OJT
猛スピードで進化する先端技術や世界規模で大きく動く近年の経済状況など、激変するビジネス環境に対応するためには、優秀な人材、戦力として計算できる社員が不可欠だ。新入社員を、迅速かつ効率的に戦力へと成長させる手法の一つである「OJT」。古くからある育成方法だが、あらためてその意義が見直されている。「OJT」が発展してきた背景、機能と目的、メリットとデメリットなどをまとめてみよう。

「OJT」とは? 今さら聞けない定義やOFFJTとの違いを解説

「OJT」とは“On-The-Job Training”の略であり、職務の現場で実際の業務を通して行われる職業訓練を指す。上司が部下に、先輩が後輩に仕事を与え、実務を経験させることで、業務の遂行に必要となる知識や技術を実践的に学ばせるものであり、主として新入社員の育成に用いられる手法である。

●「OJT」の歴史的背景と進化

「OJT」の始まりは100年以上も前、第一次世界大戦の頃に遡る。当時アメリカでは軍用艦を増産するために造船所で働く作業員の大量育成が急務となっていた。その任にあたったのが人材育成の専門家であるチャールズ・R・アレン。彼は、訓練所に頼ることなく造船所の現場監督が新人を直接訓練する手法を編み出した。(1)手本を示す、(2)説明する、(3)やらせてみる、(4)確認・指導する、というプロセスによって作業員たちに短期間で技能を習得させる『4段階職業指導法』である。

日本では高度経済成長期に「OJT」が輸入され大ブームとなったが、その後、集団的・画一的な社員教育へのシフト、バブル期の大量採用への対応、バブル崩壊後の育成コスト削減など、時代の要請に応じてマイナーチェンジが施され、企業内研修の基本的な方法論として定着するに至った。

また即戦力の育成に効果を発揮する実践型の職業訓練である「OJT」は、人材不足が慢性化する現代社会に最適かつ不可欠な人材育成手法として、その意義や価値があらためて注目され、多くの企業がこれまで以上に注力するようになっているのである。

●「OJT」と対比される「OFFJT」

現場主義で実践的な教育手法である「OJT」と対をなすのが「OFFJT」だ。こちらは“Off the Job Training”の略、すなわち職場を離れての訓練である。

通常業務の中で行われる「OJT」とは異なり、一般的に「OFFJT」は、研修のための時間が別途設定されることになる。ビジネスマナーに代表される社会人としての基本から今後の職務に必要となる専門知識まで、研修の内容は多岐に渡り、座学、ロールプレイング型、集合研修などスタイルも様々。「OJT」と「OFFJT」はそれぞれに長所・短所や特徴を持ち、多くの企業が双方を併用して社員研修を進めている。


「OJT」にはどのような目的がある?

そもそも「OJT」にはどのような目的があるのかだろうか。大きく分けて4つ紹介したい。

(1)即戦力の育成

人手不足が慢性化する現在、企業としては人材育成に時間をかけられず、新人にはすぐにでも自社の業績アップに貢献して欲しい、というのが本音だ。そのためには業務内容や仕事の進め方をいち早く体得し、先端技術にも対応してもらう必要がある。そうした即戦力の育成に有効な手法として「OJT」は定着しているといえる。

(2)タレントの開発

上司・先輩が直接指導にあたる「OJT」は、新入社員個々の資質・特性、業務内容などに応じてフレキシブルな進行と対応が可能だ。能力・スキル・経験に合わせて従業員を有効活用する“タレントマネジメント”との親和性の高さも「OJT」の強みである。

(3)個々の成長と戦略的な人事

「OJT」は、単に仕事を覚えてもらうだけでなく、人事戦略を効率的に進めるために活用されることもある。「経験から自発的に学ぶ」という学習モデルを「OJT」に組み込むことで、今後社内で必要とされる人材像へ向けての成長を促すのである。

当面の業務内容や仕事の進め方など“目の前のこと”について学ぶだけでなく、経営戦略や全社的な人材ポートフォリオに基づき、また個人の資質や能力に合わせて、マネジメント能力など将来的に求められるスキルを計画的に開発・育成していく「OJT」は、「OJD(On the Job Development)」と呼ばれることがある。戦略的な人事を実現するものとして、近年注目されている手法である。

(4)採用力の強化

社内で「OJT」が十分に機能し、即戦力が次々と育つ環境が確立しているようなら、「我が社に就職すれば迅速・確実にスキルアップできる」とアピールすることも可能だろう。人材育成への積極性を示すことは、採用力の強化にもつながるのである。

「OJT」は多様なメリットをもたらす

「OJT」がもたらす多くのメリットについて整理しておこう。

●実戦力のある社員の育成

先端技術、業界の動向、経済状況など、刻一刻と変化する環境の中で、実際の業務を通じて人材を育成することが「OJT」の特徴だ。業務内容や仕事の進め方に対する理解が格段に向上するうえ、対応力も磨かれる。仕事の最前線で戦力として計算できる人材を育てられる、というわけだ。

●生産性低下の抑制

研修のための時間・機会を別途設ける「OFFJT」に比べると、部署ごとの生産性は下がりにくく、上述の通り新入社員が着実に戦力となっていくことも期待できる。

●個人の特性・資質に合わせた指導

「OJT」では、新入社員の性格やスキル、理解度などに応じて、与える仕事の内容と量、育成のペースを柔軟に調整することが可能だ。

●コミュニケーションの活性化

「OJT」では、上司が部下を、先輩が後輩を、マンツーマンで指導するケースが多い。それだけ会話は増え、相互理解も進む。指導する側どうし、教わる側どうしの情報交換も加われば、社内全体でコミュニケーションは活性化する。全社的な協調性の醸成や人間関係の構築にも「OJT」は寄与するのだ。

●指導する側の成長

「OJT」において、上司や先輩は多様な新入社員と向き合うことになる。個々の特性に合わせて、どう説明すれば理解してもらえるか、どのような業務を担当させるべきか、最適な育成方針を立案し、実践しなければならない。こうした作業を通じて、指導する側も業務に対する理解が進み、指導スキルも磨かれることになるはずだ。

●育成コストの抑制

「OFFJT」では、研修プログラムの外注、講師の招聘、会場確保のための費用が発生するのに対し、「OJT」にはそれがない。通常業務内での育成なら残業や休日出勤にともなう手当ても不要だ。それでいて即戦力を育てられるのだから、コストパフォーマンスに優れた育成手法といえるだろう。

「OJT」にもデメリットや問題点があることに注意

「OJT」には、デメリットや注意しておかなければならない問題点もある。

●体系的な学習が困難

「OJT」は、課内・部内の業務や仕事の進め方など“目の前のこと”については学びやすいが、全社的な業務内容、大きなプロジェクトの全体像、中長期的な目標に沿った仕事への取り組み方などを体得できない恐れがある。

●指導する側のスキルに依る部分が大きい

「OFFJT」は専門の外部業者などによって研修が進められることが多く、一定の効果が期待できる。それに対し「OJT」では、上司や先輩など指導する側のスキルによって、育成の成果やスピードにバラつきが生じてしまう可能性が高い。

●業務の遅延・停滞

「OJT」では上司や先輩に“部下の指導”という仕事がプラスされる。相手の習熟度に合わせた研修、新人のミスをカバーすることなどが必要となり、指導する側の肉体的・精神的な負担の増加は避けられない。自身の業務と「OJT」の同時進行を上手にコントロールできないと、実務の遅延・停滞を招いてしまうだろう。

●新入社員が“放置”される危険性

指導する側が、業務全体の遅延・停滞を解消しようとすると、今度は「OJT」が機能せず、最悪の場合、教わる側が“放置”されてしまう危険がある。

「OJT」の的確・効率的な運用のために重要なポイントとは?

「OJT」は、メリットを最大化し、デメリットを最小化するために、いくつかのポイントを押さえて運用していく必要がある。

●「OFFJT」などと併用する

「OJT」と「OFFJT」を同時に活用している企業は多い。業務に取り組む姿勢・考え方、ビジネスマナーなど基本的な知識とスキルを「OFFJT」で学んでもらい、その後「OJT」を実施するのが代表的な手法だ。また一定期間の「OJT」の後、「OFFJT」によってこれまでの業務を振り返ったり、全社的な業務を体系的に学んだり、というサイクルを繰り返すことも考えられる。

「OFFJT」には、「OJT」だけでは学べない知識やノウハウを得られるメリットがある。いっぽう「現場での実用性が低い研修内容となってしまう恐れ」、「一定時間の拘束」、「コスト増」といった課題も「OFFJT」は抱えている。「OJT」と「OFFJT」が互いにカバーして相乗効果を発揮するようなプログラム作りや、研修を受ける側と職場の負担が少なくなるような仕組みの構築が重要だ。

ジョブ・ローテーションを採り入れるのもひとつの手だろう。この場合も、複数の部署・職務を経験することで業務の遂行に必要な知識や能力を総合的・体系的に習得できるよう、人材ポートフォリオと綿密な計画に基づいて実施することが大切である。

●指導する側のトレーニング

上司・先輩など指導する側のスキルによって成果に差が生じてしまう、という「OJT」の問題を解決するために、階層別研修に「OJT」関連の学習プログラムを組み込むなど、指導する側を育成する手立てが不可欠となる。「OJT」関連スキルの習得を配置転換や昇進の条件とすることも考えられるだろう。

また現場や個人に任せきりにするのではなく、育成担当者との面談、成果の検証、実務が遅延・停滞していないかの確認などによって、「OJT」の進行度と業務の現状を把握し、適切にサポートしていくことが企業側には求められる。

●「OJT」に向いている業務・向いていない業務の整理

「OJT」は、すべての職場・職種で等しく成果を発揮するものではない。通常業務の中で人材を育てるという手法の性質上、どうしても「OJT」に向いていない業務は存在する。

仕事の進め方が一定で、ルーティンやルール、内規などが十分に整備され、マニュアルも確立している業務であれば、「OJT」は有効だ。こうした業務では指導する側のスキルの差も問題となりにくく、職場全体にかかる負荷も少なくてすむ。

いっぽう新規のプロジェクトや、先端技術・経済動向の影響を受けやすい部門など、イレギュラーな事態が頻繁に発生する場で「OJT」を実施することは難しい。指導する側・される側、双方の負荷が大きくなり、思ったような成果が得られなかったり、前述した業務の遅延・停滞、放置といった問題が生じたりする危険度も高まるだろう。

「OJT」を成功させるために必要なこととは?

「OJT」は単に「とりあえずやりながら学べ」では機能しない。また「OJT」の基本である、手本を示す、説明する、やらせてみる、確認・指導する、というステップを踏んだとしても、単発的・対症療法的な指導では十分な成果をあげることはできない。「OJT」で重要なのは、目的・意図があること、計画に基づいていること、継続すること、という3点である。

目的・意図とは「どのような人材に育てるか」、すなわち育成後の具体的な人物像の設定だ。これがあってはじめて、「OJT」で習得すべき知識やスキルも明確なものとなる。

育成後の具体的な人物像に加えて、教わる側の経験、知識、スキル、性格などを把握することで、ようやく「OJT」の計画が立てられるようになる。誰を担当者にするのか、何をどこまで身につけさせるのか、どんな業務にあたらせるのか……、具体的な研修内容やスケジュールを立案し、“期待される人物像”へ向けて計画的に「OJT」を進めていくことが重要である。

当初の目的・意図を変更する必要が生じたり、教わる側の成長度に合わせて計画を見直したりすることもありうる。これも場当たり的ではなく、評価方法などを確立して研修の成果を都度検証し、中長期的なスタンスで「OJT」を継続していくことが求められる。

近年、自己のスキルアップに意欲的で、就職先の選定にあたって「OJT」をはじめとする人材教育の充実度を重視する若者が増えている。企業側にも「OJT」が人材の確保数や定着率を左右することが知られるようになった。より効果の高い「OJT」を実現することが、新入社員だけでなく自社そのものを成長させる原動力となるはずである。
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