人的資本経営が叫ばれる現在、人材育成をいかに成功に導くかは、どの企業においても重要課題である。その一方で、現場に任せきりのOJTでは、指導側も新入社員も負担が大きく、また指導者によって教育の質が異なるという課題もある。

形骸化したOJTを脱し、効果的な制度や方法論を確立するためには、他社の成功事例を見渡すことも必要である。そこで本稿では、トヨタやJAL、サントリーなど、OJTを人材育成の要と位置付け、独自の手法で成功させている企業事例を7つ紹介。また、OJTが機能した要因や成功企業に共通するポイントも解説していく。
先輩社員が部下を指導している様子,OJT

OJTの成功事例7選

独自のアプローチを取り入れたOJTを実施し、人材育成に成功している大手企業の事例を7つ紹介していく。

【関連記事】「OJT」とは? 意味や目的と併せて効果的な進め方を解説

(1)東海東京証券
データドリブン型の個別最適化OJT

東海東京証券は、従業員約500人の心理特性と行動データ、社内の業績データなどを組み合わせて分析し、パフォーマンスの高さによってOJTを受ける社員をグループ分けし、それぞれの個別最適化したOJTを実施している。行動データと心理データを掛け合わせたこの取り組みは、まさに「データドリブン型」と呼ぶに相応しい。

膨大な分析結果からまずは「ハイパフォーマー」の人物像を具体的に定義。続いて、ハイパフォーマーと同様の心理特性を持っていても業績が振るわない「ハイポテンシャルグループ」と、心理特性がハイパフォーマーからはかけ離れ、業績も振るわない「チャレンジグループ」を分類し、個別最適化されたOJTを実施する。並行して、通常のOJTや振り返りのための1on1も継続している。

アセスメントを用いて思考スタイル・行動特性・仕事への興味などを数値化し、スコアは回答者である部下の成長のために、本人と上司の間で活用される。点数としてスコアは明示されるが優劣の判断ではなく、心理特性面の把握が目的である。

この結果、指導側は、部下の特性を理解して細かく何度も対話を重ねるコミュニケーションスタイルで、目標設定も近いゴールから始めるように変容した。部下も和やかな1on1でコミュニケーションが取りやすくなったことを実感している。

個別最適化されたOJTを4カ月間行ったところ、部下も観察可能なほど積極的な姿勢へと行動変容が見られた。この成果にOJTに対する指導側の負担感、受ける側のやらされている感が目に見えて激減した。実績としても、営業メンバー全体的に活動量が12%、受注量が30%も増加する結果をもたらした。

【もっと詳しく】取材記事:“心理特性”を活かした個別最適化OJTで営業を強化――受注30%増を実現した東海東京証券のデータドリブン型人材育成モデル

変化の激しい人事トレンド、乗り遅れていませんか?

HRプロなら、最新の「人的資本経営」から「AI活用」まで、専門家による深掘りレポートや最新調査データ、大手企業の事例記事が読み放題。業務課題解決のサービス情報や導入事例など、ソリューション選定に役立つ資料もダウンロード可能です。
10万人以上の人事担当者が利用する日本最大級の人事ポータルを、ぜひ情報収集にお役立てください。

【完全無料】会員登録して最新の人事情報を網羅する(メールアドレスのみで登録完了) >>

(2)キヤノンITソリューションズ
フォローアップ研修によるOJTの効果最大化

キヤノンITソリューションズは、「自ら成長する意欲があり、努力している人材に対して教育の機会を計画的に与える」という理念に基づき、OJTを含めた教育制度を実施。長期的に企業・業績に貢献できる能力を持たせる目的で、プロフェッショナル人材の育成を図っている。

内定・入社半年目の6月までは新人研修で業務遂行に必要なスキルや共通知識の習得し、社員としてのベースを形成する。7月以降に配属先が決まってから1~2カ月の技術研修を経て、OJTへと移行し、必要な技術を習得させる。

OJT期間中は二度のフォローアップ研修も実施し、仕事への取り組み方の再確認、質の高い仕事をするための知識を深化させる。部下は、1年目の終了時に配属後の業務を振り返ることで自身の成長度合いと課題を確認。2年目を迎える段階で、明確な目標・克服すべき課題が把握できているため、さらなる飛躍を目指しやすい。

【参考】キヤノンITソリューションズ:キャリアと⼈材育成

(3)大和ハウス
OJTエルダー制度

大和ハウスのOJTは、入社1~3年目の若年社員を対象に、『エルダー制度』を導入している。エルダー制度とは、OJTの責任者である管理職(ライン長)を補佐する役割としてエルダーを設定するものだ。エルダーは、新人社員の個々の状況も考慮しながら、主導的にOJTを進める点に大きな特徴がある。さらに、気軽な相談相手として年次の近いOJTアシスタントも置いている。

失敗しがちなOJTの要因に、部下の事情を加味せず計画書ありきで進めることがあげられる。新入社員の理解が追いつかないまま立ち止まらずに進んでしまったり、指導側の通常業務を圧迫したりする事態を招く。エルダー制度としてOJTを実施する場合、エルダーが主体的に進行するので、自身の業務も考慮して実施でき、精神的・時間的な負担が軽減される。エルダーに余裕があれば、集中してOJT研修に取り組むことができる。新入社員も安心してOJTを受けられるので研修に対するモチベーションが上がる。

エルダー制度では、指導側の成長も期待できるため、会社全体のパフォーマンスが向上する可能性も高い。部署内外で連携しながらOJTを進めるので、新入社員の実務能力だけではなく、エルダーの人間力の成長も促進できる。人財・組織開発部や本部スタッフが巡回員として新入社員とエルダーと面談を行い、指導の確認・支援を行う『ラウンド・サポーター制度』も行っている。

【参考】大和ハウス:サステナビリティレポート2025 事業戦略と連動した人財の確保(PDF)

(4)アサヒビール
ブラザーシスター制度

アサヒビールでは、2021年から、新入社員と同じ部署の先輩社員が指導する『ブラザーシスター制度』を用いたOJTを実施。先輩社員は所定の研修を終了しており、同じ部署という間柄なので、仕事の進め方や業務内容、社員としての心構えへの指導のほか、社会人生活での悩みにもアドバイスできる。

指導員となるブラザーとシスターが「公募・立候補制」だという点が重要だ。自ら立候補したやる気のある社員に新入社員指導を任せることで、社員同士が助け合う社内文化の醸成にも役立つ。また、ブラザー・シスターとなった社員は自身のスキルや業務の棚卸しや、自分の考えを伝えることと新人の思いを汲み取ることに研鑽を積み、成⻑につながる。

モチベーションを同じくする指導員たちなので、人によって指導内容に差異が出るというOJTの課題も克服し「最低限の基礎知識の平準化」を可能にしている。新入社員にとっても頼りがいのある相手なので、理解が進んでいない点やパーソナルな悩みなども話しやすく、OJTの効果が発揮されやすい環境が整う。

【参考】アサヒビール新卒採用サイト:受け継がれる文化 ブラザーシスター制度について

(5)サントリー
マンツーマンによる同行営業

サントリーの人材育成の特徴は、入社後1カ月間の集中研修。入社直後はサントリー製品の商品知識や基本的な業務知識を学び、その後は先輩や上司と同行営業をする「マンツーマンスタイルの現場研修」を実施している。同行する先輩社員や上司が実際に顧客との商談に臨む姿を見る機会を得ることで、商談の進め方や、販売促進キャンペーンの企画提案の仕方、売場の立ち上げ方など、営業として必須の実務スキルを学びとる。

商談後、顧客のそばを離れたら同行している先輩社員や上司とともに振り返りを行い、すぐにアドバイスを受けられるのも利点である。

一定期間の同行営業の後は、新人社員単独で顧客を回ることになるが、月に1・2回の月次ミーティングの際に商品情報や商談力向上のコツ、商品情報を随時レクチャーする「単独訪問サポート」もある。継続的に新人サポートを実施するフォロー体制があるので、不安や疑問の早期・即時解消ができ、安心してスキルアップしていくことが可能となっている。

【参考】サントリー:研修制度

(6)トヨタ自動車
メンター制度と「めんどう見」

トヨタ自動車の「めんどう見」を掲げるOJTも成功事例の代表格である。「めんどう見」は、部下の面倒事のしりぬぐいをする、技術だけを育てるといった意味合いではない。トヨタに入社した一人ひとりの不安や疑問に寄り添い、いきいきと仕事に取り組めるようにすることを目標とし、新入社員の意欲向上やメンタルケアも上司に求められている点が「面倒見」との違いである。

部下とのコミュニケーションをはかる際は、以下の3つのアプローチを用いる。

・ほめる:気を引き出す大切なコミュニケーションと位置付け、メンバーの成長や現場の変化を見て適切な言葉をかける
・しかる:あくまでも相手の成長を第一に考え、相手や現場を日々しっかり観察して指導を行う
・見守る:ただ見ているのではなく、責任は自分がとり、失敗したらフォローをする意思を明確に伝える

OJTで重視している点は、「業務を通じた教育」。上司は新入社員に、通常業務のなかで、問題解決のための分析手法や対策の方向性、対策を実行するためのプロセスを伝授する。決裁過程での徹底的な議論や、年間業務テーマの遂行を求めることもOJTのポイントとしている。業務の中で繰り返しOJTを行うことになるので、上司は部下の実力や強み・弱みを具体的に把握し、それらに基づいた育成が可能になる。

評価は定期的なものとフィードバックとで行われ、成長度合いを可視化。これにより、強化すべき点や課題を明確にし、次のステップへ進む指針を形成する。また、OJTを補完するOFF-JTも実施しており、主体的に成長したいと望む新入社員に対しては、そのポジティブな意思を尊重できる態勢作りを会社としても心掛けている。

【参考】トヨタ自動車75年史:人事の変遷 詳細解説(トヨタの人材育成)

(7)JAL
実機でのインストラクターによる指導

JALの客室乗務職のキャリアパスは、キャビンアテンダント、リードキャビンアテンダント、チーフキャビンアテンダント、管理職とのぼっていく階層がある。各階層で、国内線・エコノミー、ビジネスクラス・中距離、ビジネスクラス・長距離、国際線専任など、それぞれに乗務できる客室クラスや飛行距離、経路に差異がある。

客室乗務員として入社すると、まず約2カ月の初期訓練で「保安要員としての訓練」と「サービス要員としての訓練」を受け、必要な基礎知識を身につける。その後、約2週間にわたる実機でのOJTが実施される。

基礎訓練では、緊急事態の発生に備えて知識・技量の研鑽、責任感・使命感をもって保安にあたるという人命を預かる仕事ならではの訓練と、接客のプロとしての客室乗務員として持つべきホスピタリティや、接客英語を含む言語と言葉遣い、航空機に関する知識などの多岐にわたるマインド・知識を得るための教育が行われる。

人材としてのベースを身につけた上で実施されるOJT研修は、インストラクターつきで実機内で行われる。接客は相手があっての業務なので、基礎訓練で会得したベース知識をブラッシュアップするために第三者目線でのアドバイスや経験者の蓄積したノウハウを引き継ぐよう、インストラクターによる丁寧な指導を受ける。

また、OJT終了後も、同じ所属の先輩を含む「グループメンバー」からサポートを受けられる環境を整え、継続的に研修の効果が定着する対応がある。

OJTで重視しているのはサポートの手厚さで、研修後には新入社員が自信をもって独り立ちできる状態になることが目標とされている。新入社員はまず国内線を担当するが、実体験型でスキル・知識の伝承を主眼とする研修によって、早いうちに、リーダーシップが発揮できる国際線エコノミークラス責任者といった責任あるポジションにチャレンジすることが期待されている。

【参考】JAL採用サイト:職種紹介(客室乗務職)

OJTが機能しない原因

OJTを実施していても機能しないケースには理由がある。OJTを実施するトレーナー側と受ける新入社員側に分けて、それぞれの代表的な原因を見ていく。

●新入社員側の問題

新入社員側の問題には2点が挙げられる。

・ストレス耐性の低さ

少子化や感染症対策などの理由で、大人数のコミュニティに所属する機会が少なかった世代の新入社員は、家庭や学校など社会において、コミュニケーションの機会も少ない。そのため、大人から厳しい言葉を受けることも、コミュニケーションの中でプレッシャーを感じる経験も極端に少なく、業務上で必要な範囲での注意や叱責でもストレスに感じてしまう傾向がある。OJTやフィードバックでも自身に厳しい内容があると受け入れることが容易ではない。

・受け身の姿勢が強い

基本的に指示されたこと以外はせず、問いかけへの受け答えも曖昧なことが多い受け身の新入社員は、仕事や成長に対するモチベーションが低いことが多い。どうしても報告しなければならないことが起きたり、絶対に自力で解決できないことに突き当たったりしないかぎり質問もしない傾向がある。コミュニケーションが重要であるOJTは、受け身姿勢に起因して効果を発揮しないケースが散見される。

●トレーナー側の問題

一方、トレーナー側の問題も2点考えられる。

・教育時間の不足

トレーナーとなる先輩社員や上司は、通常業務をこなしながら教育・研修を実施しており、時間的・精神的な負担が重くなりがちである。会社からの指示だから実施するOJTでは、「行った」という実績だけを求めるため形骸化する。“やっただけ”のOJTでは、新入社員はきちんとした教育をされずに放置されるも同然のため、モチベーションは上がらず、OJTの効果も上がらない。新人社員の成長もないため指導者側の仕事も減らず、OJTを担当することに対する負担感ばかりがいや増すという悪循環に陥る。

・教育マインドセットが低い

トレーナーとなる社員は、人材育成のプロというわけではないため、企業の将来を支える人材を育てる責任をもってOJTに臨めていないことがある。トレーナーが新入社員の人材としての戦力化という目的と、OJTの基本原理である「見定め・計画的・重点的・継続的」という4点を理解していないと効果は期待できない。まずは、トレーナー側の教育マインドセットを高める必要がある。

OJTに成功している企業に共通するポイント

OJTに成功している企業に共通するポイントをまとめると、以下のような点が共通していると言える。

●目標・ゴール設定が明確である

OJTを受ける新入社員をはじめ、すべての従業員に対して習得すべきスキルや知識といった目標を具体的に設定、明示している。また、習得するための教育プログラムも構築している。

目標設定が明確なので、新入社員は自分がたどるべき成長過程を理解しやすい。進むべきステップが明確なので、失敗したとしてもくじけずモチベーションを高く保ちやすい。トレーナーも、段階に応じて必要なスキルや知識を伝えることができる。

●トレーナー側の研修を行っている

OJTを実施する前にトレーナー側への研修を行い、まずは指導者として育成することから始めている。トレーナーがOJTで通常業務を圧迫させないためには、新入社員を一人前に導くための指導力を最短で獲得する必要がある。事前研修は、スキル面だけでなく、トレーナーとしての不安解消、教育内容のばらつき防止にもつながる。

トレーナーへの研修は、専門家による指導とロールプレイ、演習など、複数の方法を組み合わせると効果的である。定期的な1on1ミーティングを導入するなど、トレーナーがティーチングとコーチングを使い分け、新入社員の成長と課題を把握できる状態にする必要もある。

●定期的なフィードバックの仕組みがある

OJTに成功している企業は、OJTを受けた新入社員の成長と進捗状況を定期的にモニタリングし、適切なタイミングでフィードバックを実施し、指導・アドバイスを行っている。トレーナー側も新入社員自身も人材としての強みと改善点を把握できている状態なので、トレーナーはサポートがしやすい。

OJTの効果検証を継続的に行い、必要に応じて内容を調整する体制も構築している。

●属人化を排除し、誰でも同質の教育ができる体制がある

トレーナーが複数の場合、担当者のスキルや経験、伝え方、教育内容に差異があると、新入社員が覚える作業手順やルール、判断基準にも誤差が生じることが多いが、成功する企業ではトレーナーが誰であっても均質な教育ができる体制ができあがっている。

例えば、作業手順の解説動画などを用いると、文字や口頭で説明されるよりも認識・理解が深まるので、差異をなくすことができる。現場に、マニュアルに遷移するQRコードを掲示して、疑問を放置せず即座に正しい方法を確認する習慣づけるなど、早期の問題解決に役立つ環境を作っている。

●OFF-JTやeラーニングなどを併用している

同じく、属人的でない均質な教育内容を確保するための方策である。OFF-JTは、マンツーマン指導のOJTとは違い複数人で同じ研修を受けるため、スキルの均一化や、体系的な学びを取り入れることができる。eラーニング研修では、動画を活用していつでも学習を反復できる。これらは、業務でわからないことに突き当たった際に自力で解決する力や、さらにレベルが高い知識の獲得にもつながるので、OJTを効果的に進める補助として使える。

【関連記事】失敗しない「OJT」のやり方のコツ、育成対象者の放置を防ぐ計画的な進め方のポイントとは?

まとめ

OJTの成功例としてあげた7つの企業は実施方法こそ異なるが、いずれも「明確な目標設定と提示」「OJT実施への負担感の軽減」「モチベーションが上がる手法の構築」が共通している。トレーナー側と新入社員のコミュニケーションが円滑になる場としてOJTが機能している点にも注目である。

また、人材を育てる側のマインドセットを重視し、事前教育からOJTが始まっているという考え方も重要だ。OJTを実施したから終わりではなく、研修期間後も定期的な1on1ミーティングやフィードバックの場を設け、新人の時期を超えても継続したフォローを受けられる態勢も必要である。OJTの始まりと終わりをどこに設定するのか、あわせて考慮に含めるべき点だろう。

HRプロ会員なら、会員限定の企業インタビュー記事やお役立ち資料など、多数のコンテンツが無料で利用可能!
【HRプロ】無料会員登録はこちらから >>
  • 1

この記事にリアクションをお願いします!