労働人口が減少しつつある日本では、新たに優秀な人材を確保するのは容易ではない。そのようななか、人員配置や人材育成などによって、既存社員の戦力を増強して、組織強化を図ろうとする企業が増えてきている。その戦略を後押ししてくれるのが、社員のスキルを可視化する「スキルマップ」というツールだ。スキルマップとは具体的にどんなものなのか、メリットとデメリットは何か、エンジニアや営業などの仕事にどう活用できるのか。本記事では、これらを詳しく解説していきたい。
「スキルマップ」の意味やメリット・デメリットとは? エンジニアや営業への活用事例も紹介

まずは「スキルマップ」の意味や目的を解説

「スキルマップ」とは、社員一人ひとり、あるいはグループや組織が業務を行うにあたって必要なスキルを持ち合わせているかを可視化、見える化するツールだ。社員の業務遂行能力が容易に把握できる一覧表と言って良い。力量表や力量管理表、技能マップ、スキルマトリックスなどと称されるケースもある。

一般的には、横軸に「スキル項目」、縦軸に「社員の名前」が記載された一覧表(逆でも問題はない)にそれぞれの社員が持っているスキルレベルが記入されている。スキルレベルをどう記入するかは、幾つかの方法がある。各スキル項目に基づいて、5段階ないし10段階の評価数字を付ける、○×△などの評価記号を入れる、背景色を変えるなど、企業によって異なる。

●「スキルマップ」の目的

企業が、「スキルマップ」を活用する目的は三点挙げられる。一つひとつ説明していこう。

・能力の可視化
「スキルマップ」により、誰がどのようなスキルを持っているのか、そのスキルが何に活かせるか、組織内に必要なスキルを持った人がどれだけいるのかなどが明確になる。逆に、どんなスキルが欠如しているかも洗い出しがしやすくなる。また、個人に関してだけではなないく、部署単位、もっと言えば会社全体でも分かるので、人材教育やトレーニングのテーマとして取り上げ、効率的な育成につなげていける。このように、「スキルマップ」は、スキル管理を的確に行うためにも不可欠なツールと言える。

・スキルアップ
「スキルマップ」では、それぞれの職場ごと、役職ごとにどのようなスキルが必要とされるかも明確に把握できる。もし、求められるレベルに達していないスキルや知識があるならば、それに対してどんな教育や訓練を実践していけばよいかも掴みやすくなってくる。結果として、個人のスキルがアップするのはもちろん、生産性の向上や業績の拡大にもつながる。

・モチベーションアップ
モチベーションや成長意欲の向上に繋げることも期待できる。社員に「スキルマップ」を公開すれば、お互いの競争心が芽生え、仕事やキャリアに対する意識も高まるはずだ。また、見方を変えると「スキルマップ」を活用すると、上司に自分のスキルを客観的に把握してもらえるだけでなく、人事評価にもつながりやすくなる。しっかりと認めてもらえているという想いを持つことで、やりがいを感じながら仕事に取り組むことができる。

「スキルマップ」に適している業界とは

基本的に、「スキルマップ」は業界・業種に関わらず適用されるが、ここでは特に導入が適している業界として、メーカーとITを紹介していこう。

●メーカー

製造業は、古くから「スキルマップ」の導入を意欲的に進めてきた業界だ。今でも最も導入が進んでいると言っても過言ではないだろう。ものづくりを進化させていくには、高度な専門性や技術力が求められる。特に、顕著なのは製造部門や技術部門だ。ISO9001の厳しい要求事項を満たさなければいけない、顧客企業からの要請に対応するためになどの理由で、スキルマップを用いて社員のスキルを徹底的に管理している。スキルの分類法は、企業やスキルマップの目的によって異なってくるが、職場の業務フローの流れに沿って、必要なスキルを洗い出していくというパターンが多い。具体的には、例えば加工工程、組み立て工程それぞれにおける作業項目が並べられる。

●IT

近年、「スキルマップ」の導入が顕著なのが、IT業界である。メーカーと同様、専門性と技術力が必要であり、先端的なツールを意欲的に取り入れる傾向が強い特性があるのも、要因と言えるだろう。評価基準として良く用いられているのが、経済産業省が策定した「ITSS(ITスキル標準/IT Skill Standard)」や情報処理推進機構(IPA)の「情報システムユーザースキル標準(UISS:Users’ Information Systems Skill Standards)」だ。前者は、ITエンジニアのスキルを数値化し可視化したものであり、後者は企業における情報システム機能の最適配置と必要な人的資源の把握、的確な人材育成のための指標が定義付けられている。

「スキルマップ」がもたらすメリットとデメリット

ここからは、実際に「スキルマップ」を活用することで、どのようなメリットやデメリットがもたらされるのかを述べていきたい。

●メリット

・人材育成
「スキルマップ」を作成すれば、社員一人ひとりのスキル習熟度が把握できるだけでなく、会社全体で不足しているスキルや今後伸ばしていくべきスキルも見えやすい。研修などを通じて、それらを克服していけば人材育成が効率的に進められるだろう。

・人材配置
「スキルマップ」から、社員のスキルを読み解き、その強みを活かせる部署や職種に配置すれば、ミスマッチは起こりにくくなる。その結果として、業務の効率性や生産性の向上をもたらすことができるだけでなく、離職率の低下も図りやすくなる。

・評価
社員の能力評価が、より公平・的確になるのも「スキルマップ」のメリットだ。なぜなら、上司にとって、社員一人ひとりのスキルを把握したり、評価したりするのはなかなか容易ではないからである。どうしても、個人的な感情や偏った記憶に基づいて判断してしまう場面もあり得るので、曖昧であったりする。その点、「スキルマップ」に評価すべき項目や基準を明確に定め、それを公開・共有すれば、上司はそれと照らし合わせていけ、部下もなぜこうした評価を下されたのかを納得できる。公平性や正確性を担保するという意味でも意義があるといえよう。

・採用
「スキルマップ」は、採用面でも多大なメリットがある。事前に「スキルマップ」を作成しておけば、今自社にどんなスキルが足りていないのかが明確に分かる。そこを補える人材を確保すれば、入社後のミスマッチが起こることはないだろう。

●デメリット

・スキルを設定するのに時間を要する
実施している業務を事細かに洗い出し、それぞれの業務に対する達成度を定義していかなければならないため、スキルの設定に時間を要する。数値化が困難なスキルがあれば、さらに時間がかかってしまう。

・社員の不満を招く恐れも
客観性があると言っても、社員全員を納得されられる判定基準を設定するのは至難の業だ。誰かしらに不満を持たれる可能性は否定できない。モチベーションの低下につながらないよう、事前に評価方法のすり合わせを行う必要がある。

エンジニアや営業のスキルマップ事例を紹介

「スキルマップ」は、多くの職種で活用されている。実際、営業とエンジニアではどんな項目が設定されているのかを見てみよう。

●営業

まずは、なぜ営業の育成に「スキルマップ」が有効なのかから説明したい。その理由は、メンバー全員が保有するスキルや知識の習熟度が把握しやすいからだ。営業に必要とされるスキルや知識は、実に多岐に渡っている。例えば、以下の項目が想定される。

・概念形成力
・コミュニケーション能力
・顧客把握力
・交渉力
・自律性
・商品知識


上司からすれば、自分の部下を複数名抱えていると、“それぞれがどのようなスキルや知識を持っているのか”、“どんなスキルを伸ばせば良いか”、“どこまで指導・フォローすれば良いのか”が分かりにくい。だが、「スキルマップ」を活用すれば、それらが一目瞭然で分かる。その内容に沿って部下を指導していけば、部下からしても「自分の不得意な点をしっかり理解し、フォローしてもらえている」と納得が得られるというわけだ。さらには、組織においてロールモデルと位置づけられるメンバーの評価値が分かれば、目標とすることができるので営業メンバーのモチベーションアップにつながっていくだろう。

●エンジニア

エンジニアにとっても「スキルマップ」は、意義あるツールであると言える。特に近年は求められるスキルが、多様になっている。その点、「スキルマップ」を活用すると誰がどんなスキルを有しているか、どれぐらいのレベルなのかが的確に把握できる。特に、プロジェクトを立ち上げるにあたっては、良く活用される。プロジェクトマネージャーからすれば、メンバーの選定やプロジェクトにおける技術水準の管理がスムーズに行えるからだ。

ITエンジニアを例に取ると、想定される項目はJavaやRuby、PHP、JavaScript、Pythonなどのプログラミング言語やOracle、SQL serverなどのデータベースへの習熟度、さらには、プロジェクトを進める上で必要なマネジメント能力やリーダー能力などが挙げられる。
ここまで、「スキルマップ」の定義やメリット・デメリット、職種別の事例などを紹介してきた。「スキルマップ」の大きな特徴としては、汎用性が挙げられる。あらゆる業界・業務で応用することができる。有効に活用すれば、従業員の能力の可視化やスキルアップ、モチベーションアップにも役立つとあって、メリットは大きい。人材育成を戦略的に進めていきたい企業にとっては、強力なツールとなるだけに、この機会にぜひ導入を検討していただきたい。
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