
1.法定雇用率引上げは「数合わせ」では対応できない
法定雇用率制度は、障がい者に就業機会を確保するための重要な仕組みです。2026年7月には2.7%へ引き上げられ、従業員37.5人以上の企業に雇用義務が課されます。この引き上げの影響で、障がい者の就職・転職市場は売り手市場です。せっかく採用した人材がすぐに離職してしまえば、結果的に雇用率未達の状態が続くことになります。つまり、採用・配置・定着を一体で考えることが不可欠です。
2.精神障がい・発達障がいの増加と雇用管理の変化
2025年12月に厚生労働省より発表された、「令和7年 障害者雇用状況の集計結果」によれば、民間企業に雇用される障がい者は70万5千人弱と22年連続で増加しました。なかでも精神障がい者(発達障がい者も含む)の雇用者数は16万9千人となり、知的障がい者の雇用者数(16万2千人)を初めて上回りました。この傾向は2025年6月に厚生労働省より発表された、「ハローワークを通じた障害者の職業紹介状況」でも求職件数・就職件数における精神障がい者(発達障がい者も含む)の比率は、それぞれ57%強・56%強となっており、近年の障がい者雇用は精神障がい者や発達障がい者の雇用の広がりが就労者数の増加を牽引しているという特徴が見て取れます。
このような障がい者雇用の状況により、従来のような身体障がい者を前提とした業務設計では、採用そのものが難しくなっています。さらに、精神障がいや発達障がいの場合、体調の波や対人コミュニケーションの特性など、個別性が高いのも特徴です。
そのため実務上は、
●業務の切り出し(できる業務の明確化)
●指示方法の工夫(具体的・視覚的に伝える)
●職場環境づくり(適切な合理的配慮と相談しやすい体制)
といった対応が重要になります。
これは特別な配慮というよりも、業務マネジメントの質を高める取り組みとも言えるでしょう。
3.雇用率計算で押さえるべきポイント
雇用率は以下の算式で算出されます。「雇用率(%)=障がい者の常用労働者数÷常用労働者数×100」
実際の計算は、ポイントに換算して行います。また、分子の障がい者は、原則として障がい者手帳所持者が対象となります。
また図表のとおり、週所定労働時間や障がいの状況によってカウントが異なります。身体と知的の重度障がい者はダブルカウントですが、精神障がいには重度区分はありません。
精神障がい者で週所定労働時間が20時間以上30時間未満の短時間労働者は0.5ポイントですが、当分の間の措置として、1ポイントとみなすこととされています。(厚生労働省「障害者雇用のご案内」より)

特定短時間労働者が設けられた背景には、短時間勤務から段階的に就労時間を延長し、最終的にフルタイム勤務に移行できるようにという政策意図があります。つまり、短時間雇用を前提とした採用設計を行うことで、採用可能な人材の幅を広げることができるのです。
なお、毎年6月1日時点で、常用雇用労働者が40人以上(2026年7月以降は37.5人以上)いる企業には、「障がい者雇用状況報告書(6.1報告=ロクイチ報告)」の提出が義務付けられています。
4.今から準備すべき3つの実務対応
最後に、人事担当者が今から取り組むべきポイントを整理します。1)不足人数の試算
法定雇用率2.7%を達成するために、自社で何人の雇用が必要になるかを把握します。必要雇用人数は、常用労働者数に2.7%を乗じ、1人未満の端数を切り捨てた数です。2)業務の切り出し
既存業務の棚卸しを行い、「任せられる仕事」を具体化し人材要件を明確にします。ここが曖昧なままでは自社の業務に合った人材の採用はうまくいきません。多くの企業では、業務設計を行わずに採用を先行させてしまい、結果としてミスマッチが生じています。3)受入体制の整備
現場任せにせず、上司や同僚に対して障がい理解や関わり方を共有しておくことが重要です。コミュニケーションが良好な職場では、障がい者社員の定着率が高まります。*
法定雇用率の引上げは、企業にとって負担として捉えられがちですが、本質的には組織のあり方を見直す機会でもあります。
障がい者雇用は、障がいの有無にかかわらず様々な特性を持った多様な人材が“自分の価値“を実感しながら働ける組織に変貌するきっかけになります。様々な特性を活かすことで誰もが働きやすい職場となり、社員の定着率と組織の生産性も向上します。
企業には単なる制度対応にとどまらず、自社に合った雇用の仕組みを構築することが求められます。雇用率の達成だけでなく、「定着」と「戦力化」まで見据えた取り組みが、これからの人事に問われています。
- 1
