企業において、「人を扱う仕事」が今、劇的な変化を迎えています。様々な業務に対し、AIが介在し始め、そのスピードも規模も、もはやツールの延長では収まりません。ある製造企業では、社員のスキル・業務履歴・キャリア志向をAIが統合管理し、最適な配置を数分で提案する仕組みを構築しており、人事担当者は他の仕事(交渉や調整、予想など)の時間を得ています。

少し昔、第三次AIブームが起きた2010年前後においては、多くの企業でAIは、採用スクリーニングやチャットボットによるFAQ対応など「一業務の効率化」として導入されてきました。しかしながら、2022年11月のChat GPTの一般公開を皮切りに、急速に拡大した今回の波は、人々や人事部門の働き方を大きく、そして、無意識に変えようとしています。この記事では、人事領域を例にとって、AIの業務適用における特徴、導入遅れによるリスク、変革リードの中における人事の役割などについて述べていきたいと思います。
AIエージェントがもたらす人事の役割変化とは

「個別業務を助けるツール」から、「人・プロセス・情報を結びつける基盤」へ

今回のブームは、2つの大きな特徴があると考えています。1つ目の特徴は、AIはもはや「個別業務を助けるツール」ではなく、「人・プロセス・情報を結びつける基盤」として機能していることです。

これは、人に代わって作業をする「AIエージェント」の登場によるためです。人の仕事を、極限まで抽象化してしまうと、「指示を受ける」、「情報を収集する」、「まとめる」、「チェックする」、「記録する」といった流れになろうかと思います。要は人が、情報をつなげたり、加工したりしている。という見方ができます。AIエージェントは、人の代わりに、複数のシステムにログインして、情報を取得してまとめてくれたり、抜けている項目はなにかをチェックして、やりとりをして埋めてくれたり、最後は、人の承認を経て、記録する(システムに登録する)ところまでを代替してくれるようになりました。

また、世に出ている各種パッケージシステムも、AIとのやりとりを前提としたつくりになっており、よりAIが人の代わりとして、人・プロセス・情報を結びつけるようになってきています。例えば、異動対象者のリストを自動で取得して加工し、漏れや不整合な情報を確認・再取得したうえで問題がなければ人事システムに発令を打つといったようなケースです。

このように、今回のAIは、一昔前の採用のスクリーニングツールのように、「履歴書を読んで仕分ける」という個別業務を助けるちょっとしたツールではなく、「人になり代わって、プロセスや情報(システム)を結び付けて仕事をする」という特徴があります。
AIエージェントがもたらす人事の役割変化とは

AIは無意識に浸透していく

また、もう1つ、今までの新しいテクノロジー適用と異なる特徴があると考えています。それは、無意識の浸透で、極端な言い方をすれば、「気がついたら、便利なので、様々な業務でAIを使っていました」という入り方をしているように見えます。わかりやすいイメージとしては、「ある日、気がついたら、毎日使っているExcelに、AIが既に入っています」や、「新入社員は人に問い合わせるのではなく、有志が作ったAIに問い合わせてガイドを得ているようだ」のようなものです。

よく、お客様から「AIを適用する際に、どのようなことを意識すれば進みますか」とご質問を頂くのですが、きっかけさえつかめれば、あまり意識しなくてもどんどんと浸透をしていって当たり前のプラットフォームになっているのではないかと考えています。本論からはずれるかもしれませんが、私は、数年後には、企業の主要業務の9割以上は、AIに依存する形になると考えています。これは人事業務に限らずそうなっていくでしょう。もちろん、そのきっかけを掴むこと、きっかけを興すことが大変で、場合によっては起爆剤を使うことはあるかもしれませんが、今までのAIのように開発行為を伴うのではなく、ユースケースによっては、外部に依存しないケースも増えてきました。
AIエージェントがもたらす人事の役割変化とは

AIの導入が遅れると、どんなリスクがあるのか

次に、AIの導入遅れによるリスクについて目を向けていければと思います。例えば米IBMでは、AIの導入により、会社全体で、35億ドルの生産性を向上したと発表しています。人事だけに目をむけても、40%の生産性向上を達成しているのです。ここで生まれた余力を、投資に回して成長につなげるわけですから、取り組みがなかったと想定した場合の機会損失は、想像よりも遥かに大きいと考えます。

これは、IBMに限らずとも、同様同規模のストーリーは2025年の後半から、多く目にするようになりましたし、私が接しているお客様も、およそ20%~40%の人事部門の生産性向上を掲げて、様々な取り組みを開始されていますので、2026年中盤から後半には、ある程度、蓋然性をもった成長ストーリーとして世に出てくるように思います。そして、2027年頃には、ある意味「当たり前」の世界が待っているのだと思います。

また、今回、気を付けなければならないのは、前述のように、 「人・プロセス・情報を結びつける基盤」と「無意識に浸透する」という特徴があることから、他社と比較して浸透していないリスクに気が付きにくいという点は注意しないといけません。ある日、業界の取り組み情報を他社から仕入れたら、周回遅れになっていたということは避けたいと思います。

AI時代における今後の人事の役割

では、誰が変革のリードをするのか。今回のAI適用のベストなアプローチは、(1)市民開発、(2)トップマネジメントによる場の醸成の組み合わせと考えています。

市民開発については、皆さんも肌感があるかと思いますが、「社内の有志がつくったAIの仕組みが、かなりいいらしい」や、「社内で長年やっている改善活動が、AIだらけになってきた」などよく耳にする話です。米国でエンジニアの単価が下がって紙面をにぎわしていますが、構築のハードルはますます下がってきています。

また、これに加えて、トップマネジメントは、このような活動を推進する「場」の醸成をしていくことが大切です。具体的には、プラットフォームの提供にとどまらず、「評価・推奨する制度」「最低限のスキルを気軽に習得できる機会の充実」、そして「AI利活用文化の醸成」「明瞭なAIガバナンスの制定」「CoEなどのサポート体制」です。

これらは全社の活動になってくるため、当然、人事の領域を超えてきてしまうわけですが、人事領域がAI適用の先駆となるケースは多いですし、習得機会の提供や、評価・推奨制度、活用文化の促進など人事がイニシアティブをとるテーマも大半を占めるため、完全に守備範囲外として、待ちの姿勢を貫くことは難しいように思います。なお、AIガバナンスについては、人事情報を扱いますので、これだけで、非常に重要な争点になりますが、これはまた別の機会に紙面を割ければと思います。
AIエージェントがもたらす人事の役割変化とは

最後に

パーソナルコンピュータが一般家庭に普及するまでには十数年、インターネットやスマートフォンも数年から十数年かかりました。しかし、生成系AI、例えばChatGPTは、一般公開からわずか数ヵ月で1億ユーザーを突破。企業利用も急速に広がり、2024年にはHR分野でのAI導入率は数十%に達しています。

過去であれば、技術浸透に猶予があったため、戦略や業務構造の変更はゆるやかに進められました。しかし、今回、AIがプラットフォームとして組織に組み込まれるスピードに追いつかないリスクも大きいと考えており、持して待たずに、積極的に最新テクノロジーを取り込んで変革を主導する姿勢が求められる転換期と考えています。
  • 1

この記事にリアクションをお願いします!