現在、新型コロナウイルス感染症のまん延により、多くの企業が事業規模の縮小を余儀なくされている。その結果、今、大きな注目を浴びているのが、従業員を休業させたときに利用できる「雇用調整助成金」である。しかし、大変残念な話だが、助成金には“不正受給”がつきものである。そこで今回は、「雇用調整助成金」を不正に受給した場合の行政機関の対応を整理してみたい。
コロナウイルス緊急事態宣言下の雇用調整助成金“不正受給”に対する行政機関の対応とは

従業員を休ませたときに利用できる「雇用調整助成金」

今般の新型コロナウイルス感染症のまん延により、経営危機に直面している企業は少なくない。行政機関からの要請を受けて休業したり、予約客のキャンセル・顧客数の激減により休業を余儀なくされたりしている企業が、全国で後を絶たない状況である。企業がこのような状況に陥ったときに活用できるのが、雇用保険の制度から支給される「雇用調整助成金」である。

「雇用調整助成金」は、経済上の理由で事業縮小を余儀なくされた企業が、従業員を休ませた場合に受け取ることが可能である。企業側の事情で従業員を休ませた場合、企業は従業員に対して平均賃金の60%分以上の休業手当を支払わなければならないが、その支払い原資にあてるために、この「雇用調整助成金」が支給されるわけである。

コロナウイルス禍を受け、現在、「雇用調整助成金」は従来よりも受け取りやすくなっている。具体的には、2020年4月1日~6月30日までの3ヵ月間が緊急対応期間と位置付けられ、従前よりも助成対象・要件の緩和や助成率の拡大、手続きの簡素化などがおこなわれているところである。

“不正受給”への措置には企業名・代表者名の公表もありえる

ただし、「雇用調整助成金」の利用にあたっては、極めて重要な注意事項がある。“不正受給”を行わないことである。

偽り、その他の不正行為によって本来受けることのできない助成金の支給を受ける行為、または受けようとする行為を“不正受給“という。雇用保険の各種助成金の“不正受給”には厳しい措置が講じられることになっている。この点については、新型コロナウイルス感染症の影響による助成金申請であったとしても、変わることはない。

万一、「雇用調整助成金」の“不正受給”が判明した場合には、通常は次のような対応が取られることになる。

・不正が発覚した最初の判定基礎期間以降に支給された助成金の全額返還
・上記に加え、不正受給の日の翌日から納付の日まで、年5%の割合で算定した延滞金と不正受給により返還を求められた額の20%相当額の支払い
・不支給とされた日、または支給を取り消された日から5年間について、雇用保険料を財源としたすべての助成金の受給禁止

さらに、行われた“不正受給”が特に重大、または悪質と認められた場合には、以下の内容が報道機関や行政機関の広報を通じて公表されることになる。

不正受給を行った事業主の名称と代表者の氏名
不正受給を行った事業所の名称・所在地・事業概要
不正に受給した助成金の支給決定取消日と不正受給の金額
不正の内容
社会保険労務士または代理人や教育訓練を行う者が不正に関与していた場合には、それらの者の名称や所在地
など

加えて、悪質性が高いケースでは刑事告訴がおこなわれることもある。

「雇用調整助成金」の支給を受けた場合には、その後、当該企業に対して事前連絡なしに行政機関による立入検査がおこなわれることが多い。そこで“不正受給”が発覚するケースも少なくないようである。

企業の存続を危うくする“不正受給”は厳に慎むべし

最近の事例をひとつ紹介しよう。2020年2月5日、大阪労働局は大阪市中央区に所在する建設業を営む企業について、約300万円の「雇用調整助成金」を“不正受給”したとして、企業名・代表者名などの企業情報の公表に踏み切った。手口は、出勤簿と賃金台帳を偽造して虚偽申請をおこない、本来受給することのできない「雇用調整助成金」を不正に受給した、というものである。

“不正受給”の代償は極めて大きい。悪質性が高いと判断されれば上記のように企業情報がすべて報道機関に公表される。さらに、その後長期間にわたり、行政機関のホームページ上で不正の事実が公開され続ける。当然、社会的信用が大きく失墜する結果となり、事業の存続にもかかわる事態に陥ることは少なくない。

企業経営の現場では、「書類をこのように書き換えてしまえば、助成金をもらえるのではないか」との思いにとらわれてしまうことがある。しかしながら、雇用保険の制度から支払われる助成金は、各企業が負担した雇用保険の保険料を財源としており、無尽蔵に資金があるわけではない。したがって、要件に該当した企業に適正に支給されることが、何よりも重要となる。

新型コロナウイルス感染症のまん延という社会問題は、行政機関・民間事業者・消費者などすべての国民が一致団結し、なんとか切り抜けていかなければならない“大きな国難”といえる。企業経営上、極めて厳しい経済情勢下にあることは重々承知をしているが、それでも「不正な手法を用いてでも得をしたい」という考えだけは厳に控えたい。


参考資料:厚生労働省「雇用調整助成金ガイドブック」(2020年3月1日現在)※PDF


大須賀信敬
コンサルティングハウス プライオ 代表
組織人事コンサルタント・中小企業診断士・特定社会保険労務士
https://www.ch-plyo.net

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