そこで本稿では、離職につながる主な要因や、離職率改善に役立つ施策アイデアを整理したうえで、離職防止に成功した7社の事例を紹介する。各社の工夫やポイントを把握し、自社の取り組みにぜひ活かしてほしい。

離職につながる主な原因
まずは、離職につながる代表的な理由を解説していこう。社員が離職してしまう時にどんな不満やストレスを抱えているのか、主な6つを取り上げる。●給与・報酬への不満
給与や報酬に対する不満は、社員が離職を考える大きな要因の一つである。やりがいのある仕事であっても、得られる対価に納得できなければ、働き続ける意欲を維持するのは難しい。同業他社のほうが明らかに待遇が良い、知人が転職によって多大な報酬を得ているなどの話を耳にすると、「自分も転職しよう」という気持ちが高まるのは自然な流れだ。●業務内容のミスマッチ
自分がやりたいことと実際の業務内容に大きな乖離があると、やりがいや満足感を得にくくなる。それが原因で離職に至るケースも少なくない。特に中途採用ではこの傾向が顕著だ。入社前に聞いていた仕事内容とのギャップが大きい場合、「自分のスキルや経験を活かせない」と感じ、早期退職につながりやすい。●キャリア形成への不安
自身のキャリアパスが見えない、あるいは先輩社員の姿を見ても将来に希望を持てない――こうした声も、離職理由として挙げられる。要するに、「この会社でどのように成長していけるのか」という期待を描けなくなっている状態だ。この傾向は、優秀な人材ほど顕著で、成長実感を得られないと判断した場合、迷いなく離職を選択するケースも多い。●人間関係のストレス
上司や同僚との人間関係も、離職理由として頻繁に挙げられる。職場環境にストレスを感じると、業務へのやりがいを見失うだけでなく、最悪の場合、出社そのものが苦痛になってしまう。もちろん、個人の資質が影響する場合もあるが、職場の雰囲気や上司のマネジメントの質は、働きやすさを左右する重要な要素だ。●企業文化・社風との不一致
企業文化や社風になじめないことも、離職につながりやすい要因である。自身の価値観との違いがストレスになるためだ。また、社内ルールや業務の進め方に納得できないとして離職を申し出るケースも少なくない。特に若手社員に多く見られる傾向であり、周囲からは些細に思えることでも、本人にとっては重大な問題であるのを見逃してはならない。●心身の不調
厳しいノルマや過度な責任により強いプレッシャーを感じ、心身の不調をきたすケースも少なくない。その結果、離職に至ってしまう。特に責任感の強い社員ほど状況は深刻化しやすい。無理を重ねながら使命を全うしようとするため、限界に達するまで周囲に相談せず、ある日突然離職を選択してしまうこともある。【HRプロ】無料会員登録はこちら(メールアドレスまたはソーシャルアカウントですぐに登録完了!)>>
離職防止につながる施策アイデア
続いて、離職防止に効果的な施策アイデアを5つ紹介する。●コミュニケーションの活性化
人間関係の悩みを掘り下げていくと、原因が社内コミュニケーション不足にあるケースは多い。その意味で、コミュニケーションの活性化は離職防止の基本とも言える。社内イベントの開催、社内ブログやSNSの活用、上司からの定期的なフィードバックなど、さまざまな施策が考えられる。社員の負担にならない範囲で実施することが重要だ。●多様な働き方の推進とワークライフバランスの改善
社員の価値観やライフスタイル、ライフイベントに対応した職場づくりも欠かせない。そのために有効なのが、多様な働き方の推進とワークライフバランスの改善である。リモートワークやフレックスタイム制度、副業の容認、さらには出産・育児・介護に対応できる制度や時短勤務制度の整備などが代表例だ。●人事評価制度の見直し
社員の不満を把握し、解消することも重要な施策の一つである。なかでも、人事評価への不満は放置すると確実に離職につながる。評価に透明性や公平性が欠けていると、社員の信頼は得られない。成果や行動を客観的に判断できる指標を設けるなど、人事評価制度の見直しが求められる。●労働環境の改善
社員が重視するのは、仕事や職場に満足感を持てるか、健康的に働ける環境であるかという点だ。そのためにも、快適な職場環境の整備は欠かせない。ノー残業デーの導入、業務の見える化、リフレッシュスペースの整備などを通じて、成果を出しやすい職場づくりを進めたい。●キャリアアップ・スキルアップの支援
将来に希望を持てず、不安ばかりが募る状態では、離職は避けられない。社員が成長を実感できるよう、キャリアアップやスキルアップを支援する環境整備が必要だ。キャリアパスの再設計、待遇の見直し、社内公募制度や社内FA制度の導入などは有効な施策であり、社員のモチベーション向上と定着率改善につながる。【関連記事】「離職率」の平均や計算方法とは? 高い会社の特徴や改善策も解説
離職防止の成功事例7選
ここからは、離職防止に成功した企業の事例を紹介する。今回は7社を取り上げたい。(1)サイボウズ
「100人100通りの働き方」の実現で企業文化を変革
2005年当時、サイボウズの離職率は28%。いわゆる「普通のブラック企業」と言われる状態で、採用しても退職者が続出していた。この状況を改善しなければ、生産性も業績も、社員のモチベーションも向上しないと判断し、同社は多様な働き方の実現に踏み切った。画一的な働き方を社員に押し付けるのではなく、一人ひとりが自分にとってモチベーションの上がる働き方を選択し、それを形にしていけば離職は防げる――そう考えたのである。
週3日勤務の社員、育児のため完全在宅勤務をする社員、遠方からリモートで働く社員など、まさに「100人100通り」の働き方を少しずつ実現していった。その結果、離職率は5%以下まで低下。多様な働き方は企業文化を変革し、生産性向上にも寄与している。今後も成果を出し続けることで、「100人100通りの働き方」が正しいことを証明していきたいと同社は考えている。
【もっと詳しく】取材記事:離職率28%の「普通のブラック企業」だったサイボウズが、14年後に働きやすい会社に変貌した理由とは?
(2)セプテーニ・ホールディングス
“相性配属×ピアレビュー×伴走支援”で柔軟な働き方と育成を両立
セプテーニでは、コロナ禍以降、全社員を対象にリモートワークを導入している。しかしその一方で、「関係性を築きにくい」といった声が上がり、一時的に離職率が高まった時期もあったという。そこで同社は、社員情報をデータで補完しながら的確なマネジメントを行う体制づくりを進め、リモート環境下ならではの新入社員育成プロジェクトに着手した。重視したのは、働く時間や場所に対する自由度と、成長できる環境の両立である。
具体的には、以下の3つの育成支援を実施している。
1つ目は「個性データに基づいた相性配属と育成プランの提供」。
2つ目は360度評価を通じて組織適応度や能力発揮度を測る「ピアレビュー」。
3つ目は「キャリアアドバイザーによる伴走支援」だ。
これらの取り組みにより、新卒1~2年目社員の離職率は、2020年と比較して2023年には36.4%低下した。
【もっと詳しく】取材記事:“相性配属×ピアレビュー×伴走支援”で柔軟な働き方と育成を両立――セプテーニグループが取り組む「リモート人材育成プロジェクト」
(3)プレシャスパートナーズ
8つの施策により働き方改革を「働きがい改革」へ
プレシャスパートナーズでは、2015年4月に新卒(大卒)として入社した17人のうち、9人がわずか1年余りで退職するという事態が発生した。これほどの大規模な離職は初めてであり、社内に大きな衝撃が走った。この状況を打開するため、人事部は退職者へのヒアリングを実施し、離職原因を分析。さらに、管理職や外部コンサルタントの意見を踏まえ、8つの改革施策を策定し、段階的に実行していった。具体的には、仕事の意味・目的の再定義と関係部署との共有、役割分担や権限・責任の明確化、残業時間の削減、内定者研修の変更・強化などである。
その結果、新卒社員の入社前後のミスマッチが減少し、エンゲージメントも向上。仕事の質が高まったことでクライアントからの評価も向上し、残業時間は約3割削減された。働き方改革が「働きがい改革」につながった好例と言える。
【もっと詳しく】取材記事:新卒入社の半数以上が1年で退職した「2015ショック」を乗り越え、8つの改革で定着率向上
(4)パナソニック インダストリー
企業風土を変革した「MAKE HAPPY PROJECT」
パナソニック インダストリーでは、創業100周年を迎えた2018年、企業風土の変革が経営幹部から提案された。これを起点に、社内風土の活性化を目的としたプロジェクトとして立ち上がったのが「MAKE HAPPY PROJECT」である。このプロジェクトは、社員の仕事における幸せを追求し、その先にいる顧客もハッピーにすることを目指している。具体的な取り組みとしては、外部講師を招いた視座を高めるセミナーの開催、国内拠点責任者の人となりを伝えるラジオ番組の企画・制作、1日3回のオンライン雑談会の実施などがある。
いずれも、プロジェクトに共感した社員が主体となって企画・運営している点が特徴だ。このムーブメントはグループ全体にも広がり、参加者はすでに1万6,000人を超えている。その結果、職場への愛着が高まり、離職率の低下につながっている。
【もっと詳しく】取材記事:「従業員と経営層のつながり」や「社員の挑戦機会」をつくり、ムーヴメントを巻き起こした社内風土改革『MAKE HAPPY PROJECT』
(5)ウェルフェア三重
ワークライフバランスを重視し、「週休3日」「夜勤専従」を実現
ウェルフェア三重が運営する「介護付有料老人ホームみっかいち」は、かつて事業存続の危機に直面していた。採用活動を行っても応募が集まらなかったためだ。現状を打破するには、職員の働き方を大きく変える必要があると施設長は判断し、「ワークライフバランスを重視し、ON・OFFを切り替えられる働き方改革」に着手した。
従来の週休2日・日勤夜勤の交代制・8時間勤務から、「週休3日」「日勤または夜勤専従」「10時間勤務」へと制度を変更。給与水準はほぼ維持したまま、キャリアコンサルタントと連携したメンタルヘルス支援も実施している。
その効果は大きく、制度導入後すぐに7名の応募があり、その後も安定して人材が集まるようになった。離職者も大幅に減少し、採用や教育・育成にかかるコストを抑えることができている。
【もっと詳しく】取材記事:介護業界で「週休3日」「夜勤専従」を実現。キャリアコンサルティングを導入し、一人ひとりのキャリア自律もサポート
(6)ホットランド
出店計画を経営計画だけでなく採用計画とも連動
たこ焼きチェーン「築地銀だこ」を主力事業とするホットランドは、急速な店舗拡大の一方で、店舗マネジメント職の確保・育成が追いつかないという課題を抱えていた。この課題を解決するため、同社は人材確保だけでなく、早期離職防止と店長への教育・フォロー体制の構築を同時に進める改革に踏み切った。
具体的には、出店計画を経営計画だけでなく採用計画とも連動させる仕組みを構築。さらに、早期離職の要因を把握するため、外部コンサルタントが現場を訪問し、店長へのヒアリングを実施した。
その結果、フォロー体制の不備、長時間労働、動機づけ不足といった課題が明らかになり、順次改善策を講じた。現在では、中途採用の充足率が向上し、新入社員の離職率も大幅に低下している。
【参考】厚生労働省:若者が定着する職場づくり取り組み事例集「株式会社ホットランド」
(7)EVENTOS
「女性支援」と「休日拡充」で定着率アップ
飲食事業を展開するEVENTOSでは長時間の立ち仕事が多く、スタッフにとって過酷な労働環境が課題となっていた。また、コミュニケーション不足による不安や不満の解消も重要なテーマであった。そこで同社は、労働環境改善と定着率向上を目的に、複数の施策を展開した。
1つ目は女性社員の定着促進だ。時間短縮社員制度の導入や産休・育休取得者に対する三者面談を実施した。
2つ目は休日制度の整備で、11日間の「チャレンジ休日」を導入し、取得促進を図った。
3つ目は若手社員のコミュニケーション活性化である。
これらの取り組みにより、女性の働き方の選択肢が広がり定着率が向上。「チャレンジ休日」を活用して資格取得に励んだり、若手社員同士で話題の飲食店を巡るなど、スキルアップや交流が活発になっている。
【参考】経済産業省:事例詳細 社員の定着に向けて、女性が働きつづけやすい制度や若手社員のコミュニケーションの場を導入
まとめ
人材の流動化が進む昨今、離職防止は「採用」と並んで投資価値の高いテーマだ。離職を「防ぐべきリスク」とだけ捉えると、施策はどうしても“守り”に偏ってしまう。しかし、人材定着は「自社と社員が価値を共創し続けるための投資」であると発想を切り替えることが求められる。重要なのは「辞めさせない仕組み」ではなく、「ここで働き続けたほうが市場価値も人生の選択肢も広がる」と社員が感じられる状態を設計することだ。その意味で、評価、育成、キャリア支援、働き方の制度を別のものとして設計するのではなく、「エンゲージメントを高めるための一つのストーリー」としてつなげることが必要になる。その第一歩として、まずは自社の離職率の実態や推移を正確に把握することから始めてみてはいかがだろうか。透明性を重視する姿勢は、社員だけでなく、外部のステークホルダーからの信頼獲得にもつながるだろう。
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