従来型の新卒採用が大きな転換点を迎えています。学歴や経歴などの「過去の実績」を重視した選抜では、入社後のミスマッチや承諾率低下といった課題を、根本的な解決に導くことはできません。こうした事態を打破するために今、企業に求められるのは、候補者の「活躍の可能性」を対話から見極め、自社との良好な関係を築く新たな採用のあり方ではないでしょうか。

本記事では、採用を人事の業務から「経営・事業戦略の中核」へと再定義し、ニトリやレノバで採用改革をリードしてきたトイトイ合同会社 代表社員 永島 寛之氏と、データとマーケティングの視点から採用の仕組み化を支援する株式会社グローアップ 代表取締役社長 加藤 佑基氏の対談をお届けします。

従来型採用の限界を乗り越え、企業と個人の双方が納得感を持てる次世代の採用について、実践知と展望を語っていただきました。

【対談者プロフィール】


  • 永島 寛之氏

    ■永島 寛之氏
    トイトイ合同会社 代表社員

    早稲田大学商学部卒。東レ株式会社に新卒入社し、BtoBマーケティングとセールスに従事。その後、ソニー株式会社でグローバルマーケティングを担当し、アメリカ駐在(ソニーUSA)を経て2013年、株式会社ニトリホールディングスに入社。似鳥会長のもとで組織・人事責任者として、採用、育成、人事制度改革を指揮。再生エネルギー発電所開発の株式会社レノバで執行役員/CHROを経て、2023年2月にトイトイ合同会社を設立。「個人の成長」を起点とした未来組織開発を支援している。

  • 加藤 佑基氏

    ■加藤 佑基氏
    株式会社グローアップ 代表取締役社長

    東京都市大学経営システム工学科卒。研究内容は「価値観を考慮したニューラルネットワークによる早期離職の構造モデルの提案」。グローアップに入社後、中途人材領域での営業を経験、経営企画室及びマーケティンググループを立ち上げ。全社のマーケティンググループ及びサービス開発等を統括した後、キミスカの事業部長を経て、代表取締役に就任。「活躍人材採用」をキーワードに母集団形成だけではなく、採用全体に向けたコンサルティング支援を推進している。

トイトイ合同会社永島氏・グローアップ加藤氏

内定承諾率の低さが突きつける「選抜モデル」の限界

永島氏:先日、人材マネジメントに深い知見を持たれている、学習院大学の今野 浩一郎名誉教授にお会いしたのですが、その際「日本の新卒一括採用は素晴らしい発明だ。その優秀さは若年層の低い失業率に表れている」という趣旨の指摘をされていました。私も完全に同意します。職務経験のない人材をポテンシャルで採用して育てる仕組みは、非常に素晴らしいものだと感じています。

一方で、批判の的にされることが多いのも事実です。問題の本質は制度そのものではありません。運用が何十年もの間、アップデートされていないことにあるのではないでしょうか。かつての集団就職の時代から続く、画一的なスケジュールで大量の学生を集め、効率的にふるいにかける運用スタイル。これが現代の価値観や労働市場の変化と合わなくなり、大きな歪みを生んでいるのです。
トイトイ合同会社永島氏
加藤氏:非常に納得できます。多くの企業がいまだに、母集団形成の課題に縛られています。採用計画を立てる際は、まず目標採用人数を決め、そこから過去の内定承諾率や選考通過率を逆算して、必要な母集団の数を弾き出します。足りなければエントリー数を増やそうとする。

しかし、売り手市場が加速する状況では、量を確保するアプローチは物理的な限界を迎えつつあります。母集団形成という入口の数字に固執するあまり、本来向き合うべき本質的な課題が見過ごされていると感じることは少なくありません。

永島氏:採用の現場で起きている最大の問題は、内定承諾率の低さにあると捉えています。一般的に内定承諾率が3割程度と言われており、つまり、多くの企業は7割辞退されることを前提に動いている。非効率でもったいないことのように思えます。

承諾率が上がらないのは、採用活動を企業が学生を評価し選抜する場にしているからです。今求められているのは、学生との良好な関係を築く採用です。ご存じのようにHRはHuman Resources(人的資源)の略ですが、私はHuman Relations(人間関係)と定義し直したいと考えています。個人の自律が求められる現代では、企業と個人はフラットな関係。採用とは、その最初の関係性構築のプロセスであるはずです。

学生は、面接での対話を通じて、この人たちとなら良い関係が築けそうだ、ここなら成長できそうだ、と感じた企業を選びます。内定承諾率が低いのは、諸条件で負けたからではありません。この関係構築ができていない証拠なのです。

加藤氏:現場でもその負のスパイラルを強く感じます。採用がうまくいっていない企業は、関係性の質を高めるという重要な点になかなか手が回っていないのが実情です。通常、さらに量を求めてスカウトを増やそうとします。ダイレクトリクルーティングなどのツールを使っても、学生一人ひとりに向き合う時間をつくりきれずに、すべての学生に一斉送信的な定型文を送ってしまっているケースは増えてしまっている印象があります。

永島氏:スカウトになっていないスカウトを受け取っても、応募しようという気持ちは生じないでしょう。

加藤氏:その通りです。学生からすれば、自分を本当に必要としているのか分からない通知ばかりが届くことになります。その結果、反応率は下がり、企業はさらに数を打たなければならなくなる。これではお互いに疲弊するだけです。

採用担当者が、母集団の数や歩留まりなどの数字の管理に追われ、肝心の目の前の候補者との対話に時間を使えていないことが多いのです。まずはこの構造的な限界を認識し、量から質へ、選抜から関係構築へと、舵を切る勇気を持つ必要があります。

永島氏:採用プロセスを単なる選考として運用しているうちは、どれだけツールを変えても結果が変わらないのは明白です。採用を関係構築の場と再定義し、そのためのコミュニケーションを設計する。そうすることが、次世代の採用スタンダードの第一歩になるはずです。

面接は「対話」をする場へ。候補者の未来を共に描く、新しい選考体験のデザイン

加藤氏:コミュニケーションの設計は、候補者体験(Candidate Experience)をどう作るかという視点そのものです。多くの採用担当者は、エントリーを100件集めることには熱心です。しかし、候補者にどのような感情を抱いてほしいか、どのような体験を提供したいかまでに考えが及んでいるケースは稀です。採用のフローにもテコ入れは必要だと思いますが、簡単なことではありません。
グローアップ加藤氏
永島氏:体験の質を決めるのは、面接の中身です。私が採用責任者として変えたのは、採用のフローというよりも、面接で話すテーマでした。従来型の「選ぶ・選ばれる」の面接から脱却し、お互いにどのような成長ストーリーが描けそうかを話し合う場へと転換を試みました。このため、面接官には「採用しにいかないでくれ(売り込まないでくれ)」と伝え、徹底して未来の話をするよう求めたのです。

企業には中長期の事業計画という確固たる未来があります。しかし、学生の未来はあやふやなものです。将来何をやりたいかと尋ねても、明確に答えられないことがほとんどでしょう。だからこそ、面接という場を通じて、学生のぼんやりとした未来像を明確にする手助けをする。それが、今の時代に求められる面接だと考えます。

加藤氏:なるほど。しかし、現場ではどうしても「落とすための見極め」に意識が向き、リスクヘッジのための質問を繰り返してしまう傾向があります。面接官自身が、どのようなスタンスで臨むべきか迷っていることも多いようです。

永島氏:対話を成立させるためには、面接官自身の自己開示が不可欠だと思います。いきなり「自己紹介してください」と大上段に構えることを避け、まず面接官自身が名乗ります。なぜこの会社で働いているのか、どういう思いを持っているのかを語る。そこから始めなければ、対等な対話は生まれません。尋問のような面接からは、何も生まれないのです。

また、私は「緊張感ゼロ」の場作りも大切にしていました。過度な緊張状態ではその人の本来の姿は見えません。もし候補者がガチガチに緊張しているなら、一度休憩を挟んで最初からやり直すくらいの配慮があっても良いと思いますし、実際にそうしている面接官もいました。よくある、学生をずらりと並べて順番に答えさせるオーディションのような集団面接は、選抜には効率的かもしれませんが、関係構築の観点からは逆効果です。

加藤氏:本来であれば、面接ごとのアンケート結果や辞退理由などの定性データを分析し、どの面接官のどのような対話が候補者の志望度を高めたのかを検証すべきです。数字のデータのみにとらわれず、コミュニケーションの質を分析し、プロセスを改善していくサイクルが回せるようになれば、採用の質は劇的に変わるはずです。

永島氏:これからは、会話の中で違和感がないか、一緒に働けそうかを互いに確認し合うスタイルが主流になってほしいと思います。対話を通じてファンになってもらい、結果として「一緒に働きたい」という合意形成に至る。承諾を得るという行為すら必要ないくらい自然な着地を目指すのが理想的です。

協力:株式会社グローアップ


この後、下記のトピックが続きます。
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