三菱HCキャピタルは2021年、三菱UFJリースと日立キャピタルの経営統合で発足した。「未踏の未来へ、ともに挑むイノベーター」を「31年度のありたい姿」(経営統合10年後を見据えた長期ビジョン)に掲げ、その実現に向けた足元のステップである「2026〜2028年度中期経営計画(以下、2028中計)」において、人財ポートフォリオの充足と、同社独自の「MHC(三菱HCキャピタル)エンゲージメント」の維持・向上を人財戦略の両輪としている。特徴的なのは、人財ポートフォリオの充足率を80%としていることだ。変化を前提とする経営環境の中で、あえて余白を残すこの考え方にはどのような狙いがあるのか。
同社 常務執行役員 人事・総務本部長の山口貴司氏と、プラスアルファ・コンサルティング 取締役社長の鈴村賢治氏が、人財ポートフォリオの設計と運用、定性情報の可視化、エンゲージメント、自律的なキャリア形成について議論した。(以下、敬称略)
【プロフィール】

■山口 貴司氏
銀行で人事等コーポレートセンターと営業の両分野を経験。2019年、前身の三菱UFJリース株式会社に入社し、監査部長を務める。2023年4月、常務執行役員 人事・総務本部長 兼 リスクマネジメント本部 副本部長に就任し、現在に至る。人財ポートフォリオの充足とMHCエンゲージメントの維持・向上を両輪とする人財戦略を推進している。
三菱HCキャピタル株式会社
常務執行役員 人事・総務本部長 兼 リスクマネジメント本部 副本部長

■鈴村 賢治氏
中央大学理工学部卒業後、株式会社野村総合研究所に入社。システムエンジニアとしてキャリアをスタートし、その後、テキストマイニングやデータマイニングなどの分析コンサルティングを多数経験。2007年、株式会社プラスアルファ・コンサルティングに入社し、取締役副社長に就任。データ活用の知見を活かしたタレントマネジメントシステム「タレントパレット」事業を立ち上げ、社員のパフォーマンスを最大化する「科学的人事」を考案。その方法論の確立と啓蒙活動に尽力している。
株式会社プラスアルファ・コンサルティング
取締役社長

リースの先へ。事業変革を支える人財戦略
鈴村 三菱HCキャピタル様は2021年の経営統合後、初となる2023~2025年度中期経営計画の策定に先立ち、「31年度のありたい姿」について議論されています。その経緯からお聞かせください。
背景には、従来のリース業の延長線上だけでは持続的な成長を実現できないという危機感がありました。企業価値を高めるには、新たな領域への挑戦と事業ポートフォリオの変革が不可欠です。その実現の鍵を握るのは、人財であり、人財への投資や人財ポートフォリオの充足を重要な経営課題として位置づけています。
鈴村 従来のリース業だけでは成長が難しい背景について、もう少し詳しくお聞かせください。
山口 かつてリースは、設備導入時の資金調達手段の一つとして広く活用され、コピー機やオフィス備品などを中心に大きな市場を形成していました。しかし、市場環境の変化などにより、市場規模は20年前と比べて大きく縮小しています。
一方で、当社は単なるファイナンスにとどまらないノウハウを蓄積してきました。当社がアセットの所有者となり、その価値を高めながら管理していく力です。これはさまざまな事業に応用できます。
例えば、環境エネルギー分野では、自ら発電事業者となって太陽光発電設備を保有し、事業を展開しています。アセットの価値を最大化するという強みを軸に、事業領域を広げているのです。従来型のリース業にとどまっていては、企業価値を高めることは難しいと考えています。
鈴村 そうなると、既存事業を担う人財と、新しい領域を開拓する人財の両方が必要になりますね。前中期経営計画(2023~2025年度)でその土台を築かれ、今年度(2026年度)からスタートした新たな「2028中計」では、さらに具体的な人財戦略を展開されているのでしょうか。
山口 そうです。事業領域が広がるにつれて、求められる専門性も高まっています。そのため、それぞれの分野で経験を積んできた人財のキャリア採用をかなり強化しています。人財をどう揃えるかは、具体的にこの2028中計の目標にも明確に織り込んでいます。
なぜ100%ではなく80%なのか
鈴村 人財を中核に据えるという方針は、具体的にどのような目標に落とし込まれているのでしょうか。山口 2028中計の非財務目標として、「人財ポートフォリオ充足率」を掲げています。目標値は80%です。企業価値を高める原動力は人財ですから、単に人数を揃えれば良いわけではありません。必要な能力を持つ人財を適所に配置することが重要です。こうした状態を指標化し、経営目標として掲げること自体に意味があると考えています。
鈴村 財務目標と並んで非財務目標が置かれ、具体的な数値まで示されています。その水準を100%ではなく80%としたことにも、理由があるのでしょうか。
山口 現在の業務だけを前提にするなら、100%に近い状態を目指すべきでしょう。ただ、当社はこれからも新しい領域に挑戦していきます。3年後には新たな事業が生まれ、それに合わせて必要な人財や組織も変わっているはずです。あるべき体制を定め、不足を補う。その体制自体が常に動き続けます。
100%という数字には、どこか完成した印象があります。しかし、変革を続ける以上、完成という状態はありません。次の挑戦が始まれば、また新たに必要な人財が生まれる。その考え方を80%という数字に込めています。
鈴村 なるほど。100%というのは一見完璧に思えますが、あえて設定した80%は、まだ見ぬ未来の変化に対応するための健やかな余白とも言えそうですね。
山口 はい。もう一つ、人財は頭数だけでは測れません。10のポジションに10人いても、求められる役割を担える人が7人なら、充足しているのは7人です。教育や配置転換で、それを8人、9人へと高める必要があります。
一方、50%や60%では必要な人財が明らかに不足しています。変化への余白を残しながら、事業を動かす力も確保します。その両面から80%という水準を設定しました。
鈴村 実際の運用では、この80%という数字も変動していくのでしょうか。
山口 常に動きます。例えば、来年は85%になっても、その後新しい組織を立ち上げれば、その翌年には75%まで下がるかもしれません。そうした変動を抑えながら、継続的に80%以上を維持できる状態を目指しています。
鈴村 単に数を揃えるのではない80%。対外的には「なぜ100%を目指さないのか」と問われるかもしれませんが、変化し続ける企業だからこそ、常に未完成の余白を持ち続ける。この指標自体が、変革に挑む御社の強い覚悟を表していると感じます。

定義した要件は、作った瞬間から古くなる
鈴村 人財ポートフォリオの充足率を測るには、社内のポジションを定義し、どのような人財が配置されているかを把握する必要があります。職務や人財の定義は、どのように進めているのでしょうか。山口 ありたい姿の実現に必要な職務と要員を定義し、現在の人財とのギャップを把握します。不足は配置に加えて採用や育成で補います。
職務は部署と役職を掛け合わせると膨大になりますが、役割単位で整理すると125種類前後です。例えば、勤務地が違っても営業部店として担う役割には共通点があります。各社員がどの職務に適合するかを、人財データで把握しています。
鈴村 職務を定義すると、それぞれに求める人財像も明らかにすることになります。
山口 難しいのはスキルをどう測るかです。資格の有無のように整理しやすい情報もあれば、定性的な情報も多くあります。現在は一人ひとりが何を経験してきたのかという定性的な情報も含めて蓄積し、活用できる形にする取り組みを進めています。
協力:株式会社プラスアルファ・コンサルティング
この後、下記のトピックが続きます。
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●「潜在力」を引き出す人材配置と、作って終わりにしない人材要件の運用
●「従業員一丸となって取り組む状態」を目指し、自発性と多様性を可視化する独自エンゲージメント
●全社視点でキャリア開発を支える制度と、社員自らが定義する「イノベーター像」
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