最近、DXに関するお話を聞く中で、「DXで業務の自動化や効率化が進んだら、人間はもっと人間にしかできないことをやりたい」という相談をいただく機会が増えました。企業におけるDXへの期待が前進していると感じるとともに、デジタル時代における“人間の価値”を改めて問い直すような危機感も感じられます。一説には、現在の職業の半分近くがロボットやAIに代替されると言われています。今回は、“人が生み出せる価値=創造性”をテーマに、DX時代に求められる人材について考えてみます。
DX時代に活躍できる人を育てる(3)鍵になるクリエイティビティ(創造性)とは?【77】

DXが進む企業とそうではない企業との差とは?

DXが進んでいない会社にはある特徴があると考えています。
それは新しい発想やアイディアを生み出す創造性が足りていないことです。

実際にDXが進んでいない会社のミーティングやディスカッションに参加すると、「この会社は『遊び』がない」「遊び心がもっと欲しいよね」という意見が出ることがよくあります。このような企業における“遊び”というのは広い意味での遊びを意味しており、次の計画を考える時間的、精神的な余裕を意味しています。

DXが進んでいない企業では、オペレーションを回していく現場目線が強く、ディスカッションをしていても、未来志向の考え方や何かに振り切ったアイディアが生まれることが少ない傾向があります。

こうした傾向は、特定分野で優れた製品やサービスをもっており、過去の成功で安定的に成長してきた企業に多いように感じます。ビジネスモデルが優れているからこそ、社員がだんだんと何も考えないようになり、ただ目の前のオペレーションを回すだけに注力してしまうからです。

日本の大企業は過去に大きな成功をした企業が多く、新しいものを生み出すよりも、製品やサービスをひたすら目の前の顧客に提供していくオペレーショナルな仕事を積み重ねることが得意です。そのため、大企業で働く社員の多くは抽象的な議論が苦手で、大胆な発想で挑戦していく指向も乏しい状況です。

こうした日本の大企業における傾向は、これからのDX時代を考えると、とても致命的なことだと言えます。

DX時代に求められるリスキリング

DX時代は、デジタルツールによって定型業務が代替されていくため、ビジネスシーンで求められるスキルが多く変化していきます。
下の図は、「これまでの時代に求められていたスキル」と「DX時代に求められるスキル(イメージ)」をカッツモデル(※)を元に比較したものです。

図:デジタル時代に求められるスキルのイメージ (カッツモデル※から筆者にて作成)

図表:デジタル時代に求められるスキルのイメージ
これまでは一般社員が雑務や業務のオペレーションを担っていたため、問題解決力や創造力、企画力といったコンセプチュアルスキルは経営層に強く求められてきました。しかし、デジタルツールにより業務が効率化、自動化されるDX時代では、創造力などのコンセプチュアルスキルが階層を問わず全ての社員に求められます。また、業務の進め方も、これまでの部署単位の仕事ではなく、チャットなどのデジタルツールを活用したプロジェクト型にシフトしていくと想定されるため、リーダーシップやチームビルディングなどのヒューマンスキルも重要になります。

つまり、これからのDX時代では、オペレーショナルな仕事はテクノロジーによって代替され、人間はより創造性の高い仕事をプロジェクトチームで取り組んでいくことになるのです。逆に言えば、創造的に新しい仕事に取り組んでいかなければ、どんどんテクノロジーによって業務が代替され、従来の業務がなくなっていく可能性があります。

DX人材育成では、多くの企業がプログラミングなどのITスキルの習得に注力しています。しかしそうした企業からは、どれだけデジタルスキルを身につけさせても、DXがうまくいかない、せっかく身につけたプログラミングスキルを活かせない、という声も聞かれます。

そもそも現在ではローコード、ノーコードツールにより、エンジニアなどの専門職でなければ、プログラミングはほぼ不要という時代になってきています。もちろん、プログラミングの知識はあったようがよいのですが、何よりも「問題解決力」や「創造性」といった“人間が強みとするスキル”を伸ばしていかなければ、デジタルツールを効果的に活用することすらできなくなるのです。

プレイフルネス(遊び心)は、DX時代の必須スキル

ではこうした創造性や新たなことに挑戦する力はどのように育めばよいのでしょうか。
ひとつの方法として、「ワーク・エンゲージメントを高める方法」があります。ワーク・エンゲージメントは、仕事に対するポジティブな感情を没頭、熱意、活力の3つの軸で表したものです。ワーク・エンゲージメントが高いほど、創造性など仕事の成果創出力(アウトカム)も高くなることが研究で明らかになっています。

もう一つの考え方として、新たに提案したいのが「プレイフルネス」です。
プレイフルネスとは、遊びの要素のうち外的要因(場所・遊ぶ相手等)を除いた、遊びにおける内面的側面(人格特性・行動特性)です。日本語では遊戯性と訳されます。簡単にいうと心理学的な「遊び心」のことです。

日本では、心理学の分野におけるプレイフルネスの研究はまだあまり進んでいませんが、海外では遊び心とビジネスの関係性が継続的に研究されてきました。これまでの研究によると、プレイフルネスの高い人は、仕事における「成果創出力」が高い可能性があることがわかっています。同時に、プレイフルネスの高い人は、「レジリエンス」が高く抑うつ傾向を抑制する傾向が見られます。つまり、遊び心であるプレイフルネスが高い人は、創造性が高く、逆境にも強いと仮説だてられます。

成人向けの研究はまだ少ないですが、子供を対象とした研究では、幼い頃にあえて少し危ない遊びをすることで、その後の新しいことへの挑戦への不安を和らげることができるとされています。

プレイフルネスが高まれば、変化の激しいDX時代において、より創造的で柔軟性のある対応ができるようになるはずです。人のプレイフルネスを向上させるのは、まさにDX時代に必要な取り組みとなるでしょう。

次回はこのプレイフルネスについてより詳しく解説します。