NECグループのコーポレート機能を支えるNECビジネスインテリジェンス株式会社では、 グループ全体のDXを実現すべく、AIおよびデータ分析を中心としたテクノロジー活用を通じて スタッフ業務のインテリジェント化を推進しています。その一環として、2020年より 「全社員DX人材化」の取り組みに着手。全社員を対象としたデータリテラシー研修や 選抜社員を対象とした生成AI人材育成プログラム「虎の穴」といった施策を展開し、成果を上げています。 本講演では、同社の人材育成に関わる木本将徳氏と、日本における人的資本経営、HRテクノロジー領域研究の第一人者である、慶應義塾大学大学院の岩本隆氏にご登壇いただき、DX人材育成の現状や課題、具体的な取り組み事例、またDX化の先にある未来の姿についてお話いただきました。
※本講演は、「第5回 デジタル化・DX推進展」内でのセミナーを講演録としてまとめたものです。
NECグループのDXを担う人材の育成手法とは?
木本 将徳 氏
著者:

NECビジネスインテリジェンス(株) 経営企画部門 ピープルディベロップメント統括部 シニアディレクター 木本 将徳 氏

2019年キャリア入社。AI・アナリティクスチームのマネジメント、ピープルアナリティクスの実践を経て、2023年より現職。人事・人材開発機能の責任者として、NECグループにて推進するジョブ型人材マネジメントの社内実現に注力するとともに、中長期での事業実現・社員のキャリア形成促進に向けたデジタルリスキリングに取り組む。

岩本 隆 氏
著者:

慶應義塾大学大学院経営管理研究科 講師/山形大学 客員教授 岩本 隆 氏

東京大学工学部金属工学科卒業。カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)大学院工学・応用科学研究科材料学・材料工学専攻Ph.D.。日本モトローラ(株)、日本ルーセント・テクノロジー(株)、ノキア・ジャパン(株)、(株)ドリームインキュベータを経て、2012年6月より2022年3月まで慶應義塾大学大学院経営管理研究科特任教授。2018年9月より2023年3月まで山形大学学術研究院産学連携教授。2022年12月より2025年3月まで慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科特任教授。2023年4月より慶應義塾大学大学院経営管理研究科講師、山形大学客員教授。 (一社)ICT CONNECT 21理事、(一社)日本CHRO協会理事、(一社)日本パブリックアフェアーズ協会理事、(一社)SDGs Innovation HUB理事、(一社)日本DX地域創生応援団理事、(一財)オープンバッジ・ネットワーク理事、ISO/TC 260国内審議委員会副委員長などを兼任。

DX人材育成の現状と課題
成果創出には2つの崖壁がある

NECグループのDXを担う人材の育成手法とは?
岩本氏 まず最初に私から、DX人材の育成が現状どうなっているのか、どのような課題があるのかなど、少しマクロな話をさせていただきたいと思います。
実はDX人材に関しては、すべての企業がDXを進められるようにするために、経済産業省が重要な政策として取り組んできました。ご存知の方も多いかと思いますが、まずは2018年9月に『DXレポート~ITシステム「2025年の崖」克服とDXの本格的な展開~』を公表。この中で、このままDXの推進を進めないでいると、2025年以降に最大で年間12兆円の経済損失が発生すると警告しています。しかしその後もなかなかDXが進まないため、2020年10月には経済産業省と情報処理推進機構(IPA)がデジタルスキル標準を策定。さらに2023年8月にはDXリテラシー標準(DSS-L)を改訂し、2024年7月にはDX推進スキル標準(DSS-P)を改訂しました。このデジタルスキル標準の概要についてですが、まずDXリテラシー標準(DSS-L)は、全社員を対象とした、まさにすべてのビジネスパーソンが身につけるべきスキルです。一方のDX推進スキル標準(DSS-P)は、DXを推進するメンバーの役割や習得すべきスキルのことで、具体的にはビジネスアーキテクト、デザイナー、データサイエンティスト、ソフトウェアエンジニア、サイバーセキュリティの5つが挙げられます。このようにDX人材の政策では、人材類型に分けて標準を作っているということでございます。

ここでDXの“X”、つまりトランスフォーメーションとは一体何なのかをご説明します。そもそも「改革」と「変革」という言葉は、同じ意味ではありません。皆さんの会社の中でも、それぞれの違いや本来の意味をきちんと理解せずに使っているケースがあるのではないでしょうか。「改革」とは英語で“Reform”と言い、その意味は「枠組みは変えず、中身をがらっと入れ替える」ということです。一方の「変革」は英語で“Transformation”と言い、「こっちの岸から向こうの岸に行く=枠組みも変える」ことを指します。これはすなわち、従来の延長線上で物事を考えるのではなく、どの岸に向かうべきか、あるべき姿をゼロベースから考えたうえで、変えていくということなのです。そういう意味では、DX=デジタルトランスフォーメーションとは、皆さんの会社がデジタル技術を駆使して、あるべき姿を枠組みから変えていくことと言えるでしょう。果たして皆さんの会社では、それを実践できているでしょうか。

続いてDX人材育成の現状と課題についてお話します。
実は私もDXリテラシースキルを普及させる活動を行っているのですが、全社員に身につけさせるような取り組みは各企業で進んできてはいるものの、一方で遅れている企業もまだまだ少なくないように感じます。またDX推進スキルについても、一定程度の人材数の育成が必要ではありますが、欧米の企業と比較するとまだまだ不十分で、なかでもビジネスアーキテクトに関しては圧倒的に不足しているのが実情です。いずれにしても、DXのプロセスには大きな壁があるため、プロセス全体を見通したうえで、これら一つ一つの壁を超えていく必要があるでしょう。

DXの成果創出には大きく2つの崖壁があると言われています。

出所:『DX動向2024』

NECグループのDXを担う人材の育成手法とは?
成果割合が50%あたりにあるのが第1の崖壁で、成果割合が20%あたりにあるのが第2の崖壁です。取り組み内容として、「アナログ・物理データのデジタル化」(64.7%)や「業務の効率化による生産性の向上」(56.8%)は、第1の崖壁を大きく超えており、一定以上の成果が上がっていると言えるでしょう。一方、「組織横断/全体の業務・製造プロセスのデジタル化」(40.7%)や「既存製品・サービスの高付加価値化」(31.2%)は、第2の崖壁こそ超えているものの、第1の崖壁には阻まれているのが実態です。そして「企業文化や組織マインドの根本的な変革」(26.2%)や「新規製品・サービスの創出」(22.1%)、「顧客起点の価値創出によるビジネスモデルの根本的な変革」(17.7%)に関しては、実現できている会社は2割くらいしかありません。この2つの崖壁をしっかり超えていくことが真のDXであり、そのために何をすべきかが問われていると思います。そういった取り組みについて、本日はNECビジネスインテリジェンスさんの事例から学ばせていただければ幸いです。

課題設定・解決アプローチと
AIベースでの新たなビジネスプロセス

NECグループのDXを担う人材の育成手法とは?
木本氏 NECビジネスインテリジェンスの木本と申します。「NEC」という冠はついております通り、 私どもはNECグループのシェアードサービスを担う会社であり、グループ11万人のコーポレート機能、いわゆる人事、経理、調達など、多くの企業に共通する間接業務を支えています。弊社ではNECグループ全体のDXを実現すべく、生成AIをはじめとしたデジタル技術の徹底活用、『全社員DX人材化』に挑戦中です。本講演では、の取り組みを通じて見えてきたこと、大切だと感じたことを主に3点お伝えしたいと思います。
1つ目は「業務をプロセスとデータを正しく捉えること」。2つ目は「常に新技術との付き合い方を磨き続けること」です。今はAIにフォーカスが当たっていますが、ひょっとしたら1年後には超AIのようなものが登場して、全く違うシーンが訪れているかもしれないからです。最後の3つ目は「AI活用で創出した余力や活力を社会価値に換えていくこと」です。これら3点について、それぞれの大事なポイントをご紹介させていただきます。

まずは簡単にNECグループの紹介をさせてください。私どもは125年の歴史を持つ、技術の力で社会価値を創造する企業グループです。「安全・安心・公平・効率という社会価値を創造し、誰もが人間性を十分に発揮できる持続可能な社会の実現を目指します」というPurposeを掲げ、海底(海底ケーブル)から宇宙(小惑星探査機はやぶさの機器やシステム)まで、世界中の多岐に渡る業種のお客さまに幅広く価値を提供。2013年度からは「第三の創業期」と位置づけ、さまざまなコーポレートランスフォーメーションを実行中です。

続いてNECグループの課題についてお話します。約10年前、私たちは間接費が高騰するという大きな問題に直面しました。当時NECグループは非常に好調な時期を迎えており、事業を拡大させた結果、さまざまな間接業務が肥大化。共通業務の分散・個別最適化が進み、無駄と非効率が招く競争力の低下に陥ったのです。まさに今言われているDXの真逆の方向に進んでいたのが、10年前の状況でした。そうした中、共通業務・要員の集約と、業務の大幅な改革・高度化を目指して、2014年にNECビジネスインテリジェンス(旧社名:NECマネジメントパートナー)を設立。以降、NECグループの業務改革を推進してきました。当初はシステムの力を活用しながら、ペーパーレス化やハンコレス化などを進め、人事、経理、調達、ITなど業務機能ごとの効率化に一定の成果を上げてきましたが、岩本先生のお話にもあったように、なかなかデジタルトランスフォーメーションにまでたどり着かない状況でした。そうした中、救世主として登場したのが、生成AIです。この生成AIを本格導入したことで、10年間の課題解決が一気に前進。重い扉が開かれ、業務改革が飛躍的に進んでおります。

具体的に私たちが行っているのは、業務の標準化の主体をヒトからAIへと転換するという、ビジネスプロセスの再設計です。以前は人事や経理の手続きを行う際にシステムを使ってはいましたが、結局はシステムに入れるのもヒト、そのアウトプットを扱うのもヒトと、どうしても人手を要していました。そうした中、現在はプロセスの標準化とともに、いかにAIを組み込んでいくかということを仮説的に進めています。そのときに活用しているのが「3層モデル」という考え方です。
NECグループのDXを担う人材の育成手法とは?
これはレイヤーをUser Experience(利用者体験)、Operation(業務改善)、Platform(データ・人材)という3層に分けたもので、それぞれのレイヤーに対して戦略的にAIを配置し全体を最適化。例えば一番上のUser Experienceのレイヤーでは、人事の手続きや交通費精算など、かつてはシステム越しにヒトが動いていたさまざまな業務に生成AIを配置するとともに、顧客情報のデータ化、データの標準化、個人の利用頻度やニーズに合わせたパーソナライズ化などに取り組んでいます。さらに、これらを支える基盤となるPlatform(データ・人材)においては、業務内容のデータ化(マニュアル・プロセス)や、業務改革と品質向上のコアとなるデータ基盤の構築等を実施。最終的には全社員を対象とした生成AI人材化を推進し、誰もがデータを正しく扱うことができるようになることを目指しています。

先端デジタル技術の知識やスキルを学ぶ
生成AI人材育成プログラム「虎の穴」

ここからは人材育成の話をさせていただきます。弊社は約10年前に立ち上げた会社と申しましたが、多くの社員はNECグループで長年人事や経理に携わってきた、業務経験が豊富な人材です。しかし、NECグループとはいえ必ずしもITリテラシーは高くないのが正直なところであり、一般的な会社と同じように新しい知識やスキルを身につける姿勢が弱いという課題もありました。つまり、人事、経理、調達などの業務理解は非常に長けており、業務プロセスを組み立てるという部分も大きな強みではありますが、デジタル技術活用は限定的で、IT・データリテラシーも不足していたのです。よって、選抜・自薦の生成AI教育や全員対象のリテラシー研修が不可欠でした。また、自ら学ぶ・自らキャリアを描く意識もまだまだ希薄だったため、IT資格取得の目標設定や、勉強会・コーチングなども重要でした。

そうした中、私たちは生成AI人材育成プログラム「虎の穴イノベーションスクール」を立ち上げました。これは業務環境に応じて選択することができる階層別のプログラムで、全社員が受講可能です。その中心施策である「虎の穴」プログラムでは、各現場から選抜された社員が通常業務を離れ、1カ月間集中して先端デジタル技術の知識やその活用法を学習。これまでに計4期43名が参加し、さまざまな成果創出を果たしました。さらに「虎の穴」以外にも、新入社員がAI活用の基礎を実践する「猫の穴」(配属前2週間)や、全社員の自走向けプログラム「虎の穴ハンズオン」(1回1~2時間)なども実施しています。ちなみに私たちの会社の平均年齢は50歳ですが、学習成果を上げることにおいて、年齢やAI経験は関係ないことがわかってきました。「虎の穴」1~3期生までの32名にアセスメントを行ったところ、業務経験が一定あり、課題意識のある人、柔軟性のある人、粘り強さのある人、行動力のある人が成果を上げやすい傾向だったのです。

「虎の穴」の受講プログラムでは、まず知識をインプットしたうえで、実際に各現場が抱えている問題を持ち寄り、それに対して最適な技術の選択と仮説設定を行います。そこからアプトプット創出→ユーザー評価・修正→効果測定などのサイクルを回すのですが、最も重視しているのはアウトプットです。とにかくアジャイルで、インプットしたらすぐにアウトプットを出す。これを繰り返すことで最終的な成果へと繋げていきます。ご参考までに具体的な成果を紹介しますと、これまでは人力で行っていた問い合わせ業務をポータルサイトを通じてデジタルベースに転換したり、業務プロセスの作成をすべて生成AIに任せたりしています。こうした成果は全社員参加型のウェビナー「イノベーション・クエスト」にて取組事例として発表。業革成果だけでなく周囲から認知されることによる成長実感や、現場実践などにも繋げています。加えて、人事施策として、成果を生み出した社員に更なる活躍機会となる業務アサインメントや、それに応じた処遇(職位・グレード・報酬)に結びつけていくことなどにも取り組んでいます。

最後にまとめますと、社内DX・全社員DX人材化の取り組みから得た気づきとしては、冒頭にもお伝えしたとおり、業務をプロセスとデータから正しく捉えること。生成AI(新技術)との付き合い方を磨き続けること。そして、創出した余力を社会価値に換えていくこと。この3点が重要だと学んだ次第です。私からの説明は以上となります。ご静聴ありがとうございました。


【後半戦はパネルセッションへ】

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