パワハラ研修で伝えるべき内容

最初に伝えるべきことは日本の「社会環境の変化」です。現在、盛んに「働き方改革」と叫ばれていますが、メディアの表現の仕方からか「働き方改革」とは「残業を削減すること」だと認識されている方々が多くみられます。なぜ「働き方改革」を実施していく必要があるのでしょうか。

2030年には人口の30%が65歳以上になると予測されています。労働力人口の減少と少子高齢化、日本型経営の限界によって職場環境は大きく変化し、このままでは労働者が不足します。だから女性の活躍に力を入れましょう、それでも不足するので高齢者も働ける社会を実現しましょう、それでもまだ不足するので外国人労働者を増やしましょう、と雇用と拡大します。そこまでしても足りない。だから生産性を高めましょう、というのが「働き方改革」の本質です。

これからさらに表面化してくる大きな問題は「介護」です。団塊の世代がいよいよ70代中盤に突入していきます。その子どもである団塊ジュニア世代は50代です。女性だけではなく男性も介護で短時間勤務したり、仕事を休んだりする必要が出てきます。もはや短時間勤務制度やテレワークは、育児をする女性のためだけのものではないのです。

かつての職場は年功序列、終身雇用が一般的でした。会社のために嫌なことがあっても我慢するのが当たり前で、たとえハラスメントがあっても表には出てきませんでした。そのかわり、会社からの見返りも大きく、生涯の雇用が約束され、年々給料は上がり、手厚い退職金や年金が保証されていました。しかし現在では、働き方は変わり、大企業であっても終身雇用は難しい時代です。短期間で職を変えることが当たり前だと思っている人や、複数の仕事をかけ持ちする人も増えています。さらに、SNSの出現により個人が社会に向けて意見を発信することが簡単になりました。かつては社内の情報が外部へ漏れることはあまりありませんでしたが、今はSNSで発信することにより一気に拡散します。

昭和時代の感覚を引きずったまま無自覚パワハラを続ける先に待っているのは、「離職者増加による人的損失」や「職場環境や企業イメージの悪化」、そして「損害賠償請求などによる直接的な損失」などです。信用を失えば、人の集まらない会社となり、企業経営が成り立たなくなっていまいます。

昭和時代を生き抜いてきた世代の経営者が、管理職のパワハラを容認する傾向にはないか。今一度、社内を振り返っていただけたらと思います。


田中亜矢子
社会保険労務士 人を育てる人、を育てる。採用定着コンサルティングOFFICE「サン&ムーン」 代表
http://www.sun1moon.com
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