そこで今回は、その大規模プロジェクトがなぜ成功できたのか。人材データを活用することでどのような成果がもたらされているのか。人事労務システム『One人事』を提供するOne人事株式会社 HRTech SaaS事業部 エンタープライズセールス部 部長 神山 直幸氏が、三井化学株式会社 オーラルケア事業部長の小野 真吾氏、グローバル人材部HRテクノロジーグループ グループリーダーの織田 俊治氏にお話を伺いました。(以下敬称略)
【対談者プロフィール】

■小野 真吾氏
2000年に三井化学株式会社へ新卒で入社。ICT関連事業の海外営業、マーケティング、プロダクトマネジャー(戦略策定・事業管理・投融資など)を経験後、人事に異動。組合対応や制度改定、採用責任者、国内外M&A人事責任者、HRビジネスパートナーを経験後、グローバルでのタレントマネジメントや後継者計画の仕組み導入、グローバル人事システム展開などを推進。2021年4月よりグローバル人材部 部長を経て、2025年4月より現職。事業部門のトップとして活躍。
三井化学株式会社
理事 ライフ&ヘルスケアソリューション事業本部 オーラルケア事業部長

■織田 俊治氏
事業会社、システムベンダーで人事系をはじめとするシステム導入を経験。その後、2021年12月に三井化学株式会社に入社。現在は同社の人材プラットフォームの管理・運用・活用に携わるHRテクノロジーグループのグループリーダーとして活躍。
三井化学株式会社
グローバル人材部HRテクノロジーグループ グループリーダー

■神山 直幸氏
前職、株式会社HRBrainでは営業責任者としてSaaS型タレントマネジメント領域にて100社超の導入を支援。経営層との対話を通じた課題特定と戦略設計を強みに、組織変革と人的資本経営の実装を推進。2025年、One人事株式会社に入社。フィールドセールスとしてエンタープライズ企業を中心に人・組織の成長を軸に価値創出をリードしている。
One人事株式会社
HRTech SaaS事業部 エンタープライズセールス部 部長

包摂的なタレントマネジメントに向け、人材プラットフォームを導入
神山 本日は3つのトピックについてお話をさせていただきます。よろしくお願いいたします。最初は、大規模な人材プラットフォームの構築・導入に向けた挑戦についてです。まずは、三井化学様がグループ統合型人材プラットフォームを構築・導入された背景からお聞かせいただけますか。小野 背景には、三井化学が人的資本経営の高度化を目指して掲げる長期経営計画「VISION2030」があります。人材ポートフォリオの転換とエンゲージメントの最大化、企業文化の変革の3つが柱です。

小野 はい。2016年にグループレベルでのタレントマネジメントと後継者計画に着手し、2018年からはエンゲージメントサーベイもスタートさせました。グループ従業員も2万人に近づいて来たのですが、人の能力や資質が見えていませんでした。全員戦力化を考えた時に、プラットフォームを確立し、それを軸に人材戦略を高度化したいという課題感がありました。
神山 全員戦力化に向けて包摂的タレントマネジメントの実現を目指されたというわけですね。意思決定から構築・導入に向けたプロセスについてもお聞かせいただけますか。
小野 まず、意思決定に関して言えば、2016年ぐらいからグループ経営を意識した上で人材戦略の優先課題を巡る議論をしていました。ただ、割と経営リーダーを育成する観点に重きが置かれていました。しかし、「VISION2030」になってからは、さまざまな人たちが活躍できる状態を作る必要があるという方向性に変わりました。それを実現するためには、リアルタイムで状況を把握していかなければいけないということで、人材戦略を遂行する上での投資という位置づけで2020年に意思決定へと踏み切りました。
神山 かなり長きに渡って議論を尽くされたのですね。構築・導入のプロセスはいかがでしたか。
小野 100社超もの連結子会社がさまざまな国に散らばっており、各社で固有のシステムを持っていました。それを置き換える形になるので、それなりの抵抗感がありました。なので、システム導入の必要性を各社のCEOや人事と繰り返し話し合いました。併せて、人事のプロセスも変えなければいけませんし、一気に導入を図るため、それ相応のリソースや手間が要ります。そこは、グループ各国の人事メンバーとマインドの持ち方や想定される出来事について協議しました。さらには、人事部門とシステム部門の協働体制も構築しました。
神山 さまざまなステークホルダーと緻密に打ち合わせをされたことが伝わってきました。ところで、経営層はこのプロジェクトをどう捉えていらしたのですか。
小野 グループ経営をどういう熱量やリアリティを持って見るかは、それぞれの役割によって異なってきます。グローバル経営に直接関わる役員は必然性を強く感じていたものの、国内事業中心の役員からすると実感しにくい面があったようです。「人的資本を統合する能力を人事として持たなければいけない」と働きかけ、最終的には経営としての意思決定をしていただく事になりました。
神山 小野様ならではの青い血(論理)と赤い血(熱意)を駆使されたのですね。他にも、プロジェクトをリードされるお立場から、苦労された点があったのではないでしょうか。
小野 先ほどの各事業本部でのビジネスモデルの違いにどう対応するかもそうですが、他にも二点ほどありました。一つが、グローバル各社との合意形成の難しさです。世界各国のCEO・CFO、人事などのステークホルダーを巻き込み、プロジェクトの意義を理解してもらわなければいけませんでした。もう一つは、プロジェクトの遅延リスクです。期限内に確実に導入するために、プロジェクトのガバナンスを重視しました。
神山 織田様が参画されたのはいつからですか。
織田 私が三井化学に入社したのは2021年12月です。要件定義が一回終わった段階で、まさに、プロジェクトの真只中でした。驚いたのは、国内外のグループ約130社への「ビッグバン導入」である上に、それを2年で一気に行うということ。「本当に可能なのか」と思っていました。ただ、「なぜやらなければいけないのか」という合意形成ができている手応えは感じました。
神山 当事者として指揮されたわけですね。
織田 このプロジェクトの困難だった点として、マルチベンダーだということがあげられます。何しろ、同時に給与や勤怠などのシステムも導入しなければいけません。それによって、難しさが一気に跳ね上がりました。異なるベンダー間のコミュニケーションを円滑にするためにプロジェクト管理体制を構築し、明確なルールを設定しました。
神山 人事システムを入れ替えるとなると人事だけで済まないのではないですか。
織田 そうです。もう一つのポイントは、システム連携の複雑さです。人事システムが他の多くのシステムと連携しているため、変更による影響範囲がかなり広くなります。そのため、システム担当者全員と詳細な打ち合わせを行い、影響が出ないよう細かく詰めていきました。

小野 そこまで褒めていただけると嬉しいです。
神山 国を越えて人事とコミュニケーションを重ね、認識を合わせる。それをやり切るところが、多くの会社との違いだと思います。労働人口の減少や生成AIの浸透などによって、企業は今大きな環境変化に直面しています。そうした中で、不可欠となってくるのがデータ活用です。それに向き合っていきたいという企業は多いものの、まだまだ懐疑的な状況に思えます。三井化学様のような取り組みを広く発信していくことで、環境が変わっていくはずです。
データの民主化の実現をはじめ、多くの成果を創出
神山 二つ目のトピックに移りましょう。ここでは、人材プラットフォームの現状の成果についてお聞きします。織田 プラットフォームを導入したことによって、まずはグループ全体の人材情報が可視化されました。グループの全社員が全グループの組織と人材情報を見ることができます。また、グループの一体感も醸成されました。社員一人ひとりの経歴やスキル、実績などの情報を集約させており、それらを全員が閲覧できるよう「データの民主化」を進めています。
他にも、いくつか進行中の施策があります。一つが、サクセッションプランの管理。プラットフォーム上でサクセッションプランを管理し、リアルタイムで準備率や現地化率を見えるようにしています。もう一つが、地域におけるタレントマネジメントの活性化です。いずれも基盤があるので進めやすいです。
神山 現状の課題感についてもお伺いできますか。
織田 課題は、ビジネスへの影響や効果をどう刈り取っていくかです。プラットフォームを通じて見えるようになった情報を活用して、何ができるのかを各部門に提案していかなければいけません。やるべきミッションは山積みです。
神山 小野様は、人事部門から事業部門の責任者へとお立場が変わられたからこそお感じになっている、人材プラットフォームの価値や活用ニーズがあるのではないでしょうか。

織田 我々としても、リクエストに応えることで事業部門が何を求めているのかを理解できます。そうしたデータの活用を横展開していきたいです。
神山 多くの企業にとって、人事・人材管理システムの導入や刷新は非常に高いハードルです。その理由を私なりに考えてみると、第一に目的の理解化不足が挙げられます。必要なデータや運用体制が定まらず、結果的にシステムが活用されていません。第二がデータ集約の複雑さです。さまざまなデータが蓄積された状況を作るには、データの集約を解像度高くやっていく必要があります。最後が、データの優先順位付けの難しさです。取捨選択をしっかりと行わないといけません。
小野 同感です。
神山 8割ぐらいの企業では、人事業務の効率化を検討しています。ただ、それでは経営陣からするとインパクトが弱いです。その点、三井化学様はシステムの導入に向けて、経営目線や関係各所にその目的に同意を取りに行く体制を作りました。そこがすごく重要であったと思っています。
人事が人や組織にもっと向き合えるよう、人事DXを推進したい
神山 最後のトピックに移りたいと思います。人材戦略のアップデートに向けて、テクノロジーを活用する意義についてお話をお聞きします。織田 人事には、非構造化データが沢山あります。具体的には、評価コメントや採用時の情報、1on1の議事録などです。それらは今、AIとの連携を強化することによって、要約や検索が容易となり、より深く活用できるようになりました。これによって、今後は人に関する情報がプラットフォームにどんどん入っていき、データをベースにしたマネジメントがグローバルで実現されるようになります。そうした人事基盤を整備して、その中で非構造化データもしっかりと取り扱い、人事の施策に活かしていくのが人事DXであり、私が取り組まなければいけないテーマだと考えています。
神山 小野様の想いも引き継がれておられるのではないですか。
小野 人材戦略はすべて経営戦略に紐づきます。三井化学が未来を創造し、成長戦略を遂行していくグローバルスペシャリティカンパニーになるためには、人材ドライバーの強化が喫緊の課題です。その文脈で行くと、あらゆる人材データをリアルタイムで提供するOSがあることを前提にした戦い方が問われます。グローバルな競争相手に追いつき、追い越していける会社を創ってほしいです。私自身は、現場でプラットフォームを活用することにフルコミットしていきます。
神山 私からも企業が人事DXに取り組む意義を二点ほどお伝えしたいです。まず、一つ目です。私自身、「ますます人なり」という言葉が好きなのですが、これからの企業経営において“人”の力が重要になっていくと考えます。今後、さらにグローバル競争や環境の変化、働き方の多様化が加速していく中で、人に向き合う投資が必ずついてくると思っています。そこが、人事DXにつながってくるのではないでしょうか。
もう一つは、優秀人材に力を発揮してもらうための「土壌」を整えることです。企業としての安定的な基盤を作るためにも、DX戦略が必要になってきます。そうした中、One人事は労務、勤怠、給与、タレントマネジメント、ワークフローといった実務領域を一気通貫で支援できる製品群をご用意しています。さらに、各プロダクトの中心には共通のデータベースがあり、情報が分断されることなく一元的に管理・活用できるのが特長です。こうした仕組みを通じて、お客様の人事DXを現場レベルからしっかりと支えていきたいと考えています。
最後に、お二人から人事DXに取り組む人事担当者や経営者に向けて、メッセージをお願いできますか。

織田 二点お話させてください。一つ目は、データがリアルに集約され、見えるようになれば仕事のやり方や文化が変わるということ。そこから始めていくべきです。二つ目は、システムに業務を合わせるといったことがよく言われますが、それは極端だと思います。一方で、業務のデザインもシステム・オペレーションを考慮して行うべきで、IT活用にはそれがとても重要になってきます。
神山 お二人のお話をお聞きして、システムの重要性を従業員全員が理解して導入されたことが最大の成果だと捉えました。そのためにも、さまざまなステークホルダーとデータやシステム導入の重要性、さらには人と向き合う大切さを議論しながら、人事DXを推進していただきたいと思います。本日は貴重なお時間をいただき、ありがとうございました。
協力:One人事株式会社
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