「部下にやりがいを持って業務に取り組んでほしい」と、経営幹部であれば誰もが望んでいることでしょう。しかし、実際の業務と彼らの価値観やテーマ感をどうすり合わせ、結びつけてあげればよいか分からない。今回は、そんな悩める“上司”としての経営幹部の皆さんに、今日から使えるフィードバック方法をご紹介します。
第41回:部下の成長・自己実現を促す“3つ”のフィードバック方法とは

「パーパス」や「自己実現」は綺麗事?

A「仕事にはやりがいが欠かせない!」
B「いや、会社は個人のためにあるわけではないのだから、やりがいや自己実現を仕事に求めるなど甘い」

A「企業にも個人にも、それぞれパーパスが必要だ!」
B「いや、理想を語るのはいいが、現実は厳しいのだ」

さて、皆さんは前者と後者、どちら派でしょうか?

先日、ある場で「企業と個人、それぞれのパーパスが大事になっている」という話をしたところ、「話はよく分かるけど、実際にそのようにできている会社は存在しないのでは?」、「理想論であって、現実的ではない」といった声が複数挙がりました。なるほど、そう思っている人は多いのですね。企業については、「結局のところ、絵空事」。個人については、「個人の希望を言われても、会社と接合しない」という反論や困惑の声でした。

ハーバード大学ビジネススクールのテレサ・アマビール教授らによる、35年に渡る研究で明らかになったのは、「部下やチームにとっての価値観やテーマ、やりがいある仕事が少しでも前に進むように支援することが、個人と組織の創造性や生産性を高めるのに最も効果的である」ということでした。つまり、個人や組織のパーパス・やりがいを支援する(=自己実現を支援する)ことは、理想論でも綺麗事でもなく、結果を出したい上司や事業責任者、経営者にとっては至極実利的なことなのです。

エグゼクティブコーチの國武大紀さん(株式会社Link of Generation 代表取締役)は、著書『その「ひと言」でチームが変わる最高のフィードバック』で、「部下の能力やパフォーマンスを高め、成長につなげるために、部下の自己実現を支援する3つの視点からフィードバックを行うことが効果的だ」と言います。この効果的なフィードバックにおける「3つの視点」について、次の項から詳しく見てきましょう。

部下の価値観を具体化する

一つ目が、<価値観>のフィードバックです。価値観のフィードバックの目的は「部下の仕事に関する価値観を理解すること」にあります。

人の行動は、「価値観」というフィルターに影響されます。仕事上での価値観の影響は、最もわかりやすくは、その仕事に対して意味を感じているか/いないか。あるいは、その仕事が好きか/嫌いかでしょう。こうした意味合いを含めて、皆さんは部下が仕事に対してどのような価値観を持っているか、ご存知でしょうか? まず部下たちの価値観を知ることが、大事なステップだと國武さんは言います。

では、どうすればよいのか? まず、部下に「仕事に対する想いや考え方を聞かせて欲しい」とシンプルに伝え、じっくり話を聞く時間を取りましょう。食事やティータイムでもよいですし、流行りの1on1を設定してもよいでしょう。

「入社した当初、どんな気持ちで仕事に取り組もうと思っていたの?」
「その頃と今を比べると、仕事に対する意識や考え方に何か変化はあった?」
「仕事にやりがいを感じてる? その理由は?」
「仕事が楽しいのはどんなとき? 逆にしんどいのはどんなとき?」
「仕事で大切にしていることは何?」

これらについて、さらに「具体的には?」「例えば?」などと深堀りし、部下の価値観を具体化していきましょう。そして、部下が話し終わったところで、最後に質問します。

「話してみて、何か気が付いたことや感じたことはある?」

ここで部下は自分の言葉で確認することで、言語化の過程で思考が整理され、モヤモヤしていたものがはっきりしたり、何かに気づいたり、悩みが解決したりします。同時に、上司のあなたは、部下がどのような価値観を持ち、仕事に対してどのようなことを考えていたのかを知ることができるでしょう。

部下の成長を支援するために、部下の価値観を深く理解することは、とても大切な第一歩となるのです。

部下の自己実現を社会貢献と接合させる

二つ目が、<視野拡大>のフィードバックです。視野拡大のフィードバックの目的は、「自己実現から社会貢献につなげていくこと」にあります。

仕事での自己実現が部下の成長につながる。しかし、その自己実現とは、決して単なる自己満足とは異なるのだと國武さんは強調しています。私も全く同意します。自己満足や独りよがりではない、発展性のある自己実現へと変化させていくために、視野拡大のフィードバックを行うのです。

視野拡大の問いかけは、例えば次のようなものです。

「あなたの仕事は、どのようにお客様の役に立っていると思う?」
「あなたの仕事は、どれくらい暮らしを豊かにしていると思う?」
「あなたがお客様だったら、あなたの仕事にどれくらい感謝するかな?」

話し終わったら、先ほどと同様、振り返りの質問をします。

「話してみて、何か気が付いたことや感じたことはある?」

自分の仕事がお客様や社会とどうつながっているのか、どう役に立っているのか、想いを馳せてもらいましょう。もちろん、上司のあなたもご一緒に。そうすることで、部下個人の仕事上での自己実現が、「社会貢献」という視点と結びつき、結果として自社のパーパスやミッション、ビジョンにも自然と結びつき、腑に落ちるのです。

部下の挫折を回避、軌道修正させる

三つの目のステップが<軌道修正>のフィードバックです。軌道修正のフィードバックの目的は、「理想と現実とのギャップを解消していくこと」にあります。

部下が掲げた仕事上での自己実現。これを成し遂げていく過程においては、楽しいことやスムーズにいくことばかりではなく、困難や壁にぶち当たることも多々あるでしょう。ここで立ち止まったり、心が折れたりしてしまう人は、自己実現を果たすことはできません。

部下が現実に直面している困難や悩みに対して、上司が部下の応援者として、仕事の価値や今後の前向きな側面について確認を促す。これにより、脱線しそうな状況から軌道修正する道を一緒に見つけ、理想に近づくためのサポートをするのです。

「仕事のやりがいを取り戻す方法があるとしたら、どんなことだろう?」
「いまの仕事に、別の価値や可能性を見出すとしたら、どんなこと?」
「これから数年先を見据えたときに、いまの仕事はどんな価値をもたらしてくれるかな?」
「これまで頑張ってきたことが、ここからの仕事に活かせるとしたらどう活かす?」

このような問いかけによって、部下は脱線しそうな状況から軌道修正して、再び自己実現に向かう道に戻り、これからの道筋を見つけ出すことができるでしょう。

部下のみならず上司の私たちも、忙しさに追われ、困難に直面したりすると、本来の目的や理想を忘れてしまうものです。「そもそも、何を成し遂げたいの?」、「失敗を活かすなら?」、「できないと思っていることが、実はできるとしたら?」、「結果が出るまでのプロセスを教えて」。このような、視点を転換する、あるいはリフレーミングするような質問を平素から携えておき、いざという局面で繰り出してみるとよいでしょう。パッと視界が開けるものですよ。
部下の自己実現は、自己満足でも絵空事でもありません。それを陳腐なものにせず、実際の業務と結びつけながら、発展性のある自己実現へと変えていってあげる必要があります。そのために、経営幹部である皆さんが広い視野を持って部下を見守り、応援し続けることが大切です。その具体的な方法のひとつが、3つのフィードバック。ぜひ活用し、部下の自己実現を支援することで、上司としての皆さん自身も自己実現を果たしましょう。
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