近年、多くの企業が人材育成や組織力強化の一環として、従業員エンゲージメント向上に取り組んでいます。しかし、働く価値観やキャリア観が多様化するなか、研修の実施や制度整備だけでは十分な成果につながらないケースも少なくありません。実際、従業員が企業に求めるものは、「待遇」や「制度」だけでなく、「自分らしく成長できる環境」や「働く意味の実感」へと広がっています。これからのエンゲージメント向上においては、企業が一方的に施策を提供するのではなく、会社が個人に寄り添い、一人ひとりの成長や幸福とどう向き合うかが重要なテーマとなっています。企業は日々のマネジメントのなかで、どのように社員と向き合えばよいのか? 本連載では、タカマツハウスが実践してきた人材マネジメントの考え方と取り組みをもとに、「社員との向き合い方」をテーマに全5回にわたってお届けしてきました。最終回となる第5回では、「任せて任さず」をキーワードに、自律型人材を育てるための育成のあり方について考えます。
エンゲージメント向上のカギとなる「任せて、任さず」と「リーダーの役割」

社員を成長させる「任せ方」

メンバーに仕事をどこまで任せ、どこまで関与すべきか。このテーマに悩むリーダーは少なくありません。

「任せたつもりだったのに、思うように進んでいなかった」
「失敗させたくないという思いから、つい口を出してしまった」

そんな経験をお持ちの方も多いのではないでしょうか。

私自身も、かつては同じ悩みを抱えていました。しかし、人材育成に向き合い続ける中で、タカマツハウスなりの育成の考え方を築き、実践できるようになりました。タカマツハウスには、不動産業界以外のさまざまな業界から転職してきた社員が多く在籍しています。リーダーもメンバーも、経験や年齢、価値観は実にさまざまです。一般的には、このような組織は育成に時間と手間がかかると思われがちです。しかし当社は、そうした多様な人材が集まる組織でありながら、短期間で成果を生み出してきました。

その背景にあるのが、当社独自の人材育成の考え方です。代表の藤原は、その考え方を「任せて、任さず」という言葉で表現しています。メンバーに権限と責任を委ねながらも、上司は必要なタイミングで支援し、成長を見守り続ける。「手は放しても、目は離さない」という行動原則です。この考え方こそが、多様な人材の力を引き出し、一人ひとりの成長を加速させる原動力になっています。

「任せて、任さず」とは?

では、「任せて、任さず」とは、具体的にどのような考え方なのでしょうか。一言で言えば、「重要な仕事は思い切って任せる。しかし、必要な場面ではディテールにまでしっかり関わる」というマネジメントの姿勢です。代表の藤原は、この考え方を説明する際に、アメリカ先住民に伝わるとされる「子育て四訓」をよく引用します。当社ではこれを人材育成に当てはめ、次のように捉えています。

・乳児はしっかり肌を離すな (新入社員)
・幼児は肌を離せ、手を離すな(業界未経験の社員)
・少年は手を離せ、目を離すな(業界経験のある社員)
・青年は目を離せ、心を離すな(チームリーダー)


例えば、乳児にあたる新入社員の場合、入社したての社員は右も左も分からないわけですから、リーダーだけでなく、社員全員が声をかけ、寄り添うことが安心感につながります。幼児にあたる未経験の社員は覚えたことを一人でやってみる段階です。しかし、まだ想定できないことも多いため、ゴールと課題を共有しながら、一緒に歩む必要があります。少年にあたる経験のある社員は一連の業務を一人でこなすことができます。自由に任せつつも、致命的な失敗や遠回りにならないようしっかり目を配ります。

そして、青年にあたるチームリーダーは、営業スキルよりも、メンバーとの関係性やチーム運営に課題を抱えがちです。ですから、上司との定期的な1on1やフィードバックが欠かせません。このように、その人のステップによって「何を重視するか」は変わるもの。ステップごとに具体的な行動を促すのが本来、上司の立場なのです。このとき、大切なのはメンバーがどのステップにいるかを「見極める」ことです。思考やスキルは年齢や経歴だけでは一概に判断できません。電話や接客の声や表情、スケジュール管理や目標に対する姿勢などに日頃から声をかけ、コミュニケーションをとることが、ステップを知る手がかりとなります。

「任せて、任さず」を支えるリーダーの役割

さて、「任せて、任さず」を実践する上で、最も重要なのはリーダーの役割です。多くの場合、リーダーに抜擢される人は、もともとプレーヤーとして優秀で、自ら成果を出してきた人です。そのため、つい「自分でやった方が早い」と考えてしまいがちです。

しかし、リーダーになった後もこの発想を引きずると、二つの落とし穴にはまりがちです。一つは、「自分でやった方が早い」と、仕事を抱え込みすぎてしまうこと。もう一つは、逆に「任せることが大事だ」という意識が先行するあまり、任せた後のフォローが手薄になり、結果的に“任せっぱなし”になってしまうことです。特に後者は注意が必要です。部下に仕事を任せた後、適切なアドバイスやフォローを行わず、結果だけで評価してしまうと、メンバーは成長の機会を失ってしまいます。リーダー自身が成果を出すことだけに意識を向けるのではなく、部下が成果を出せるよう支援することこそが、本来の役割です。当然ながら、これではメンバーは育ちません。「任せて、任さず」とは、仕事は任せるものの、人の成長には最後まで責任を持つ姿勢なのです。

リーダーの役割は、メンバーに任せる仕事の背景や意味を丁寧に伝え、「これは自分の仕事だ」と感じてもらえるように動機づけること。そして、適切なタイミングでサポートし、メンバーの成長を後押しすることです。当社では、リーダーが一人でバリバリ働いて成果を上げることは求められていません。

むしろ、どんな時でもメンバーの声に耳を傾けられる「余裕」が必要だと藤原は語ります。というのも、リーダーのところに来る報告や相談は「重要で緊急」なものだからです。リーダーが常に忙しそうにしていては、メンバーは声をかけにくくなってしまいます。だからこそ、「余裕のある姿」も、リーダーの大切な役割のひとつなのです。

最後に―─エンゲージメントの本質は“心のつながり”

最終的にメンバーが成長し、一人でしっかりと成果を上げることができるようになったとしても、「心を離さず」という姿勢が何よりも大切です。成果が出ない時に誰かが見てくれていること。何かあった時にすぐに相談できる人がいること。それが仕事に向き合う力の源になります。そして、それこそが、社員のエンゲージメントの本質ではないでしょうか。

繰り返しになりますが、落ちこぼれていく社員は、決して自ら望んでそうなっているのではありません。何らかの問題を抱えて、助けを必要としているのです。そんな社員をひとりぼっちにしない。そのためには、コミュニケーションの企業文化を育み、困っている社員を見逃さない仕組みづくりが重要です。社員同士が心のつながりを持ち、組織の一員として能力が発揮できること。それは、社員にとっての幸せ、そして会社としての高いパフォーマンスの持続にもつながっていくのです。
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