8月に厚生労働省より「賃金不払が疑われる事業場に対する監督指導結果(令和6年)」が公表されました。2024(令和6)年に労働基準監督署(労基署)が監督指導を行った結果、賃金不払事案は22,354件、対象労働者185,197人、未払い金額172億1,113万円に上りました。172億円という数字は、中小企業にとっても他人事ではないことを示しています。なぜなら賃金の未払が起きる原因の多くは悪意によるものではなく、日常業務の中での見落としや誤解だからです。ここでは賃金未払が起こる背景、そこから学ぶべき対策をお話しします。

【勤怠管理の落とし穴】2024年の“未払賃金”は172億円! その背景と中小企業が学ぶべき対策とは

労働基準監督署の数字が示す“自社にも起こり得る”という現実

先ほど述べたように、2024年に行われた監督指導結果によると、賃金不払事案は全国で22,354件、対象労働者は18万5千人以上、未払い金額は172億円超に上りますが、業種別にみると、商業や製造業、医療・福祉、接客娯楽、建設、運輸交通など多岐にわたり特定の業種の問題に限られません。

それに、これらの企業は決してブラック企業や倒産寸前の会社だけでなく、普通に経営している事業場でも労働時間や賃金の算定方法に対する知識不足や管理体制の甘さから自身でも気づかない間に法令違反となることも十分あり得ます。

たとえば、小売業の場合、開店準備や閉店後の片付けの時間が記録されていない、医療・福祉の現場では休憩中の呼び出し対応や引き継ぎの時間が労働時間としてカウントされていないなど、様々なところに危険が潜んでいます。

したがって、「うちの会社は大丈夫」という思い込みを捨てて勤怠管理を見直す必要があるのです。

「賃金未払」が起きる原因とは?

賃金未払が起きる原因として多いのが労働時間のカウント漏れです。

先にも述べた「業務の準備や片付け」、「引き継ぎ」、「制服の着替え」など業務上必要な作業や業務命令による待機時間などを労働時間として記録していないケースがあります。以前からの慣習が残っている職場の場合、働いている労働者自身も気づかないまま勤務していることが多いです。

また、残業などを自己申告制にしている職場も要注意です。残業申請がしにくい雰囲気の職場の場合、必要な申告ができず、サービス残業として積み重なっていくことが多いからです。

このような状態で労働基準監督署の監督指導が入ると、賃金未払として指摘を受ける可能性が高くなり、時間外割増賃金となると金額も大きくなるので注意が必要です。しかも、「労働基準法」などの法律は法改正が行われることも多いので、今は大丈夫でも知らぬ間に法改正が行われ、気づかない間に法違反となる可能性が発生してしまうのです。

「賃金未払」を防ぐための対策とは

賃金未払を防ぐためには制度や就業規則を整えるだけでは不十分です。現場で確実に効率的に制度が運用されることが必須となります。

残業時間を含めた労働時間は、自己申告だけではなく、タイムカードやスマートフォンのアプリによる打刻など、客観的に記録を残せるようにします。紙で勤怠管理を行なっている場合は、上司などが定期的に確認する仕組みを作ることが重要となります。

次に、業務の準備行為や片付けに要する時間については、労働時間の定義や作業手順を労働者に説明し、理解してもらいます。たとえば、「当社では制服の着替え時間として5分を労働時間として記録する」というような具合です。

また、職場の掃除時間や品出しなどの業務に必要な作業については、能力に個人差が生まれやすく、業務に必要な時間も個人差が出てきます。したがって、業務の手順については研修を丁寧に行い、作業時間の個人差を減らすようにしていくことが労働者間の不満を減らすことにもつながります。

これらの勤怠管理に必要な事項は就業規則や業務手順書にまとめ、労働者に配布したり、目につきやすいところに掲示したりをすることで周知するように努めましょう。労働者側にも積極的に職場のルールを学んでもらうことが後々のトラブルを防ぐことになりますので、ぜひ実行されることをお勧めします。

いかがでしょう。労働基準監督署による監督指導は「賃金未払がどの会社でもあり得ること」を示していますが、それらのほとんどは悪意のあるものではなく、不注意や法律の知識不足によるものが原因です。しかし、これらを放置すればするほど金額が大きくなり、企業への負担が増します。

したがって、今から職場の勤怠管理の再点検をすることが求められますし、労働者も安心して働くことができる環境づくりが出来ますので、必要に応じて社労士などの専門家に相談しながら安定した経営と快適な職場環境を構築されてください。
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