京都に本社を置き、蓄電池技術をはじめとするエネルギー技術で、「社会インフラ」と「モビリティ」領域を中心に世界中のあらゆる産業で人々の暮らしを支えている、株式会社 GSユアサ。同社では現在、管理職層の役割定義にジョブ型の考え方を取り入れ、役割・評価・報酬の関係をより明確にする人事制度改革を進めている。その検討から運用に至る過程で、役割に応じた報酬水準を客観的に検証するために活用されてきたのが、『総報酬サーベイ』だ。

本記事では、同社の取締役 人事部長の樋口健志氏、人事部 担当部長の中村文重氏、マーシュ・マーサー・ジャパン株式会社 ワークフォース・アンド・リワーズ部門 代表の増渕匡平氏、同マネージャーの井口雄介氏による対談を通じて、GSユアサが人事制度改革で目指す姿と、『総報酬サーベイ』活用の実際、そして制度運用を通じて見えてきた変化について紹介する。(以下敬称略)

【対談者プロフィール】


  • 樋口 健志氏

    ■樋口 健志氏氏
    株式会社 GSユアサ
    取締役 人事部長

    1987年にGSユアサ(旧:日本電池)入社。産業用電池などを扱う事業部門の営業としてキャリアをスタートし、企画部門を経て、インドネシアに転勤。自動車用電池の生産販売拠点の拠点長を務める。その後、ハイブリッド車用リチウムイオン電池の開発・生産を主力事業とする株式会社ブルーエナジーのコーポレート部門、企画部門の責任者を歴任。2021年より人事部担当部長、2025年より現職。人事部門のトップとして人事・総務・法務・物流・リスク管理といった広範なコーポレート領域を統括している。

  • 中村 文重氏

    ■中村 文重氏
    株式会社 GSユアサ
    人事部 担当部長

    1997年にGSユアサ(旧:日本電池)入社。入社後は給与、採用、教育、人事管理、人事企画 など幅広く人事業務を経験。2016年、パナソニック株式会社より鉛蓄電池事業を譲受したことによって設立された株式会社 GSユアサエナジーに出向し、PMI推進による統合シナジー創出に貢献。現在は人事部 担当部長として人事諸施策の企画から実行までを牽引している。

  • 増渕 匡平氏

    ■増渕 匡平氏
    マーシュ・マーサー・ジャパン株式会社
    ワークフォース・アンド・リワーズ部門 プロダクト・ソリューションズ 代表

    日系証券会社で営業、人事を経験した後、2010年にマーシュ・マーサー・ジャパン(旧:マーサージャパン)へ入社。『総報酬サーベイ(TRS)』をはじめとする報酬データを活用し、既存顧客の運用支援や新規顧客への導入支援などに従事。2021年にプロダクト・ソリューションズ部門の責任者に就任。現在は、日本国内3,500社を超えるクライアントに対し、報酬・人材マネジメントをはじめとする組織・人事課題について、データやプロダクトを活用した課題解決を支援している。

  • 井口 雄介氏

    ■井口 雄介氏
    マーシュ・マーサー・ジャパン株式会社
    ワークフォース・アンド・リワーズ部門 プロダクト・ソリューションズ マネージャー

    大学卒業後、日系証券会社の営業部門にて資産コンサルティング業務に従事。2019年、マーシュ・マーサー・ジャパン(旧:マーサージャパン)に入社。西日本地域のアカウントマネージャーとして従事。市場データ分析を通じた国内外の役員・従業員報酬・福利厚生のコンサルティングを主な専門領域としている。

GSユアサ樋口様・中村様・マーシュ・マーサー・ジャパン増渕様・井口様

役割に応じた処遇へ――人事制度改革を支えた報酬データの活用

増渕 GSユアサ様は、事業環境や人材市場が大きく変化する中で、2024年から人事制度改革に取り組まれてきました。今回の改革は、単なる等級制度や報酬制度の見直しではなく、担う役割や責任に応じて人材を処遇し、より機動的な人材配置や抜擢につなげていく取り組みだと理解しています。まず、従来制度にどのような課題を感じておられたのか、お聞かせいただけますでしょうか。

樋口 当社は、日本電池とユアサコーポレーションの経営統合により、2004年に誕生した会社です。統合後しばらくは、両社の人事制度を踏まえながら運用していました。その後、約10年が経過したタイミングで一度制度改定を行いましたが、さらに10年が経つ中で、事業環境の変化や組織の実態と人事制度との間に、徐々に乖離が生じてきました。

例えば、経験や実績を積むことで等級が上がる運用が続いた結果、管理職層の人材が増える一方で、実際のポスト数や担う役割の大きさとの整合性を取りにくくなっていました。また、実際に担っている役割や責任の大きさが異なるにもかかわらず等級・報酬にあまり差が無い状態となっているという課題もありました。

こうした課題を受けて、役割や責任に応じた処遇へ移行するため、今回の制度改定に取り組むことになりました。新制度では、各ポジションの職務評価を行い課長職・部長職にそれぞれ3段階のグレード(等級)を設け、各グレードに期待される役割を明確に定義しています。この取り組みにあたり、御社からご支援をいただきました。
GSユアサ樋口様
井口 当社のコンサルティングチームと共に、当社の職務評価の考え方とGSユアサ様の役割定義を丁寧にすり合わせていきました。

増渕 役割や責任の大きさを整理した後は、それに見合う報酬水準をどう設定するかが重要になります。そこでご活用いただいたのが『総報酬サーベイ』ですが、それ以前は報酬水準を検討する際にどのような情報を参考にされていたのでしょうか。

中村 公的な統計データや公開情報をはじめ、入手可能な情報を組み合わせながら確認をしていました。ただ、それだけでは、自社が比較したい企業群や役割レベルに応じた報酬水準を把握するには限界があり、社内への説明材料としても十分ではないと感じていました。元々、海外駐在員の給与に関するデータなどを通じて、御社のデータは実務的に使いやすく、説明材料としても納得感があるという印象を持っていました。

今回の制度改定では、報酬水準をより具体的な比較軸で確認し、経営層に説明するための客観的な根拠が必要だと考え、『総報酬サーベイ』を活用することにしました。
GSユアサ中村様
井口 GSユアサ様では、キャリア採用の比重が高まる中で、社内の基準だけでなく、外部の報酬水準と照らし合わせながら水準を検討することが、より重要になっていたのだと思います。特に近年は、地域内の同業他社だけでなく、業界をまたいだ人材獲得競争や、リモートワークを前提とした広域での採用競争も意識する必要があります。採用競合となる企業の裾野が広がる中で、報酬水準を検討する際に見るべき比較対象も変化しています。

その点で『総報酬サーベイ』は、関西圏のデータに加えて広域の企業も比較対象にできるため、多様な条件で報酬水準を確認するうえで、参考にしやすいデータだと考えています。

中村 実際に検証を進めていくと、比較する企業群や役割レベルによって、参照すべき報酬水準も異なることがわかりました。自社の各グレードの役割に照らして、どの市場水準をベンチマークとするのが適切か、慎重に見極める必要があると改めて認識しました。

納得感のある比較対象群の設定が、経営層への説明と意思決定を支えた

増渕 『総報酬サーベイ』を活用して報酬水準を確認する際、どのような考え方で比較対象企業群を設定されたのでしょうか。

中村 関西企業という地域性だけで比較対象を絞ると、実際の人材獲得競争を十分に捉えきれない面もあります。そのため、地域だけに限定せず、金属・機械・電気機器などの業種や企業規模など、複数の条件を組み合わせながら、比較対象企業群を設定していきました。

また、報酬水準を見るうえでは“定点観測”も重要だと考えています。参加企業が毎年入れ替わると、報酬水準そのものの変化なのか、参加企業構成の変化によるものなのかが分かりにくくなる場合があります。

その点、『総報酬サーベイ』では、必要に応じて継続参加企業に絞るなど、比較条件を調整しながら確認できるため、経年変化を見る上でも有用でした。こうした比較条件の設定やデータの見方についても、都度御社と相談しながら進めました。

井口 重要なのは、GSユアサ様の事業特性や採用環境に照らして、どの企業群を比較対象とするかを見極めることです。企業規模や業種、地域などの条件設定によって、確認できる報酬水準の見え方は変わります。そのため、経営層に説明する際にも納得感を持てるよう、比較対象の考え方を一緒に整理していくことが大切でした。

ひと口に課長・部長といっても、企業ごとに等級も役割の大きさも異なります。そのため、GSユアサ様の各等級が、サーベイ上どのレベルに相当するのかを確認しながら、より実態に合った比較につながるよう、一緒に整理していきました。

中村 まさに、課長層・部長層の報酬水準を、どのデータで確認するのかは非常に悩んだ部分です。一般社員と管理職との水準差や、市場の報酬水準との整合性を考える中で、どのデータを判断材料とするのが妥当か、慎重に見極める必要がありました。そうした点で、比較条件の設定やデータの見方について御社からアドバイスをいただけたことは、大変参考になりました。

樋口 最終的には、課長層・部長層それぞれに設けた3段階のグレードについて、市場データを参考にベンチマークを定め、競争力のある水準に設定しました。

増渕 報酬水準の見直しは、人事部門だけで完結するものではなく、経営層との合意形成が重要になります。『総報酬サーベイ』のデータや、ベンチマークの考え方について、経営層の皆様はどのように受け止められましたか。
マーサージャパン増渕様
樋口 今年度の賃上げを検討する際、一般社員層の賃上げ幅が大きくなる中で、管理職層に同じ昇給幅をそのまま適用するのは難しい状況でした。そのため、管理職層については、一般社員層とは異なる考え方として『総報酬サーベイ』のデータを参考にしましたが、客観的な判断材料として示すことで経営層の理解を得ることができました。今後も市場水準との連動、人材の獲得やリテンションに資する報酬水準の実現を目指したいと思います。

増渕 一般に入手できる情報だけでは、採用競合となる企業群との報酬水準比較を、きめ細かく行うことが難しい場面があります。その点、『総報酬サーベイ』は、1,600以上の企業・組織が参加する報酬データをもとに、自社が参照すべき企業群を設定し、その中で報酬水準の妥当性を確認できます。こうしたデータは、人事部門の検討材料にとどまらず、経営層への説明や意思決定を支える客観的な判断材料としても活用しやすいと考えています。

協力:マーシュ・マーサー・ジャパン株式会社

この後、下記のトピックが続きます。
続きは、記事をダウンロードしてご覧ください。

●「人事の押し付け」ではなく、徹底した現場との対話が社員の理解・納得感を生む
●グレード・役割の明確化がもたらす抜擢人事の増加とキャリア形成の促進
●制度は「作って終わり」ではない。運用課題の解決と自律型人材の創出に向けた未来像

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