前回の記事(※)では、ハーバード大学のボリス・グロスバーグにならって、スター社員を、(1)例外的に高い成果をあげ、かつ(2)広く内外労働市場におけるビジビリティ(顕在性)を獲得している個人と定義しました。平たく言えば、「とびきり優れた成果をあげており、かつ、そのことで周囲からの注目を集めている人」を、スター社員と呼ぶということです。前回はまた、このような意味でのスター社員について、これまでの研究が、(1)スターが組織全体に与える影響、(2)スターが同僚に与える影響、(3)スターの組織間の移動、(4)スターの特別扱いといった点に注目してきたこと、しかし、(5)スターの形成については、日本においても欧米においても、ほとんどわかっていることがないということについても、紹介しました。

このような問題意識から、株式会社サイバーエージェント及びその関連会社の協力を得ながら、私たちが進めてきたのが『スター社員の生態プロジェクト』です。多くの革新的な人事施策を生み出すだけでなく、純粋な日本企業にあって、私たちが定義するような意味でのスター社員を多数輩出している同社。この企業を調べることによって、他の日本企業にとっても参考になる知見が得られるのではないか、と考えたのです。

【前回の記事】
第1回:欧米の研究者は、「スター社員」をどのように捉えているのか?
第2回:3つの公式から考察する「スター社員」を形成する要素とは
服部 泰宏
著者:

神戸大学大学院経営学研究科 准教授 服部 泰宏

2009年神戸大学大学院経営学研究科博士課程後期課程修了(経営学博士)。滋賀大学経済学部専任講師、准教授、横浜国立大学大学院国際社会科学研究院准教授を経て現職。「組織と個人の関わりあい」をコアテーマに、人材の採用に関する研究,人事評価や社内の評判に関する研究,圧倒的な成果をあげるスター社員の採用・発見・育成と特別扱いに関する研究などに従事。著書に『採用学』(単著、新潮社)、『日本企業の採用革新』(共著、中央経済社)、『組織行動論の考え方,使い方』(単著、有斐閣)、『コロナショックと就労』(共著、ミネルヴァ)など。

著者:

神戸大学経営学部(調査時点) 山下 莉沙

服部研究室に所属し、自律的人材やアルムナイに関する調査に従事

「スター社員」生態プロジェクトとは

このプロジェクトは、(1)人事部門マネジャーへのインタビュー、そして(2)彼(女)らが「スター社員」とみなす複数の社員へのインタビュー、を中心としたものになります。インタビューは、まず、人事部門マネジャーに対して、「優秀な人材についての考え方」に関する話を伺うところからスタート。その後、スター社員についての私たちの定義(つまり、「例外的に高い成果をあげ、かつ広く内外労働市場におけるビジビリティ(顕在性)を獲得している個人」)を詳細に説明し、それに該当する社員を複数名抽出・推薦してもらい、今度はその社員たちに対してインタビューを実施する、という流れで進めていきました。

インタビュー中での語りは、インタビュー終了後、出来るだけ早い段階で全て文字化、データ化し、そのデータに対して私たちは、「グラウンデッド・セオリー・アプローチ(Grounded Theory Approach」」という方法を用いて分析を行いました。この方法の具体的な中身については、戈木クレイグヒル滋子著『質的研究法ゼミナール第2版: グラウンデッド・セオリー・アプローチを学ぶ(医学書院)』などを参照していただきたいのですが、簡単に言えば、調査者(である私たち)が読んだ文献などの影響をできるだけ排して、現場で起こっていること、人々が語ることの中身から、虚心に、帰納的に理論を生成することを目指す方法、ということになります。

現在進行形のプロジェクトであり、まだ確定的なことは言えないのですが、現時点で既に、いくつかの重要な知見を得ることができています。今回と次回、そして次々回において、その一部を、お届けしたいと思います。

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