帝国データバンクは2020年6月、従業員の新型コロナウイルス感染を公表した上場企業に対する調査結果を発表した。結果を受け、各企業の感染拡大防止に向けた在宅勤務や臨時休業などの対応が、従業員の感染抑制に大きく寄与した可能性が判明。社会はコロナウイルスとの共存が求められる「Withコロナ」に移行し、今後は事業継続と従業員の健康管理の両立が経営の課題となる。
従業員の新型コロナウイルス感染を公表した上場企業は377社、在宅勤務や臨時休業などで感染ペースは鈍化か

各企業の新型コロナウイルス感染拡大防止策により、5月から6月にかけ感染者数が減少

帝国データバンクの調査によると、従業員への新型コロナウイルス感染が判明した上場企業およびそのグループ企業、関連企業は、2020年6月12日時点で累計377社にのぼった。

グラフを見ると、2月以降、従業員の感染を公表する企業が徐々に増加しているのがわかる。3月は90社以上、感染のピークを迎えた4月には、240社以上の企業が新たに従業員の感染を公表。1日あたりの公表が10社以上となった日は11日間に達し、従業員の感染と公表が相次いだ時期と言える。しかし、4月下旬から5月に入ると、新たに公表する企業が減少。5月は月間累計公表社数が16社となり、従業員の新規感染が大幅にペースダウンした。

同社によると、新型コロナウイルス感染症が急速に拡大した4月までは、各社で在宅勤務制度の導入やマスク着用、アルコール消毒の徹底など、感染防止策を講じつつ勤務体制の維持に努めていたという。しかし、建設や製造業などでは複数拠点で従業員の感染が相次ぎ、各社の感染抑制に限界が見られた。

そのような中、5月の大型連休前後からは、建設や製造業を営む多くの企業の動きが変化。現場や生産ラインの停止・縮小、従業員の一時帰休措置などを実施したという。また、緊急事態宣言の対象範囲拡大や延長に伴い、小売り・サービス業各社でも店舗営業の休止や営業時間の短縮、ソーシャル・ディスタンスが徹底され、従業員の感染防止に重点を置く企業が目立つようになった。これらの感染拡大防止策が、5月以降の感染者の減少につながっているとみられる。
従業員の新型コロナウイルス感染を公表した上場企業は377社、在宅勤務や臨時休業などで感染ペースは鈍化か

「製造業」や「サービス業」、「小売業」など各業種で感染ペースは鈍化

次に、従業員の感染を業種別に見た際、最も感染者が多かったのは「製造業」で129社。次いで「サービス業」が64社、「小売業」が45社となった。このうち、最も報告件数の多い製造業では、自動車や機械、化学、食品など幅広い分野で感染者が発生。バックオフィスや工場などで感染報告があったという。

このような中で、緊急事態宣言の発令により、多くの企業が在宅勤務制度を導入。経済同友会による参加企業250社を対象とした4月の調査では、製造業のうち、国内事業所全体の出勤者を8割以上削減させた企業は約3割、また、5割以上に削減させた企業は約7割にのぼった。

一方、サービス業では、各社が従業員の感染リスク低減に向け、テレワークが可能な部署の在宅勤務制度の導入や、生産部門のローテーション勤務導入などの策を講じた。5月の大型連休前後からは、一斉に休業措置をとった企業も多かったという。また、接客を伴う感染リスクの高いスーパーや飲食店では、入店制限やレジ待機中のソーシャル・ディスタンスを徹底。このほか、飛沫防止ビニールの設置やイートインスペースの閉鎖など、感染対策を強化した。これら一連の取り組みが従業員の感染抑制に貢献したと言える。
従業員の新型コロナウイルス感染を公表した上場企業は377社、在宅勤務や臨時休業などで感染ペースは鈍化か

事業継続と従業員の健康管理の両立が今後の課題に

緊急事態宣言が解除され、東京都が独自で発動していた「東京アラート」も6月12日に解除された。経済活動は徐々に活発化し、街中の人手も増加傾向にある。こうした中で、感染リスクの再燃が懸念されており、実際に製造業や小売業では緊急事態宣言解除後に罹患報告のケースもみられている。これらの業種はいわゆる「3密」を満たしやすく、感染拡大防止に向けて、勤務体制の見直しといった抜本的な対策が急務となっている。

新型コロナウイルス感染症との共存が求められる新たな社会「Withコロナ」に移行した現在。十分な治療法や防疫手段が限られる中で、従業員への感染を完全に防ぐことは現段階で難しく、各社とも引き続き感染リスク対策に気が抜けない状況は続きそうだ。その中でも、自社の事業を継続しながら、従業員の健康の安全をどう確保するか。今後は、事業継続と従業員の健康管理の両立が経営で求められるだろう。

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