新型コロナウイルス感染症の影響により、今までテレワークを実施していなかった企業も導入を決定したり、中には半強制的にテレワークを始めたりしている。しかし、そのテレワーク導入によって、労働生産性を上昇させた会社と低下させた会社に二分されてしまったようだ。今回は、なぜテレワークがうまくいかないのか、その理由を探りたいと思う。
アフターコロナの新常態とは【3】テレワークでバレた「できない社員」、今こそ鍛えるべき力とは

40%もの企業で労働生産性が低下

先日、レノボ・ジャパン合同会社では、世界10ヵ国(日本、米国、ブラジル、メキシコ、イギリス、フランス、ドイツ、イタリア、中国、インド)の企業・団体の従業員・職員2万262人を対象に、「在宅勤務時の生産性が、オフィスでの執務時に比べてどれくらい低くなったか」を調査した(※1)。
その結果、日本では生産性が低下した企業は40%にものぼり、調査対称10ヵ国の平均13%を大きく上回った。これにより、日本の労働生産性の低さが指摘された。この、労働生産性低下の原因は、「同僚とのコミュニケーション不足」と「勤務先企業のテクノロジー投資不足」とされている。

しかし、「オンラインだからコミュニケーション不足になった」、「会社がオンライン環境を整備しないから」という他者責任が根本的な原因なのだろうか。本当に、労働生産性低下の原因は他にないのだろうか。

私は、労働生産性低下の要因には「社員自身の能力不足」も含まれているのではないかと考えている。これまでのオフィス執務では、多少あいまいな指示でも上司と部下がきめ細やかなコミュニケーションを取りながら方向を微調整しつつ、業務を滞りなく進めることができていた。なぜならば、上司からの指示が多少あいまいでも、部下は業務を進める中で疑問に思った点を、すぐ近くにいる上司に何度でもヒアリングして業務を進められたからである。

また、その反対に、上司から明確に指示はされたが、部下の理解力が低く業務を進めることができない場合も、部下の悩む姿を身近に見た上司の方から、わからない箇所を聞き取って教えつつ業務を進めることができていたからだ。

だがしかし、テレワークとなると自宅に上司や部下がいるわけはなく、疑問に感じてもすぐに聞くことはできず、姿を目にすることもできない。つまり、上司の「不明確な指示」や部下の「理解力不足」を補う、「微調整をしながら」というこれまでの業務の進め方ができなくなったことが、労働生産性が低下した本当の要因だと考える。すなわち、不明確な指示しか「できない社員」、理解力が乏しい「できない社員」が原因でもあると考えられる。

テレワークに向かない「できない社員」は「読解力」不足

テレワークで労働生産性をアップするには、「読解力」を磨くことが重要である。読解力と聞いて、「えっ!」と思った方も多いのではないだろうか。「読解力」とは、「読んで理解する力」のこと。さらには、相手との「会話の意図を察する力」ともいえる。相手の言葉から考えを理解するという点では、「コミュニケーション能力」ともいえるだろう。

また、「読解力」が向上すれば、相手に何をどう伝えれば理解してもらいやすいかがわかるようになるため、「説明力」や「説得力」が上がることにもつながる。例えば、部下の「読解力」が向上して、上司の話や資料から要点を理解することができれば、上司が求める結果を早く的確に出せることになる。また、上司の「説明力」が向上して、部下が要点を明確に把握することができれば、こちらも求める結果を早く的確に出せることになる。

すなわち、「読解力の向上=労働生産性の向上」なのである。故に、テレワークにおいて労働生産性を向上させるためには、業務指示を「出す側」、「受ける側」の双方に、高い「読解力」が不可欠なのである。

なお、「読解力」の必要性を裏づけるエビデンスとして経済協力開発機構(OECD)が、24の国と地域で16~65歳を対象におこなった「国際成人力調査(PIAAC)」という調査結果がある。この調査は、「高い読解力」を有している人ほど上位の役職であったり、高い技術を要する職種についていたりすることを示している。これは、「読解力」が高い社員ほど「できる社員」であることを示唆している。
アフターコロナの新常態とは【3】テレワークでバレた「できない社員」、今こそ鍛えるべき力とは
出典 文部科学省:国際成人力調査(PIAAC:ピアック) ※「調査結果の概要」のPDFを参照のこと(上記の表はP17に記載)
【筆者語注】
「スキルド・ワーカー」:管理職、専門職、技術者・準専門職(仕事に熟練した人)
「セミスキルド・ホワイトカラー」:事務職、サービス及び販売従事者
「セミスキルド・ブルーカラー」:農業、林業及び漁業従事者、技能工及び組立工など

「読解力」をアップさせる3つのポイント

では、「読解力」を身につけるにはどうすればいいのか。それは、毎日1時間でも読書をすることである。ただし、単に読書をすれば読解力がつくわけではなく、「語彙力」、「要約力」、「思考力」の3つを意識しながら読書をしないと効果は得られない。

(1)語彙力
言葉を「どれだけ知っているか」、そして「どれだけ使えるか」という能力である。文章を読むときに、語彙力が低いと文章を正しく理解することはできない。また、相手に自身の意思を正しく伝えることもできない。では、「語彙力」を鍛えるにはどうすればよいのだろうか。

それは、読書をしながら知らない漢字や語句、ことわざなどがあれば辞書やネットですぐに調べることだ。意味を調べることで、その言葉を使っている理由や書かれている内容がわかり、筆者の意図を正しく捉えることができるようになるからだ。

(2)要約力
「文章の趣旨や要点を読み取って、短くまとめて表す力」である。文章の内容や筆者の意図を理解していなければ、要約することはできない。要約できるということは、その文章を正しく理解できているということに他ならないのだ。では、「要約力」を鍛えるにはどうすればよいのだろうか。

それは、読書をする際に「何について書いたものか」や「何を一番伝えたいのか」を考えながら読み進めることだ。また、筆者の視点に立って、必要な情報と要らない情報を整理しながら進めることも必要である。最後に自分の言葉でまとめるとよい。

(3)思考力
「考える力」、「関係づける力」であるが、ここでは「文章をさまざまな角度から読んで理解し、自らの知識や経験に関連づける力」とする方がわかりやすい。人は文章を読むときに、文字では書かれていない情報を自らの知識や経験で補い想像することによって、内容を深く理解できるのだ。では、「思考力」を鍛えるにはどうすればよいのだろうか。

それは、「疑問を持ちながら読み、アウトプットする」ことである。本の内容を深く理解するには、感想をアウトプット(話す・書く)できなければならない。人に説明できないのであれば、単に字面を追っただけであって、本を読めていないことと同等だからだ。また、疑問や気づきを持ちながら読み進めることも、深く理解するためには重要である。

まとめ

今回は、「できる社員」は読解力が高く、読解力を高めるためには読書が必要であることを解説してきた。だが現実は、ビジネスマンの実に36.1%が本を月に1冊も読まないそうである(マイナビ調べ/※2)。この約4割の方々は、「読解力」が年齢と共に低下し続け、新たな知識を得る機会を逸してしまう可能性が高いので、自身が日々「できない社員」に近づいていることに気づけないのではなかろうか。

アフターコロナの世界を見極め、テレワークの流れに乗り遅れることなく労働生産性を向上させるために、例えば、毎週1時間でも就業時間内に読書時間を設けるなどして、「できない社員」の「読解力強化」をはかってみてはいかがだろうか。

※2 ※2 マイナビ 学生の窓口 フレッシャーズ:意外と少ない社会人の読書量、最多は約4割の0冊「忙しい」「ネットで十分」
佐野浩之
ひと・しくみ研究所
社会保険労務士
採用・定着・教育に強い ひと・しくみ研究所
https://www.hitoshikumi.com/

この記事にリアクションをお願いします!