てこない……など。そんな経験をされている方も多いはずです。DXのような抜本的な改革や新規事業立案を行おうとしても大胆な発想が思い浮かばない、というお悩みを聞くケースが最近特に増えているような気がします。どうすればもっと、社内に“イノベーティブな人材”を増やすことができるのか。今回は、その鍵となり得る「プレイフルネス」についてご紹介します。
DX時代に活躍できる人を育てる(4)「イノベーティブな発想」の源、プレイフルネスとは?【78】

企業の中では、仕事に「遊び」が求められている??

遊びと仕事。この2つは、一般的には、相反する概念だと捉えられています。例えば、仕事中に遊ぶことはもってのほかと考える人の方が多いのではないでしょうか。反対に、遊んでいるときは仕事のことを考えたくない、そんな風に考える方もいるはずです。

しかし、最近、様々な企業とのディスカッションに参加していると、「最近、遊びがない」、「遊び心が足りない」という声を役員クラスの方から聞くことがあります。何故そう感じるのかを掘り下げると、役員の方々は当然ながら会社をよくしたいと思い変革を望むものの、「なかなか枠を超えた意見がでてこない」、「新たなことに一歩踏み出せる人がいない」と感じて悩んでいるようです。

一方で、フリーランスで働く友人たちに目を向けてみると、仕事の合間に釣りに行く、ジョギングを楽しむなど、“遊びながら働く”を体現して人が増えているような気がします。不思議と、よく遊ぶ人ほど、よく仕事ができる印象もあります。
特に昨今は、リモートワークが普及して、ワーケーションや自宅以外でのテレワークなど、自由な働き方ができるようになりました。彼らは、こうした環境を利用して、自由に遊びながら働く機会をうかがっているようにも見えます。

このような状況を鑑みると、近頃は最近、企業の中では遊びが求められ、働く人も遊びと仕事を少しずつ融合させ始めています。遊び心が高まれば、新たなアイディアが生まれ、仕事の生産性も上げられるのではないか。そんな仮説が成り立つはずです。

仕事のアウトカムを高め、ストレス軽減効果もある「プレイフルネス」

そこで、私自身は「遊び心」について、心理学的に研究してみることにしました。心理学の分野では遊び心のことを「プレイフルネス」と呼び、国内外で様々な研究が行われています。

プレイフルネスは遊びの要素のうち場所や人数などの外的環境を除いた内面的側面とされています。例えば、どんなに面白い公園があっても、遊ばない人はいます。反対に遊ぶ環境の全くない職場でも、遊び心がある人は様々な工夫をして自分なりに遊ぶことがあるでしょう。このように、プレイフルネスが高まれば、つまらないルーティンワークでもより創意工夫して仕事に取り組めるはずです。

私は、過去の心理学におけるプレイフルネス研究を整理して学会発表しました。先行研究によると、プレイフルネスの向上は仕事のアウトカム(成果創出力)を高める可能性があるほか、近年、ストレスを軽減させる効果や個人のレジリエンスを高める働きをすることが明らかになっています(中野, 2020)。※

これらの研究からプレイフルネスの高い遊戯的な人材は、ストレスフルな環境下でも生産性高く働ける可能性があると考えられるのです。

しかしながら大人の遊び心について研究した結果はまだ少ないのが現状です。特にビジネスパーソンにおける遊び心や、遊び心と仕事との関係性についてはほとんど明らかにされておらず、日本ではこの分野に関する研究者がいない状況です。

今後、遊び心と仕事の関係性がより解明されれば、日本企業が抱える「イノベーティブな発想が出てこない」、「枠を超えた議論ができない」といった課題を解決できるかもしれないと私は考えています。そこで、まずは「遊び心」を測るための尺度を開発することにしました。

プレイフルネスの最新研究結果:「自分らしくある人」と、これからの会社との関係性

遊び心の概念についてディスカッションで検討を行い、5つの遊び心の概念が導きだされました。(詳細は割愛) そして、その概念をもとに26問の設問を作成しました。この質問票を日本版遊戯性尺度(JAPS)と名付け、1,000人の大人に対してWEB上で調査を実施。その結果、遊び心の因子(構成要素)として「独創性」、「本来性」、「自分軸」、「型破り」の4つが導きだされました。

【遊び心の4つの因子(仮)】 ※今後アップデートされる可能性あり
・独創性:人が思いもよらないアイディアを思いつくことができる
・本来性:自然体であるがままの自分でいる。いつも物事を楽しむ余裕がある
・自分軸:自分自身が楽しいと思う活動にいつも注力している
・型破り:固定概念にとらわれず、一歩踏み出すことができる


この4つの因子の合計得点が高いほど遊び心が高いと言えます。一方で遊び心が高い人は、より「自分らしくある人」であると考えられます。こうした個性ある自分らしい人の意見を採用していけば、より新しいアイディアが生まれる可能性があるでしょう。その一方で、個性ある人は特に日本企業ではうまく適合できないという場合もありそうです。日本企業ではイノベーティブな人材を求めている一方で、組織になじむ人材を求める、という一見、相反する考えを持つ企業も多いように見受けます。

ただ、変化が激しく、多様な考え方や価値観が求められるこれからの時代には、「自分らしくある人をどう活かしていくか」ということがより重要なテーマになるでしょう。
既にWell-beingに積極的に取り組む企業は、“従業員個人の自分らしさ”を活かせる仕組みづくりを進めています。

遊び心の研究であるプレイフルネスは、まだまだ研究途上の段階です。今後は遊び心と組織エンゲージメントやコミットメント、Well-beingとの関係性について明らかにしていきます。一方エンゲージメントに関しては企業との共同研究が必要でもあります。

遊び心に興味がある、社員の遊び心を高めてみたい、という方はぜひこちらのお問合せフォームからお知らせください。ご質問も可能な限り承らせていただきます。

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