
安心感、信頼感を生む「言葉によらないコミュニケーション」
非言語コミュニケーションスキルとは、言葉以外の方法で情報を伝達する技術である。例えば、顔の表情や視線、立ち居振る舞いなどが該当する。代表的な好ましい非言語コミュニケーションスキルといえば、スマイル(笑顔)とアイコンタクト(視線合わせ)であろう。スマイルは“好意”や“歓迎”の意を示し、アイコンタクトは “尊重” や “誠実さ” を示す非言語的メッセージである。
そのため、「おはようございます」、「お疲れ様です」などの挨拶について目を見て笑顔で行うようにすると、挨拶を受けた相手に安心感や信頼感などを与えられる。好ましい非言語コミュニケーションスキルは、相手に好感情を醸成できる強力なツールといえる。
「良好な人間関係」は心理的安全性を高める
他者から目を見て笑顔で挨拶をされると、次第に同じように目を見て笑顔で挨拶を返すようになるケースが多い。ヒトは「相手から受けた好意などに対し、同等の好意を返そうとする心理作用」を有するためである。このような仕組みを『互恵性の原理』という。また、好ましい非言語コミュニケーションスキルは、職場のメンバー間で次から次へと連鎖反応を起こしやすいものだ。時の経過とともに、良いコミュニケーションを取れる人材が増加する事例が多いわけである。
前述のとおり、スマイルとアイコンタクトは相手に安心感・信頼感などの好感情を醸成する。そのため、好ましい非言語コミュニケーションスキルで挨拶を交わす間柄になると、両者の間では良好な関係性が育まれやすい。つまり、非言語コミュニケーションスキルを活用することで、好ましい人間関係を構築するための好循環が職場内に形成できるのである。
職場の人間関係が良好に保たれていると、若年社員の心理的安全性は向上しやすい。自身の考えを積極的に発言したり、失敗をしても迅速に報告できたりするだろう。学習意欲や成長意欲も向上するものだ。
以上のような仕組みを考慮すると、好ましい非言語コミュニケーションスキルの指導は、新入社員教育の一項目として取り入れる価値が非常に高いといえる。
早期離職の最大要因は「職場の人間関係」
現在、新規学卒就職者が入社後1年以内に離職する割合は、高卒者16.6%、短大等卒者17.8%、大学卒者10.1%である(新規学卒就職者の離職状況(令和4年3月卒業者)を公表します/厚生労働省)。また、入社1年以内で離職するケースでは、「人間関係がよくなかった」という点を原因に挙げる事例が最も多い(令和5年若年者雇用実態調査の概況/厚生労働省、下図参照)。

ところが、多くの企業が実施する新入社員研修では、非言語コミュニケーションスキルは好ましい人間関係を構築できる有力な手法であるにもかかわらず指導対象になっていないようである。「社会人の基本マナー」「業務知識・スキル」などの教育に留まっている事例が多く、スマイルとアイコンタクトなどの非言語コミュニケーションスキルを明確な教育項目と位置付けているのは、接客を主要業務とするサービス業の一部に過ぎない。
このような事情から多くの企業で非言語コミュニケーションスキルは、ごく限られた少数社員の暗黙知と化している。結果的に職場内でのスマイル・アイコンタクトの連鎖効果も限定的になり、必須ビジネススキルのひとつとして有効に機能するところまでは至っていないのが現状である。
教育研修で非言語コミュニケーションスキルの「形式知化」を
新入社員研修にスマイルとアイコンタクトなどの指導を取り入れれば、非言語コミュニケーションスキルの体系的な「形式知化」も可能になる。ビジネスパーソンの基本動作・基本マナーのひとつと位置付ければ、既存の研修に無理なく盛り込めるだろう。ただし、研修によって新入社員がスマイルとアイコンタクトを習得しただけでは、十分とはいえない。配属先の上司・先輩社員に非言語コミュニケーションスキルに関する認識がなければ、研修効果は極めて限定的になるからである。
従って、既存社員にも非言語コミュニケーションスキルに関する情報を提供しておくことが重要になる。例えば、新入社員の非言語コミュニケーションスキルに対する気付き方や褒め方などを資料化して配布するなどもよいだろう。その結果、既存社員の非言語コミュニケーションスキルの習得・向上にも繋がるはずである。
ぜひ、新入社員への非言語コミュニケーションスキル教育を契機に全社的なコミュニケーションレベルを向上させ、定着率の高い良好な職場環境の構築を目指していただきたい。
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