――そもそもどのような経緯や背景で開校に至ったのでしょうか。
2018年8月に現在の本社オフィスビルが完成し、そのタイミングで都内のあちこちに散らばっていた国内グループ会社が1ヵ所に集約されたのが、そもそもの始まりでした。それまではグループとは言いつつも、物理的な距離感から、グループとしての一体感を感じるシーンはかなり限られていましたが、前年の2017年に里見治紀(現セガサミーホールディングス株式会社 代表取締役社長グループCEO)がセガサミーホールディングスのグループCOOに就任し、そこから新たな経営施策を打ち出しました。その一つとして、各社の歴史や文化を大切にしつつ、グループ全体としてのカルチャーでオーバーレイし、シナジーを最大化することを目指したというのが開校の背景です。
しかし、それらを実現するためには、グループ全体で一緒に学び合う場と、人財育成施策の統合が不可欠となります。実は里見は、アメリカのグループ会社にいたときに、働きながら夜間の大学院に通ってMBAを取得した経験を持っており、そこで学んだエッセンスを社内に還元できる企業内大学を創りたいという想いをずっと温めていました。そこで満を持して、グループ横断で学び合う場となる『セガサミーカレッジ』設立プロジェクトを始動させ、私がそのリーダーという大役を任されました。
――貴社はこの数十年の間に経営統合や組織再編を進められ、非常に多様なカルチャーが醸成されてきている印象ですが、『セガサミーカレッジ』では改めて文化を融合させるというところも狙いに置いたのですね。
むしろそこに一番重点を置きました。『セガサミーカレッジ』は単にスキルを提供するための取り組みではなく、文化を作っていくための取り組みなのです。セガサミーはValue:「創造は生命×積極進取」、Mission/Purpose:「Captivate the World 感動体験を創造し続ける ~社会をもっと元気に、カラフルに。~」、Vision:「Be a Game Changer ~革新者たれ~」というグループミッションピラミッドを掲げています。これは言わば「北極星」のようなものです。しかし、ともすれば北極星は日々の業務の中では遠い存在になってしまいかねません。そこでグループミッションピラミッドを実現するため、各社は各社のミッションピラミッドを掲げ、各社のミッションピラミッドを実現するために各組織は各組織のミッションピラミッドを掲げています。この構造によって、多様な事業を営むセガサミーグループの仲間は、自分に一番近いミッションピラミッドを見上げることができます。多様な人財が集い、それが烏合の衆ではなく、一同じミッションの実現に向けて個性を発揮する文化を創ること。それが本取り組みの目指すところです。
――取り組みを進めるにあたっては、直面したハードルや課題も多くありそうです。
プロジェクトを任されたときは非常に嬉しかったのですが、実際に各グループ会社の経営層や人事の方々に「グループ全体で教育体系を一体化しましょう」と伝えたところ、「急にどうしたんだ」「そんなことできるのか」「文化で儲かるの」など一様に微妙な反応が返ってきて、これは難しい旅になりそうだなと感じました。結局、教育ストラクチャーに投資をしたところで、どれくらい利益が返ってくるのか数値で示すことは難しいじゃないですか。ですので、取り組みそのものに対して共感を得ることが相当なハードルでしたね。これを乗り越えるために、各グループ会社に地道に丁寧に説明を行い、最終的には事業リーダーの方々に共感してもらえたのが一番大きなブレイクスルーだったのかなと思います。開校後、最初に募集した手上げ式道場の応募倍率が、軒並み6倍を超えた時には感慨深いものがありました。
――社員にフォーカスすると、本取り組みを自分事化してもらい、主体的な参加の促進に向けて、プログラムの設計や運用で具体的にどのような工夫をされましたでしょうか。
グループ各社・各部門の業務内容や社員の志向は多岐にわたるため、画一的な研修では多様なニーズには応えきれません。そういう意味では、数ある講座の中から学びたいことが自由に選べること、学びたいときに学べることが大事ですので、手上げ式道場のメニュー拡充に注力しました。例えば語学においては、CEFR指標に基づきAIが判定した各自のレベルに応じて、初級から海外留学まで研修メニューを用意しました。エントリーレベルのコースは学ぶ意志さえあれば誰に対しても門戸を開く運用とするなど、パーソナライズされた学習環境を整えることで、社員の「学びたい感」を応援しています。
また、手上げ式道場では、「モチベの会」という研修メニューも好評です。これは四半期に一度、経済界やスポーツ界などで一流を極めた方を講師としてお招きし、モチベーション向上について学ぶというもので、セガサミーグループが大事にしている「突破力」や「共感力」などについてお話いただきました。やはり同じ内容の話でも、人事部に言われるのと、一流の人たちに言われるのとでは響き方が違うんですよね。結果を出している人たちの言葉には説得力があり、素直に「自分もこういう風になりたい」と思えますから。
さらに自分事化という意味では、選抜型の研修において、セガサミーグループの挑戦と失敗の歴史をケーススタディとして学んでいただいています。私たちの歴史を紐解くと、ここに至るまでにはたくさんの挑戦と失敗がありました。カレッジ開校当初は、ビジネススクールなどで一般的に使われるようなケーススタディが全てだったのですが、それだと「業界が違うから」「それって海外の話でしょ」といった反応もあり、なかなか自分事化できなかったんです。
しかし、それをセガサミーグループの諸先輩方が成し遂げたエポックメイキングな事例やゲームチェンジの事例に変えた途端、「もし自分が当時の社長だったら」「今後自分が事業リーダーになったら」と本気度が格段に上がりました。プログラムの設計にあたっては、こうした工夫を凝らすことで、社員一人ひとりの主体性を引き出しています。
――社員の「学びたい感」を後押しする様々な工夫が施されている『セガサミーカレッジ』ですが、組織視点と社員視点でどのような意義があるとお考えでしょうか。
まず組織視点で言いますと、当初の狙い通り、グループ共通の価値観やビジョンを共有し一体感を醸成したことで、各社の個性や勢い溢れる遠心力とグループ全体の求心力の両方が相互に作用し高まり合っていると感じています。実際、セガサミーカレッジという学びの場があることが採用競争力の向上にもつながっています。加えてリーダーシップの育成を体系化したことで、次世代の経営人財候補を社内から継続的に輩出できる仕組みが整いました。
一方、社員視点では、何よりお互いに学び合う風土ができ上がった点は大きいです。年次や所属会社の垣根を越えて学び合ったり、対話したりすることで、様々な刺激が得られ、そこから新たな視点や発想を得ることができるでしょう。また、カレッジを通じて社内に学び続けることが賞賛される空気が根づきつつあり、社員同士が互いの成長を支援し合う風土も芽生えてきています。
――社員同士で学び合う風土や支援し合う風土が作られたとのことですが、具体的にはどのような事例がありますでしょうか。
数多くの事例があるのですが、例えば、セガサミーグループが注力しているデジタル/AI領域における取り組みの一つに『プロンプトキッチン』というものがあります。これはITソリューション本部が行っているハンズオン形式の生成AI講座です。せっかくDXを推進しようとしても、特定の管理職や、デジタルに苦手意識を持った人たちがボトルネックとなり、なかなか思うように進まないケースってありますよね。そこで『プロンプトキッチン』はその名の通りキッチンカーをモチーフに、研修に来てくれるのをただ待つのではなく、みんなが集まっているところ、つまり各部署にこちらから出向いていき、出前講座を開催します。何より素敵だなと思うことは、この施策を企画した中心人物は新入社員であり、それを本部の仲間が応援して創られたというプロセスです。
研修内容は各部署のニーズに合わせてカスタマイズし、業務内容に応じた生成AIの活用方法を学ぶことが可能です。この取り組みによって、その部署の誰か一人だけが成長したり、誰か一人だけが取り残されたりすることなく、チーム全体でネクストレベルに到達していくことができます。これはあくまでも一例ですが、こうした学び合いのコミュニティがどんどん生まれてきている状況です。
――本取り組みを進める中では、運営側としても新たな気づきや学びなどが多くありそうです。
練りに練って、満を持して実行することも大事なのですが、一方でやってみないとわからないということも運営していくうえで学びました。エンタテインメントの事業そのものと一緒で、最初からいきなり完璧なものなど作れません。修正して修正して修正して、ようやく目指しているところに辿り着けるのだと思います。しかもテクノロジーの進化や社会の変化によって、辿り着きたいゴールもどんどん動いていくわけですから、まずはとにかくやってみて、こちらも柔軟に変わり続けることが大切でしょう。
そしてもう一つ、『セガサミーカレッジ』を通じて社員一人ひとりの成長と事業の成長は連動しているのだと改めて実感しました。個人が持っているCan(スキル)やWill(意思)を十分に発揮してもらって、そこに会社の求めるMustや事業戦略が重なり合うことで、グループはさらに成長していく。当初はひたすら使命感から来る勢いに任せてやってきましたが、今改めて振り返ってみると、なかなか筋のいい取り組みだったと感じています。
――それでは最後に、『セガサミーカレッジ』の今後のビジョンをお聞かせください。
まず近々の課題としては、現状まだトライアルベースの段階で実現できていないのですが、多様な個人のキャリア観に応えるレコメンデーション機能を加えることです。現在ラーニングシステムの中に個々人のなりたいキャリア像など様々な情報が入っているので、それをベースに、例えば「社内であなたのなりたいキャリア像を実現した人のうち、80%がAという講座を受講しました」「あなたがこれから具備すべきスキルはこれらです」というように学習内容をガイドし、一人ひとりの心にやる気の火を灯す仕掛けを作っていきたいと思っています。
カレッジ全体の目標としては、良い意味で凝り固まらないようにしていきたいです。会社の事業戦略が変われば、それに沿って人事戦略も変えるべきですし、一方でカルチャーやミッションピラミッドの上段に掲げる存在意義のように不変のものもあるでしょう。何を変えるべきで、何を変えないべきか、そこをしっかり見極めて、変えるべきものは恐れず変えていきます。
そしてもう一つは、「セガサミーには優秀な人財がたくさんいるよね」と社会的に評価してもらえるようになることです。そうなってはじめて、この学びの場が有用な人財の育成に寄与していることの証明になるでしょう。そこからセガサミーのブランド力がさらに向上し、働きたい人がもっと増え、ここで育った人がまた新たなビジネスやアクションを起こし、感動体験を創造していく。そんなサイクルを作っていきたいですね。