少子高齢化の進展に伴い、労働人口は減少しつつある。当然ながら、人材の採用・確保はますます厳しくなっているだけに、企業としては従業員の労働生産性をいかに高めていくかが鍵となっている。そこで活用したいのが、人材の育成を目的として研修を行うと厚生労働省より助成金が支給される「人材開発支援助成金」だ。制度の詳しい内容や、申請方法などを解説する。
厚生労働省が支給する「人材開発支援助成金」とは? 申請方法や2023年の制度見直し内容を解説

「人材開発支援助成金」とは?

「人材開発支援助成金」とは、労働者のキャリア形成を段階的・体系的に支援する制度だ。具体的には、事業主が正規雇用する労働者に対して仕事内容に関連した専門的な知識やスキルを習得させるために、職業訓練等を計画的に行った際の経費や訓練期間中の賃金の一部を国から助成される。

主な受給要件は以下の3つである。
(1)雇用保険の適用事業所であること
(2)支給審査への協力
(3)期間内の申請

●「人材開発支援助成金」と「キャリアアップ助成金」の違い
「人材開発支援助成金」と混同しやすいのが、「キャリアアップ助成金」だ。実際には、対象者と支援目的が大きく異なっている。

まず、「人材開発支援助成金」の対象者は正規雇用労働者である。その正規雇用労働者のスキルを高め、企業の永続的な発展につなげていくことを支援目的としている。これに対して、「キャリアアップ助成金」の対象者は、パートやアルバイト、派遣労働者などの非正規雇用労働者(有期雇用労働者)だ。非正規雇用労働者が正規雇用労働者になるための支援を行い、雇用の安定や処遇の改善を推進することが支援目的となる。

「人材開発支援助成金」のコース一覧

「人材開発支援助成金」には以下の7コースがある。それぞれについて解説していこう。

●人材育成支援コース
人材育成支援コースでは、以下の訓練を実施した際に訓練経費や訓練期間中の賃金の一部が助成される。

(1)雇用する労働者に対して職務に関連する知識やスキルを習得させるための訓練
(2)厚生労働大臣の認定を受けたOJT付きの訓練
(3)非正規雇用労働者を対象とした正社員化を目指す訓練

●教育訓練休暇付与コース
教育訓練休暇付与コースでは、有給教育訓練等の制度を導入した上で、労働者が教育訓練休暇を取得し訓練を受けた場合に助成される。ただし、このコースは令和8年度までの期間限定助成となっている。

●人への投資促進コース
人への投資促進コースでは、以下の訓練を実施した際に訓練経費や訓練期間中の賃金の一部が助成される。

(1)デジタル人材・高度人材を育成する訓練
(2)労働者が能力開発に向けて自発的に行う訓練
(3)定額制訓練(サブスクリプション型の研修サービス)

こちらのコースも令和8年度までの期間限定助成となっている。

●事業展開等リスキリング支援コース
事業展開等リスキリング支援コースでは、新規事業の立ち上げなどの事業展開に伴い必要となる新たな知識やスキルを習得させるための訓練を実施した場合に、訓練経費や訓練期間中の賃金の一部が助成される。こちらのコースも令和8年度までの期間限定助成となっている。

●建設労働者認定訓練コース
建設労働者認定訓練コースでは、以下の場合に助成される。

(1)認定職業訓練または指導員訓練のうち建設関連の訓練を実施した場合
(2)建設労働者に有休で認定訓練を受講させた場合

●建設労働者技能実習コース
建設労働者技能実習コースでは、雇用する建設労働者にスキル向上を目的として実習を有給で受講させた場合に、訓練経費や訓練期間中の賃金の一部が助成される。

●障害者職業能力開発コース
障害者職業能力開発コースは、障害者の雇用促進や雇用の継続を目的としている。具体的には、障害者に対して職業に必要な能力を開発・向上させるために一定の教育訓練を継続的に実施した場合に、その施設の設置・運営に要する費用の一部が助成される。

2023年の「人材開発支援助成金」制度改正内容

2023年には「人材開発支援助成金」制度を巡って、さまざまな改正がされている。主要な点を紹介していこう。

●訓練コースの統合
2023年4月に訓練コースの統合が行われている。具体的には、正規雇用労働者向けの「特定訓練コース」と「一般訓練コース」、有期契約労働者等向けの「特別育成訓練コース」の3つが統合され、「人材育成支援コース」として生まれ変わった。

●「人への投資促進コース」の対象者と対象訓練の拡充
「人への投資促進コース」は、デジタル人材・高度人材の育成を主眼としており、情報技術分野認定実習併用職業訓練も助成対象となっている。2023年4月からは、その対象労働者が有期契約労働者等を含めた雇用保険被保険者にも広がった。

また、対象となる訓練も拡充されている。具体的には、高度デジタル人材訓練の支給対象訓練に経済産業省と情報処理推進機構が連携して開設したマナビDXに掲載されている講座のうち、「ITSS+」及び「DX推進スキル標準」のレベル4、または3に区分される講座が追加されている。

●計画届の提出方法の変更
従来は、年間職業能力開発計画期間内に新たな訓練を実施する場合、「訓練実施計画変更届」による訓練の追加を求めているコースがあった。これが、2023年からは訓練を新たに実施する場合、その都度、「職業訓練実施計画届(様式第1-1号)」を提出するよう変更された。

●電子申請が可能に
2023年4月から、雇用関係助成金ポータルでの電子申請が可能となった。当然ながら、「人材開発支援助成金」も電子申請が可能だ。これにより、利便性の向上や負担の軽減、24時間申請や申請状況の確認が実現され、手続きを進めやすくなっている。

●「生産性要件」の廃止と「賃金要件」及び「資格等手当要件」の新設
2022年までは、生産性を向上させた事業主には助成額が加算されていた。2023年からはこれを廃止。新たに、企業における付加価値を労働者に賃上げとして還元することを目的として、「賃金要件」及び「資格等手当要件」により助成額の加算を行っている。具体的には、「賃金要件」または「資格等手当要件」のいずれかを満たした場合には、訓練経費についてはプラス15%等の加算分を追加で受給することができる。

「人材開発支援助成金」の支給申請方法と注意点

◆「人材開発支援助成金」の申請手順

既に、「人材開発支援助成金」には7つのコースがあることを説明した。実はそれぞれのコースによって、支給申請方法は異なるので注意したい。ここでは、基本的な支給申請手続きの流れについてだけ説明しておこう。以下のようになっている。

(1)都道府県労働局に訓練計画を訓練実施の1ヵ月前までに提出
提出にあたっては、社内における職業能力開発を推進する「職業能力開発推進者」の選任と事業所の人材育成の基本的な方針を記載した「事業内職業能力開発計画」の策定・周知を行う必要がある。また、訓練実施計画届や年間職業能力開発計画など申請に必要な書類は、いずれも厚生労働省のホームページからダウンロードできる。

(2)訓練計画書に則って実際に訓練を実施

(3)訓練を終了後、2カ月以内に労働局に支給申請を提出
提出書類には、支給要件確認申立書や支払い方法・受取人住所届、支給申請書などがある。こちらも厚生労働省のホームページからダウンロードできる。

(4)審査を経て、助成金を受給
支給決定通知書の到着後、2週間ほどで登録された振込先に助成金額が振り込まれる。

◆「人材開発支援助成金」の注意点

●研修終了後の支給である
上記の支給申請手続きの流れでも触れたが、あくまでも研修終了後に支給を申請し、支給審査を経て支給・不支給が決まる。研修前に支給されることはない。また研修を行ったとしても、必ずしも支給されるわけではないことを注意しておきたい。

●支給要件が詳細に定められている
「人材開発支援助成金」は、対象の訓練でなければ助成金が支給されない。しかも、対象の訓練であっても、訓練の実施時間や従業員の雇用形態、年齢、人数など条件が詳細に定められている。このため、申請をする際には支給要件を事前にチェックしておく必要がある。

●申請手続きに手間がかかり、期間も限られている
3つ目の注意点が、支給申請手続きが煩雑であることである。ジョブカードや訓練計画、受講者の評価や支給申請書類など、幾つかの資料を作成して提出しなければならない。したがって、どうしても申請手続きに手間が掛かってしまう。しかも、申請期間は訓練終了後の翌日から起算して2ヵ月以内に限られている。この期間内で必要な書類を用意する必要がある。


本文最終章で取り上げた、「人材開発支援助成金」の支給申請における留意点は「人材開発支援助成金」のデメリットともいえる。その一方で、従業員の生産性向上や人材育成コストの削減、従業員のキャリア形成の促進、従業員のモチベーション向上などメリットも少なくない。

ただし、数年ごとに制度改正されているため、申請をする場合には最新情報を把握しておく必要がある。特に、提出書類や申請する際の条件、申請期間などは誤りのないように下調べを行いたい。それらを徹底できれば、人材の育成を推進する企業にとって「人材開発支援助成金」は有用な制度である。さまざまな準備が必要となるため、計画的に活用したい。

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