カスタマーハラスメントにつき、2025年に改正された「労働施策総合推進法」の施行が2026年10月1日に迫ってきた。人事労務担当者としては、法施行に間に合わせようと汎用的なマニュアルを流用することを考えてしまうかもしれない。しかし、たとえ時間が掛かったとしても、クレーム対応の本質的課題を設定した上で、その課題を解決するための施策を模索することを勧めたい。その方が、各職場の従業員が腹落ちをして、クレーム対応の自走化が図られるだろう。
【2026年10月「カスハラ対策」義務化】“マニュアルの限界”を超え、本質的課題から現場を変える方法

クレーム対応は「適応課題」である

カスハラ対策について、「▽クレームが正当かどうかの判断ができない」、「▽各店舗での被害状況を把握することが難しい」、「▽カスハラ対策のノウハウがなく、どう取り組んだらよいのかが分からない」、「▽企業規模からカスハラ対策に経営資源を割けない」といった企業の悩みが聞かれる。

「改正労働施策総合推進法」は、事業主に対し、相談の受付・対応をするための体制整備やカスハラへの対応の実効性を確保するために必要なその抑止のための措置その他の雇用管理上必要な措置を義務づけている。この雇用管理措置の具体的内容は、「カスハラ指針」(令和8年2月26日厚生労働省告示第51号)や「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」(厚生労働省)に書かれているものの、改正法の施行前に、人事労務担当者が準備を完了しなければならないと焦りを覚えることは理解できる。

しかし、一度立ち止まって、自社の状況を省みてはどうだろうか。

●環境変化の激しい市場において硬直的な顧客対応をする組織文化が形成されていないだろうか?
●現場からの情報が他部門や経営陣に伝達または共有できているか?
●クレームの発生は、自社の製品・サービスや接客の態度・スキルも原因となっていないだろうか?
●顧客対応のスキルが属人化しており、未経験者には共有されていないため、接客に問題が生じていないだろうか?


以上のような状況が見受けられたら、クレーム対応の解決のみを考えるのではなく、課題設定から検討してみよう。

2022年版「中小企業白書」(第2-3-87図)によれば、「リーダーシップ研究者である、ハーバード大のR.ハイフェッツは、世の中の問題は、既存の解決策が応用できる『技術的課題』と、当事者自身が問題の一部であることから、既存の解決策の応用では効果が無く、解決には当事者のマインドセット自体を変える必要がある『適応を要する課題』に二分されるとし、リーダーが陥りやすい誤りは、『適応課題』に対して『技術的課題』の解決策を当てはめて解決しようとすること、と指摘」した上で、「『適応課題』に対処することには当事者が対話を通じて問題の定義や解決策を探求し、自分達の捉え方や思い込み、習慣を変えることが必要と主張」している。

クレームの内容または手段・態様が不相当である例は上記の指針やマニュアルにも書かれている。しかし、顧客の言動を自社の実情に当てはめてみると、自社にとってカスハラとは何かがはっきりしないという事態に突き当たるかもしれない。

このような場合には、問題の発見のために学習が必要となり、悪質クレームの発見には現場の声を収集する必要がある。

それにもかかわらず、クレーム対応が問題の定義が明確である「技術的課題」であるとして汎用的なマニュアルから解決策を求めようとしても、自社におけるクレーム対応では奏功せず、そのためノウハウ不足という認識に至ってしまうだろう。

そこで、クレーム対応は「適応課題」であると意識することを勧めたい。適応が必要な課題で解決策が分かっていないのであれば、クレームの一部には、製品・サービスの問題点、従業員の心構えや姿勢も影響していることを認識することが第一歩となる。この場合、個々の従業員、ひいては組織固有の価値観を変えないと解決しないだろう。

そのため、まずは現場の声から自社が関与する原因を含めてクレームの真因を分析した上で、課題設定をする。課題設定に時間を要するとしてもこれを厭わないことが肝要だ。

クレーム対応の課題解決法とは

クレーム対応のノウハウがないように見えるのは、各職場に埋もれているノウハウを把握できていないからではないだろうか。

そこで、クレームの内容や手段・態様(特にグレーゾーン)、その原因(接客の問題点を含む)を見える化し、属人化したノウハウをマニュアル化すれば、それは一定の解決策となる。マニュアルを全社に水平展開する、接客研修を実施することを通じて、クレーム対応の方法を教えると、その知識や技術を適切に使うことによって解決できるようになる。これにより「技術的課題」の解決策が一応できたともいえる。

しかし、マニュアルを作ればそれで終わり、ではなく、「適応課題」が解決していなければ、製品・サービスの問題点は残ったままとなる。また、顧客側または企業側の状況が変化すれば、適応が必要な課題もまた変化する。例えば、新製品販売時や価格改定時という変化に伴いクレームが増えるといわれている。そこで、変化する情報の共有、変化した状況に柔軟な対応をする知識や技術の習得をしていくことが必要だ。

そのためにも、既存の思考様式を変えて行動を変える、また職場での探求と学習をする。それにより、継続的に、問題を発見して、適応が必要な課題の解決策を模索することが必要となる。

このように個別の対応方法や変化したクレームへの対応は、職場内で時間を掛けて対話しないと進まない。その間は実験を繰り返すことが必要であり、時に失敗することがあるかもしれない。しかし、失敗しても教訓を導き出して試行錯誤すると、クレーム対応の方向性が見えてくる。これを「知的な失敗」という。

上から下へのコミュニケーション、下から上へのコミュニケーションと横や斜めのコミュニケーションにより、真因遡及や顧客対応からの学習をすることは、各職場の自主的活動として組織全体で継続させなければならない。そのため、役割の見直しや心理的安全性を確保して実験ができる環境づくりが必要となる。支援体制が整わないと、職場の変化も期待できない。

企業と顧客との関係は千差万別である。マニュアル通りにいかないことが多い。とはいえ、サービスの失敗が起きることを前提に、従業員の価値観を変えつつ、本質的課題を見極めて、具体的なケースにおける解決策を考えていくことが必要だ。これを不断に続けていくと、クレームの発生を減らすことができるし、たとえ失敗しても顧客ロイヤルティを維持することができるだろう。
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