今回説明する「研修企画」は、研修開発を行う際に、もっとも重要なプロセスである。ここをおろそかにしてしまうと、その後、いくら評判のいい講師を呼んできても、詳細な研修プログラムを作っても、資料を作り込んでも、研修の成果はあがらなくなってしまう。では、研修の企画をどうやって作成するのか、「5W1H」という枠組みで見ていこう。また、それぞれの方法だけでなく、順番も重要だということに留意していただきたい。
第4回:研修を企画するときの考え方

研修企画の「5W1H」

(1)Why:なぜ研修をするのか
研修を行う理由、つまり、狙いや目的をはっきりさせることが、すべての基本である。ここが最も時間と労力をかけるべきところで、具体的には、次の3つのニーズを探ることで行う。そのため、研修開発担当者は、日頃から、経営陣、現場の管理職クラスと意思疎通をはかっておくことが重要だ。

●戦略ニーズ(経営者のニーズ)
経営陣が考えている現状の課題、または、組織的に決定された経営戦略からブレイクダウンされるもの。例えば、「商品開発や各種プロジェクトを担当できる人材の育成」など。

●組織のニーズ(現場のニーズ)
現場発の、主に他部門の管理職や従業員とのコミュニケーションの中から発見されるニーズ。例えば、プレゼンテーション、論理的思考、営業スキル、マナー研修など。

●組織のニーズ
中長期的視野に立ち、従業員の能力を維持し、組織の発展・拡大をめざすためのもの。技術教育や、ダイバーシティ教育、ワークライフバランスに関する研修もここに入る。

(2)Who:誰に対して研修をするのか
次に決めるべきことは、研修の対象者である。漠然と決めるのではなく、研修のニーズに従い、なるべく絞り込むことが大切だ。例えば、「管理職」ではなく「過去○年以内に中途採用者を部下に抱えた上司」、「非管理職の従業員」ではなく「入社○年以内の中途採用社員」というレベルで考えよう。

次に、参加人数を決め、職場ごとに選抜してもらうのか、挙手制にするのか、全員を集めるのかなどの方法を決める。

そして、対象者が決まったら、今度は研修前に「経験や知識のレベル」や「主要な興味関心」についても、なるべく情報を収集しておこう。

研修が終わって職場に戻ったあとに、上司からどの程度のサポートが受けられるか、という点も研修の成果に大きく影響する。対象者が決まったら、どの程度職場を巻き込むことができるかをチェックし、思わしくない場合はなんらかの対策も必要だ。

(3)What:研修でなにを目指すのか
(1)の「Why:なんのために研修をするのか」と混同しないようにしよう。ここで考えるべきことは「研修のゴール」、つまり、目標点・成果物などだ。

講師、事務局、受講者の上司が、「Why」を共有していても、ここがはっきりしていないと、研修のレベルや方法が決まらない。

具体的には、「○○ができるようになる」、「○○について理解する」といった学習到達度を掲げることが多い。場合によっては、「ビジョン」や「行動計画」などの具体的な成果物を作成することが目標になる。また、「よい企業風土をつくる」といった全体への効果がゴールになることもある。できれば、「離職率を○%以内にする」や「顧客満足度を○%アップする」など、「定量的に表現できる目標」があればなおよい。

(4)When:いつ研修をやるのか、どのくらいの時間をかけるのか
次に、準備の都合と対象者の集まりやすさを考えて、研修の日取りを決める。また、研修のボリューム(どの程度の時間をかけるのか)もここで決めるが、これは受講者への負担や予算という制約条件が関わってくるところだ。

1回の研修で終わらない場合は、連続研修として、各回の開催日をおおまかに見積もる。その他、レギュラーの研修として毎年行うことを前提に考える場合もある。

(5)Where:どこで研修をするのか
社内に研修ルームや適当な会議室があれば、そこで行うことが前提となる場合が多い。しかし、実は「研修場所」が研修の効果に与える影響は大きい。あえて社外の施設で行う、合宿研修にするなどの方法も検討しよう。

いつもの会議室であっても、茶菓を用意した休憩用のブースを設けるといったひと工夫で、雰囲気を変えることができる。

(6)How:どのような研修をするのか
研修企画というと「How」が中心で、あとは「When」と「Where」が決まればそれでできあがり、と考えていないだろうか。実は、この点は最後に考えるべきことなのである。

いままで見た(1)~(5)までの条件を考えあわせて、プログラムを決める。決して「アクティブラーニング」や「○○ができるようになるワークショプ」の手法が先にあるのではない。

以上の順番で考え、研修企画を決定していこう。経営陣や他部門の意見を聴くことは必要だが、研修開発の担当者が全体を見通したイニシアティブをとっていくことが大切である。
李怜香(り れいか)
メンタルサポートろうむ 代表
社会保険労務士/ハラスメント防止コンサルタント/産業カウンセラー/健康経営エキスパートアドバイザー
http://yhlee.org
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