大規模な人事システムの刷新は、社内からの反発も大きく、思うような成果を上げられず、困難に直面する企業は少なくありません。そうした中、三井化学は2023年、国内外においてグループ統合型人材プラットフォームを構築・導入しました。以来、グループ全従業員の能力を最大限に発揮するタレントマネジメントを実践し続けています。

そこで今回は、その大規模プロジェクトがなぜ成功できたのか。人材データを活用することでどのような成果がもたらされているのか。人事労務システム『One人事』を提供するOne人事株式会社 HRTech SaaS事業部 エンタープライズセールス部 部長 神山 直幸氏が、三井化学株式会社 オーラルケア事業部長の小野 真吾氏、グローバル人材部HRテクノロジーグループ グループリーダーの織田 俊治氏にお話を伺いました。(以下敬称略)

【対談者プロフィール】


  • 小野 真吾氏

    ■小野 真吾氏
    三井化学株式会社
    理事 ライフ&ヘルスケアソリューション事業本部 オーラルケア事業部長

    2000年に三井化学株式会社へ新卒で入社。ICT関連事業の海外営業、マーケティング、プロダクトマネジャー(戦略策定・事業管理・投融資など)を経験後、人事に異動。組合対応や制度改定、採用責任者、国内外M&A人事責任者、HRビジネスパートナーを経験後、グローバルでのタレントマネジメントや後継者計画の仕組み導入、グローバル人事システム展開などを推進。2021年4月よりグローバル人材部 部長を経て、2025年4月より現職。事業部門のトップとして活躍。

  • 織田 俊治氏

    ■織田 俊治氏
    三井化学株式会社
    グローバル人材部HRテクノロジーグループ グループリーダー

    事業会社、システムベンダーで人事系をはじめとするシステム導入を経験。その後、2021年12月に三井化学株式会社に入社。現在は同社の人材プラットフォームの管理・運用・活用に携わるHRテクノロジーグループのグループリーダーとして活躍。

  • 神山 直幸氏

    ■神山 直幸氏
    One人事株式会社
    HRTech SaaS事業部 エンタープライズセールス部 部長

    前職、株式会社HRBrainでは営業責任者としてSaaS型タレントマネジメント領域にて100社超の導入を支援。経営層との対話を通じた課題特定と戦略設計を強みに、組織変革と人的資本経営の実装を推進。2025年、One人事株式会社に入社。フィールドセールスとしてエンタープライズ企業を中心に人・組織の成長を軸に価値創出をリードしている。

三井化学小野氏、織田氏・One人事神山氏

包摂的なタレントマネジメントに向け、人材プラットフォームを導入

神山 本日は3つのトピックについてお話をさせていただきます。よろしくお願いいたします。最初は、大規模な人材プラットフォームの構築・導入に向けた挑戦についてです。まずは、三井化学様がグループ統合型人材プラットフォームを構築・導入された背景からお聞かせいただけますか。

小野 背景には、三井化学が人的資本経営の高度化を目指して掲げる長期経営計画「VISION2030」があります。人材ポートフォリオの転換とエンゲージメントの最大化、企業文化の変革の3つが柱です。
三井化学小野氏
神山 これまでも、グループレベルでさまざまな取り組みをされていらしたわけですね。

小野 はい。2016年にグループレベルでのタレントマネジメントと後継者計画に着手し、2018年からはエンゲージメントサーベイもスタートさせました。グループ従業員も2万人に近づいて来たのですが、人の能力や資質が見えていませんでした。全員戦力化を考えた時に、プラットフォームを確立し、それを軸に人材戦略を高度化したいという課題感がありました。

神山 全員戦力化に向けて包摂的タレントマネジメントの実現を目指されたというわけですね。意思決定から構築・導入に向けたプロセスについてもお聞かせいただけますか。

小野 まず、意思決定に関して言えば、2016年ぐらいからグループ経営を意識した上で人材戦略の優先課題を巡る議論をしていました。ただ、割と経営リーダーを育成する観点に重きが置かれていました。しかし、「VISION2030」になってからは、さまざまな人たちが活躍できる状態を作る必要があるという方向性に変わりました。それを実現するためには、リアルタイムで状況を把握していかなければいけないということで、人材戦略を遂行する上での投資という位置づけで2020年に意思決定へと踏み切りました。

神山 かなり長きに渡って議論を尽くされたのですね。構築・導入のプロセスはいかがでしたか。

小野 100社超もの連結子会社がさまざまな国に散らばっており、各社で固有のシステムを持っていました。それを置き換える形になるので、それなりの抵抗感がありました。なので、システム導入の必要性を各社のCEOや人事と繰り返し話し合いました。併せて、人事のプロセスも変えなければいけませんし、一気に導入を図るため、それ相応のリソースや手間が要ります。そこは、グループ各国の人事メンバーとマインドの持ち方や想定される出来事について協議しました。さらには、人事部門とシステム部門の協働体制も構築しました。

神山 さまざまなステークホルダーと緻密に打ち合わせをされたことが伝わってきました。ところで、経営層はこのプロジェクトをどう捉えていらしたのですか。

小野 グループ経営をどういう熱量やリアリティを持って見るかは、それぞれの役割によって異なってきます。グローバル経営に直接関わる役員は必然性を強く感じていたものの、国内事業中心の役員からすると実感しにくい面があったようです。「人的資本を統合する能力を人事として持たなければいけない」と働きかけ、最終的には経営としての意思決定をしていただく事になりました。

神山 小野様ならではの青い血(論理)と赤い血(熱意)を駆使されたのですね。他にも、プロジェクトをリードされるお立場から、苦労された点があったのではないでしょうか。

小野 先ほどの各事業本部でのビジネスモデルの違いにどう対応するかもそうですが、他にも二点ほどありました。一つが、グローバル各社との合意形成の難しさです。世界各国のCEO・CFO、人事などのステークホルダーを巻き込み、プロジェクトの意義を理解してもらわなければいけませんでした。もう一つは、プロジェクトの遅延リスクです。期限内に確実に導入するために、プロジェクトのガバナンスを重視しました。

神山 織田様が参画されたのはいつからですか。

織田 私が三井化学に入社したのは2021年12月です。要件定義が一回終わった段階で、まさに、プロジェクトの真只中でした。驚いたのは、国内外のグループ約130社への「ビッグバン導入」である上に、それを2年で一気に行うということ。「本当に可能なのか」と思っていました。ただ、「なぜやらなければいけないのか」という合意形成ができている手応えは感じました。

神山 当事者として指揮されたわけですね。

織田 このプロジェクトの困難だった点として、マルチベンダーだということがあげられます。何しろ、同時に給与や勤怠などのシステムも導入しなければいけません。それによって、難しさが一気に跳ね上がりました。異なるベンダー間のコミュニケーションを円滑にするためにプロジェクト管理体制を構築し、明確なルールを設定しました。

神山 人事システムを入れ替えるとなると人事だけで済まないのではないですか。

織田 そうです。もう一つのポイントは、システム連携の複雑さです。人事システムが他の多くのシステムと連携しているため、変更による影響範囲がかなり広くなります。そのため、システム担当者全員と詳細な打ち合わせを行い、影響が出ないよう細かく詰めていきました。
三井化学織田氏
神山 お二人のお話を聞きしましたが、密なコミュニケーションというワードがとても印象的でした。導入前に目的がここまで明確化されていて、計画通りに遂行できたという会社はかなりレアです。しかも、運用の段階になると通常は、データ登録やデータ集約、データ活用などの壁が続々と出てくるものです。そこも、許容なき運用体制を構築し、クリアされていてすごく良いロールモデルだと思います。

小野 そこまで褒めていただけると嬉しいです。

神山 国を越えて人事とコミュニケーションを重ね、認識を合わせる。それをやり切るところが、多くの会社との違いだと思います。労働人口の減少や生成AIの浸透などによって、企業は今大きな環境変化に直面しています。そうした中で、不可欠となってくるのがデータ活用です。それに向き合っていきたいという企業は多いものの、まだまだ懐疑的な状況に思えます。三井化学様のような取り組みを広く発信していくことで、環境が変わっていくはずです。

協力:One人事株式会社


この後、下記のトピックが続きます。
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●人材プラットフォーム導入による成果と今後の課題
●現場視点からみえた、人材プラットフォームの価値とは?
●人事DXに取り組む意義と展望

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