ケガや病気で休んだ従業員が、健康保険組合に傷病手当金を請求することがあります。この際に必要である「意見書」を、主治医が書いてくれないことがあるのですが、今回はその理由とともに、産業医を利用したこのような状況の上手な切り抜け方を解説します。
産業医を上手に使って傷病手当金を請求しましょう

主治医が意見書を書いてくれない!どうして?

従業員がケガや病気で休んだ場合、「傷病手当金」が支給される職場も多いでしょう。これは保険者(健康保険組合など)に傷病者が請求することができ、以下の4つが受給条件です。

(1)労災でないこと
(2)医学的に働けない状態であったこと
(3)実際4日以上働かなかったこと
(4)その間会社から給料が出なかったこと

この中で(2)に関しては、主治医の意見が必要です。ところが、まれに、主治医が医学的状態について意見書を書いてくれないことがあります。

例えば、一時的なストレス、めまい、高熱、ひどい捻挫などで自宅療養していて、落ち着いた後に病院を受診した場合などです。

主治医からは「その期間中に私は診療していないので、意見書を書けません」と言われることが多いようですが、こんな時はどうすればいいのでしょうか。

会社から主治医にクレームを入れるといった手もありますが、あまり有効ではありません。なぜなら、医者は医学的信念に基づいて書きますから、クレームを入れてみたところでその期間について分からないという事実は変わらないからです。

また、それならばと、他所の医療機関にかかっても、不正の手助けをさせられるのでないかと恐れられ、まず書いてくれないでしょう。

産業医を利用しましょう

ここでオススメしたいのは、産業医を使う方法です。平成26年9月1日(事務連絡)(全国健康保険協会あて厚生労働省保険局保険課通知)には、次のようにあります。

『被保険者が、診療を受けている医師等から労務不能であることについての意見が得られなかった場合、当該医師等とは別の産業医に対し、労働者としての立場で就業についての意見を求め、意見を求められた当該産業医が任意に作成した書類を保険者に提出することは差し支えない。この場合、規則第84条に規定する医師等の意見書には、労務不能と認められない疾病又は負傷に係る意見の記載を求めることとされたい。』

『保険者においては、これらの書類の提出を受けた場合等には、双方の意見を参酌し、適切な判断をされたい。』

とあります。

つまり、その病気についての主治医の意見書を貰った上で、産業医が労務不能であったという意見書を付ければ、傷病手当金が認められる可能性があるのです。

ですが、産業医の意見書を付けることができるということ自体を知らない臨床医も多いので、そのような場合は、産業医から主治医に手紙を書いてもらうとよいでしょう。

もう少し詳しく説明すると、産業医から上記仕組みを説明することを通して、主治医に受診日と「労務不能であったかどうかは判断できなかった」旨の書かれた意見書を書いてもらいます。その上で産業医から、「労務不能であった」旨の意見書をもらい(ただし、相当しっかり書かないと認めてもらえません)、保険者に提出するのです。

なお、補足しておくと、大きな会社などで会社内に診療所がある場合は、産業医自らが最初から意見書を書いても構いません。

従業員にとってケガや病気による休職は、精神面だけでなく経済的な負担も大きいもの。制度を上手に使って負担を軽くしてあげ、仕事に対するモチベーションアップに繋げたいところです。


合同会社DB-SeeD 
日本医師会認定産業医 労働衛生コンサルタント
神田橋宏治
https://industrial.doctor.tokyo.jp

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