
増加する育児・介護中の有業者
近年、子の養育や家族の介護をしながら働く人は増加傾向にある。総務省統計局『令和4年就業構造基本調査 結果の概要』によると、育児をしている者に占める有業者の割合は、2012年の71.1%から2022年には85.2%へと14.1ポイント上昇した。介護をしている者に占める有業者の割合も、2012年の52.2%から2022年には58.0%へと5.8ポイント上昇している。
給与低下時の随時改定のデメリット
通常、給与に大幅な変動が生じた場合には、厚生年金や健康保険の標準報酬月額は随時改定によって見直しが行われる。随時改定では、給与に変動が生じてから4ヵ月目に標準報酬月額を改定する。4月から給与が変わったのであれば、標準報酬月額が変わるのは7月から。新しい標準報酬月額に基づく保険料が実際に給与から差し引かれるのは、翌8月に支払う給与からとなる。
そのため、かりに4月から給与が低下した場合、4~7月の4ヵ月間の給与支払いでは従前の給与に基づく保険料が差し引かれる。つまり、当初4ヵ月は「給与は下がったが、保険料は下がらない期間」が続くわけだ。
給与低下時の随時改定にはこのような現象が伴うため、従業員の経済的負担の増加も懸念される。
給与低下の翌月から標準報酬月額を改定できる特例措置
仕事と療養・育児・介護の両立を支援するため、前述のような随時改定のデメリットを解消した特例措置が設けられることになった。これが2027年1月から新たに適用となる「療養、育児又は介護による報酬の減少に伴う標準報酬月額の保険者算定の特例」である。特例措置の最大の特徴は、給与が減少した翌月の標準報酬月額から改定できることである。4月から給与が低下したのであれば、翌5月から新しい標準報酬月額に見直される。通常の随時改定であれば標準報酬月額の改定は7月からのため、特例措置では保険料の変更時期が2ヵ月ほど早いわけだ。

(2) (1)を実施した理由が、療養・育児・介護のいずれかであること
(3) (1)を実施した結果、従業員の標準報酬月額が2等級以上低下し、その状態が3ヵ月以上続くことがあらかじめ見込まれること
たとえば、療養の必要性から従前よりも勤務時間の短縮を職場と合意した従業員がいるとする。その結果、4月から給与が低下し、下がった給与に基づく標準報酬月額は従前よりも2等級以上低下した。この状態が3ヵ月以上続くと見込まれるのであれば、5月から標準報酬月額を改定することが可能になる。
通常の随時改定よりも「給与は下がったが、保険料は下がらない期間」が短縮されるため、標準報酬月額の改定が仕事と療養・育児・介護の両立の障害になりにくい仕組みといえるだろう。
デメリットを説明した上で書面による同意を
今回の特例措置は通常の随時改定と異なり、適用に「固定的賃金の変動」が要件とされていない。そのため、「基本給は変わらないが残業時間が減少した」などのケースであっても、仕事と療養・育児・介護を両立する目的で就労調整を行った結果なのであれば、特例措置の対象とされる。ただし、この特例措置には年金や傷病手当金、出産手当金の受け取り額が減少するデメリットが存在している。したがって、利用に当たっては対象の従業員に事前によく説明をした上で、書面による同意を得ることが条件とされている。
通常の随時改定とは異なり、この特例措置を利用するかどうかは任意である。かりに、「将来受け取る年金額を減らしたくない」などの理由から従業員が特例措置の利用に同意をしない場合には、利用手続きを取らなくても何ら問題はない。
利用する場合には、『特例措置用の月額変更届』に『申立書兼同意書』を添付して提出をすることになる。提出書類の記載内容が事実であることを示す書類(出勤簿や賃金台帳、診断書、介護保険被保険者証のコピーなど)は、提出が義務付けられていない。ただし、これらの書類は届出日から2年間、適切に保存する必要がある。
なお、特例措置を利用する手続きに期限は定められていない。しかしながら、手続きが遅れても標準報酬月額の改定は遡及して行えないため、要件を満たしたら迅速に届け出を行うことが重要である。
2027年1月から導入される特例措置は、「仕事と療養・育児・介護の両立支援」を目的とした恒久措置である。該当する従業員が在籍する場合には、内容を正しく理解して適切に利用したい制度といえる。
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