経営幹部や上司の皆さんが近年、最も留意していることの一つとして「パワハラ」があるのではないでしょうか。ひと昔前なら、良くも悪くも当たり前であった叱り方が、ともすると「それ、パワハラですよ」と言われかねない時代。

「これ、言ってよいだろうか?」
「こんなこと言ったら、問題にならないだろうか?」

部下と話すこと自体にハラハラドキドキしている上司が増えていると聞きます。すべてを受け入れて、寛容に…という優しさが求められるいま、あえて逆張りのコミュニケーションで上司として光ってみませんか?
第48回:強気で突き放す戦略が、上司の魅力を光らせる。パワハラを恐れすぎずに“上司ブランド”を高めるコミュニケーションとは

冷たく接して、上司ブランドを獲得!?

「従業員もお客様として扱うべし」という教えがありますね。接客の基本は、「お客様は神様」。ホスピタリティある対応を心がけよと、あらゆる接客業で教育されます。ところが、これが逆効果になるという研究結果があるのをご存知でしょうか。

サザンメソジスト大学のモーガン・ワード教授による調査では、こと高級ブランド店や高級レストランにおいて、店員が「冷たく」接したほうがお客様はその店の商品やサービスに対して“高級感”や“ブランド”、“洗練”を感じ、好ましい印象を持つようになることが分かりました。同じように、高級ブランドアパレルショップでは、店員が冷たい接客をすることで商品のファッション性が高いと評価され、「ぜひこの服を着たい!」という気持ちを高めるとのことです。つまり、質・レベルの高さを感じる印象は、歩み寄り・迎合に反比例するということなのです。

もしあなたの率いるチームが、高付加価値の商品やサービス、高度なソリューションを扱う事業や部署であるならば、この戦略は効果的かもしれません。その場合、もし上司のあなたが手取り足取り、親切丁寧に「接客」してくれることで、逆にメンバーから見た上司としてのブランド感を落としているかもしれないのです。実は少し距離を置いて、あえてこちらからは関わりすぎずに接したほうが、「○○さん、できるな」、「○○部長、さすがだな」といった印象を抱かれるかもしれませんよ。

自己開示は「秘すれば花」

部下たち、あるいは取引先の方々と、人としての付き合いを深めて親密になるには、プライベートを含めての自己開示が大事です。人は、相手のプライベートな情報を知れば知るほど、心理的距離が縮まり親しさを感じるようになるからです。

ところが、「自己開示のし過ぎは逆効果にもなる」という研究結果もあるのです。ハーバード・ビジネス・スクールのマイケル・ノートン博士は、プロフィールに関する印象の調査を実施しました。調査において、自分の性格を4つ紹介・6つ紹介・8つ紹介・10こ紹介するものをそれぞれ作り、「どれがもっとも好ましいか」を聞いたところ、4つ程度の紹介は好ましく思われたものの、それ以上に数が増えれば増えるほど、好意を感じてもらえなくなることがわかったのです。

関係性が徐々に深まって、「相手と仲良くなりたい」、「親密になりたい」と思うと、相手に自分をもっと知ってほしくなり、相手も自分の話をよく聞いてくれるので、さらにいろいろと赤裸々に話すようになる。これが一定レベルを超えると、相手から好意を得られなくなってしまうということです。

自分の情報についてある程度の開示をしたら、逆にそれ以上は伝えないほうが良い。少し分からない部分や知らない部分があった方が、相手からの好意を得られるのです。これを心理学では「レス・イズ・モア効果」といいます。

世阿弥はこれを、室町時代初期には既に経験的に知っていました。その著書『風姿花伝』で、能を学ぶ者たちへの秘伝の一つとして、観客を魅了するコツは「秘すれば花」と伝えています。さすがですね。

皆さんはどうでしょう。部下たちに頑張って自己開示し過ぎて、引かれてたりしませんか? ぜひ、少しミステリアスな上司を演出してみてください。

叱れる上司でいるための自己防衛策

上記の通り、「開示のし過ぎ問題」はありますが、人は基本的によく知る人ほど親近感、親密性を感じます。

ロンドン大学のハンナ・ザゲフカ博士は、100名強の大学生に「2004年のスマトラ沖地震による津波被害についてどれくらい知っているか(災害の規模や被害状況など)」、「その被災に対してどれくらい募金するつもりがあるか」を聞きました。すると、津波被害についての状況をよく知っている人ほど多く募金しようとすることが分かったのです。

私たちは、相手のことをよく知れば知るほど、その人に憐れみを感じ、その人に対して冷たい態度を取れなくなります。相手を知ることはその人への愛着・共感を高めますが、だからこそ情に流され、厳しい態度を取れなくなってしまう面もあります。

さて、今回のテーマになぞらえれば、これはちょっといただけない部分がありますよね。そう、部下と親しければ親しいほど、彼ら彼女らが何かのミスを犯したときに、叱りにくくなるのです。

プロスポーツの監督などで、監督を務めている期間中は、選手たちとはプライベートで飲みに行ったりゴルフをしたりしないと決めている方がいらっしゃいます。これはまさに、厳しいプロの世界において、情でレギュラーを下ろしたり、契約解除したりといった対応ができなくなることを、未然に防ぐ行動なのです。

そこまでやるかとも思いますが、上司の皆さんの社内での立場や状況によっては、あえて部下たちに(心理的な部分で)あまり近づきすぎないことが大事な場合もあるかもしれません。

上司戦略として、自分の権威を高めたり、上に立つ人間としての行動をしやすくしたりするためのスタンスやアプローチも、時には大事でしょう。その方法をご紹介しておいてなんですが、やりすぎで「嫌な上司」にならないように、くれぐれもお気をつけください。
  • 1

この記事にリアクションをお願いします!