著者は本書のまえがきで「離職に不思議の離職あり。定着に不思議の定着なし。」と述べている。会社に残っている人には、これまで理由を聞く必要がないとされてきた。しかし在職と納得は同じではない。著者が目を向けさせたいのは、離職の理由ではなく「定着の理由」である。
そこで問われるのが、「Z世代」というくくりで若者を語ることの危うさだ。多様化・多極化が進んだ職場では、平均値で語られる若者論はもはや実態を捉えきれない。「今どきの若者は」という嘆きは古代から繰り返されてきたが、安定を求める本音そのものは、実はさほど変わっていないのではないか。著者はこの「変わらない若者」と「変わる社会」のギャップに、いまの職場の摩擦の根源を見出す。
統計データと現場ヒアリングをもとに、「静かな定着」(約35%の若手が該当し、納得しつつも積極的に理由を語らない層)という新たな概念を提示し、離職防止の議論に一石を投じている。全世代のマネジメントに応用できる「12の辞めない理由」を示している点も見逃せない。
【書籍基本情報】
『あの若手はどうして辞めないのか 変わる社会と変わらない若者の本音』
著者:古屋 星斗
発行:朝日新聞出版
発売日:2026年7月13日

▼内容紹介
「どんな仕事をしたいか」と尋ねるなど、若手と丁寧に接する職場が増える一方で、「やる気のない若者」をイメージさせる「静かな退職」という言葉が注目されている。なぜか? そのような現実をふまえた若手の育成問題への解決策を提示する。(出版社ホームページより)
【手に取っていただきたい人】
●若手の離職防止や「静かな退職」への対策に悩む人事・経営層
●自分自身の「なぜこの会社で働き続けているのか」を言語化してみたい若手・中堅社員
●世代論やジェネレーションギャップに違和感を持ち、データに基づいた実証的な議論を求める者
▼目次
第1章 「若者わからん」の対処法1.「若者がわからない」はなぜ起こる
2.平均が存在しない──多様化、多極化の問題
3.あなたとそんなに違うのか?│「消齢化」現象
4.なぜ世代差がなくなっているのか
5.若者論の半世紀を振り返る│企業社会の異物としての若者
6.昔と違うのか?│若者論の「6点セット」
7.なぜ「若者は職場の飲み会に来たくない」と思ってしまうのか
8.「育成できていない」の正体──「若者わからんのパラドックス」
9.レッテルよりデータ、世代論より目の前の人間──育成の原則
第2章 若手にいま、何が起こっているのか
1.転職市場の成立と問いの逆転│「なぜ辞めないのか?」
2.「選択の回数」の増加
3.選択できることは幸福か
4.青すぎる鳥と芝
5.会社にいる時間の短縮
6.浮かび上がる、ひとつの問い
第3章 「辞める理由」ばかり聞いていないか
1.沈黙の合理性
2.18.9%しか伝えられていない──「辞めない理由」の未共有問題
3.職場への不平不満を話す若手の意外な心情
4.若手が会社を「辞めない理由」と稀少性
5.「辞めない理由」の重要さ
6.「この会社を辞めない」ことを前提にしていないか
7.求められる組織のありかた
第4章 「辞めない理由」を聞くとわかること
1.〝辞めていないこと〞の多様性
2.「在職の4分類」と35%の静かな定着
3.「静かな定着」をしている若手の特徴
4.「静かな退職」というバズ・ワードの罠にはまっていないか
5.静かな定着│それは「納得」か「停滞」か
(参考コラム)「ジョブ・エンベデッドネス」と「辞めない理由」
第5章 なぜ「辞めない理由」を積み重ねられないのか
1.空白の正体──「辞めない理由」が見当たらない若手たち
2.〝参照性〞の問題│ほかよりマシ、という視点
3.自宅から近い、休みが多い、では静かな退職は防げない
4.なぜ静かな退職になったのか①──機会・経験が乏しかった
5.なぜ静かな退職になったのか②──支援との接続不全
6.なぜ静かな退職になったのか③──職場の接点が、閉じた濃いものである
7.「語れる定着」へ舵を切る
第6章 あの若手が会社を辞めない、12 の理由
1.仕事観多様化の最前線│いまの会社を、なぜ辞めないのか
2.12の「辞めない理由」
3.「辞めない理由」を重ね着する
4.12の理由で見る、若手の〝口ぐせ〞集
第7章 「12の理由」を使いこなす
1.重要なポイント:「若手への声かけ」について
2.「12の理由」を使いこなす①──消極的な在職理由との向き合いかた
3.「12の理由」を使いこなす②──処遇、外的条件
4.「12の理由」を使いこなす③──仕事内容、機会、人間関係
5.「12の理由」を使いこなす④│働きやすさ、両立への支援
6.「本音を聞き出す」は重要か
第8章 若手をどう育てるか
1.100年前の「1回目のイノベーション」
2.1回目のイノベーションの限界①──若手が職場にいない
3.1回目のイノベーションの限界②──育成の投資対効果の低下
4.すれ違いの抜本的解決策│「3年後に辞める」前提で話す
5.人事KPIの再設計──離職率から理由の厚みへ
▼著者プロフィール
【古屋 星斗(ふるや・しょうと)】1986年岐阜県生まれ。2011年に一橋大学大学院修了後、経済産業省に入省し、産業人材政策などに携わる。2017年よりリクルートワークス研究所主任研究員。労働市場を分析し、次世代社会のキャリアや人材育成を研究。内閣官房「地域働き方・職場改革等推進会議」構成員も務める。著書に『ゆるい職場』『なぜ「若手を育てる」のは今、こんなに難しいのか』など。
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