ひとつ明確に言える共通項は、「強く求められている経営幹部は、経営者のよき参謀となる人である」ということ。BCG日本代表・杉田浩章さんの著書『プロフェッショナル経営参謀』によれば、経営参謀の仕事には3つの要素があるといいます。今回はこの“経営参謀力”に着目してみたいと思います。

「解くべき課題の設定と、潰していくべき論点の見立て」ができる幹部
のっけから耳の痛い話で大変恐縮ですが、社長が参謀幹部に対して不満を持つのは、大きく次の3つの場合が多いです。1つ目は、提案や行動が偏っている場合。判断する際に、幹部が見ている視界が狭かったり偏っていたりするケースです。こうしたケースでは、社長はあなたの話を聞きながら「もっとこちらの側面からのリスクもケアしてほしい」、「他のニーズも含めて考えれば、もっと大きな案件にできるじゃないか」などと思っているかもしれません。
2つ目は、そもそも考え尽くしていない場合。こうしたケースでは「諦めずに、もっと情報収集し尽くしてから言ってほしい」、「本気で成功させようと思っているのか」などと思われてしまいます。
私が“伸びるリーダー”の基本要件のひとつとしてお話ししていることに、「チームでもっとも諦めの悪い奴になれ」があります(自著『あたりまえだけどなかなかできない係長・主任のルール』の帯にも使われました)。チームや会社で、最も粘れる人、最もしつこく考え尽くせる人が、その組織で最も成長可能性のある(そして実際に最も成長する)人です。
3つ目に、時間感覚がずれている(多くの場合は遅い)場合。上述の杉田浩章さんは「メンバー時間」と「リーダー時間」と言っていますが、成り行きで動く(逐次思考)幹部に対して、経営者は常にゴールからの逆算思考で思考・行動しています。そのため、「あの件間に合うのか?」、「そのペースでこの四半期内の目標に到達できるのか?」ということが気になって仕方がないのです。「月末までに完了するなら、今週中にここまでのマイルストーンに到達していなければ厳しくなる」といった状況に対して鈍感、納期死守意識がない、成果達成危機感の薄い幹部というのが、経営者目線で見るとけっこう多いものなのです。
では逆に、経営者に遇される参謀幹部とはどのような人なのでしょうか?
一つには、経営者からして自分が気づかなかった側面に光を当ててくれたり、別の角度からの策を提案してくれたりするような人です。こうしたことができるようになるには、危機意識・違和感、あるいは強い好奇心と洞察力を日頃から意識的に醸成する努力が望ましいでしょう。そのための第一の要素は「議論すべき課題と論点の見立て」ができることだと杉田さんは言います。上記とは反対に、社長が視界に入れることができていなかった部分や、意識を回し切れていなかった点に対して目を配り、抽出・提示をしてくれる参謀です。
VUCAと言われる昨今の事業環境・経営環境の中で、経営者も迷っているのです。事業や現場に最も近い場所にいる幹部のあなたが解くべき課題を設定し、潰していくべき論点の粒度と順序を決めてあげられれば、社長からの信頼は抜群です。
「意思決定のメカニズムとプロセスを組み立てる」ことができる幹部
第二の要素として杉田さんが挙げているのは、「意思決定プロセスのデザイン」ができる幹部。自社の意思決定のメカニズムを理解し、そこへ到達させるまでのプロセスを組み立てるデザイン力、設計力を発揮するのが優秀な参謀幹部です。そうしたプロセスを組み立てる過程で参謀に求められるのは、ある種の直感力だと杉田氏は言います。
『経緯層との議論の中で、「どうやらこのルートが正しいようだから、このまま直進しよう」と判断するのか、「これを続けても前に進まないから、方向転換しよう」と判断するのか。こうした見極めには、緻密ではあるが臨機応変に対応できるフレキシブルなセンスが不可欠となる』(『プロフェッショナル経営参謀』より引用)
私は、これには幹部の皆さんがトップに折々、情報素材や企画の途中経過案を「当ててみる」ことが大事だと見ています。実際にできる参謀は不定期的に、かつ過剰にならない程度に、かなりの頻度でトップにレビューを求めています。「これでどうですか?」とシナリオ案や企画の策定途中段階で非常に上手く聞いているのです。こうしたことができるようになるには、論理思考力・構造化力と段取り力が欠かせませんね。
「経営者を刺激する材料と考えさせる質問を突きつける」ことができる幹部
第三の要素は「議論の誘発」です。経営者を刺激する材料を提示し、考えさせる質問を突きつける。経営層からの反発大歓迎で、既成概念や固定観念から脱出させることが、自社の未来を切り拓き、結果として経営陣から大きく評価されることにつながるのです。私が経営する経営者JP社では経営層・幹部層のキャリア支援・採用や転職の支援を行なっていますが、そのベースの理論のひとつとして「経営人材」、「幹部人材」それぞれの定義を持っています。「経営人材」とは一般的肩書きで言えば社長・役員など経営層の人を指し、「幹部人材」とは部長・課長など中間管理職層を指します。ただし、私たちは肩書きを言っているのではなく、企業組織における役割の違いにアプローチしています。
幹部人材:経営や事業の「目的」・「目標」・「課題」に応える人 VS 経営人材:経営や事業の「目的」・「目標」・「課題」は何かを設定する人
幹部人材:給与を貰う(という意識の)人 VS 経営人材:給与を払う(という意識の)人
幹部人材:会社の「問い」に答える人 VS 経営人材:会社の「問い」を立てる人
「雇われる側の目線」対「雇う側の目線」といえば分かりやすいでしょうか。この違いや差から、決して「幹部人材」として優秀であることの延長線上に「経営人材」がある訳ではないことを認識いただけることと思います。
さてそこで、良き経営参謀とは、自分の立ち位置としては幹部人材立ち位置(中間管理職としての部長、課長等)でありつつ、行為は「経営人材代行」ができる人です。杉田さんも次のように言っています。
『参謀の仕事は、与えられた問いに答えを出すことではない。自ら正しい問いを立て、「なぜ今、それを解くべきか」について経営層と合意形成を図る。さらには問いをつきつけることで、経営層に意思決定を迫ることにある』(『プロフェッショナル経営参謀』より引用)
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