
1. フリーランスブームも沈静化
制度面でも「フリーランス新法」が2023年に公布、2024年11月1日に施行され、その社会的地位も確立したかのように見える。企業に縛られず、自分のスキル一本で生きることは、最も合理的で時代の先端を行く働き方として、脚光を浴びてはいるが、その風向きも変わってきているようである。【2024/11/1施行 フリーランス新法とは】義務化された7項目と実務を解説/社労士監修コラム集
ニュースでも「フリーランスから会社員に戻る」という、いわば「Uターン組」が増加傾向にあると報道されることが多くなったようにも感じる。この現象は、単なる一過性のトレンドではなく、ブームの裏で隠されていた“フリーランス”という働き方の本質的な厳しさと、急速な技術進歩、特にAIブームがもたらした新たなリアリティを映し出しているのかもしれない。
2. フリーランスに隠れていた生存競争の厳しさ
フリーランスがもたらす「自由と裁量」という言葉や概念は、非常に魅力的な響きがある。通勤の満員電車からの解放、フリーアドレスでの仕事、仕事量と収入の自己決定権などなど。これらは疑いなく大きなメリットに違いない。しかし、多くの人が肌身で感じたのは、「自由とは究極の自己責任と終わりのない競争である」という厳しい現実ではなかったのか。例えば次のようなネガティブな事項の体験である。
●不安定な収入との闘い
●本業以外の雑務の増大
●スキルの陳腐化への恐怖
「常に能動的に仕事を取り、自分の専門性を磨き続け、クライアントと対等に交渉できる」人、つまり、これらの活動が日常的にできる一握りのハイパフォーマーにとって、フリーランスは「自由と裁量の楽園」たり得るだろう。彼らにとって会社組織は、むしろ自由な活動の足枷だったからである。
しかし、大多数の「自由」に憧れてフリーランスに参入した人たちにとって、この世界はエーリヒ・フロムの「自由からの逃走(Escape from Freedom)」の世界、つまり、自己決定の重荷と絶え間ない不安から逃れたいという心理が働く場となってしまったとも言えよう。
3. AI時代の到来による生存環境の激変
このような会社へのUターンに拍車をかけているのが、昨今の生成AIブームである。ChatGPTに代表される生成AIは、情報収集整理や画像の生成、簡単なプログラミングなど、フリーランスが担ってきた業務の多くを瞬時にかつ低コストで代替可能にしつつある。特に影響が大きいのは、ルーティンワークや簡単な翻訳やデータ入力といった定型的タスクを請け負っていた層の業務、クライアントが求める生成AIでは代替できない「戦略立案」、「高度な交渉」、「深い専門知識に基づく判断」といった、真に属人性の高いスキルを保持していない層の業務、などは淘汰されてしまうことになるだろう。
このような環境変化は、フリーランスにとって「自分のスキルが今後も市場価値を持ち続けるか?」という、根源的な問いを突きつけている。会社員であれば、組織内でリスキリングの機会や新たな職務を与えられる可能性もあるが、フリーランスにはそのようなセーフティネットはない。「やり直しがきく若いうちに、安定した環境で再教育を受けたい」と考えるのは極めて合理的な判断だと言えよう。
4. 会社員という「セーフティネット」の再評価
フリーランスの大きなうねりの中で影が薄くなった感のあった「会社員」という働き方が、再評価されつつある。会社は、「安定した給与や賞与」、「社会保険」、「休暇」、「教育研修の機会」、「ブランド力」という、極めて強固なセーフティネットを社員に提供しているのである。AIがコモディティ化を加速させる現代において、これらの組織的なサポート体制は、改めて大きな魅力となりつつあるのだ。このように考えると、結局のところ、フリーランスという働き方が天国だと感じられるのは、全ワーカーの一握りのトッププレーヤーに限定されてしまうのだろう。多くの人にとって、組織に守られながら、自分の専門性を高めることに集中できる会社員という道は、自己実現と生活の安定を両立させる最も現実的な選択肢であることが、図らずも証明されつつある。
「自由」とは美しい響きを奏でる言葉だが、その裏には過酷な生存競争が待ち受けているのである。それに直面した多くの人々は、安定した組織に戻るという賢明な後退を選択しつつある。このUターンブームは、働き方の未来、そして会社の在り方を探るうえで、極めて重要な教訓を私たちに与えている。
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