職場でミスやトラブルが発生したときには、原因を究明して再発防止に向けた解決策を講じる必要がある。その際には、ミスなどを起こした当事者を探し出す「犯人探し」が行われることも少なくない。しかしながら、結果として再発の防止が蔑ろ(ないがしろ)になり、職場の雰囲気まで沈滞するケースも見受けられる。果たして、ミス・トラブル発生時の「犯人探し」は好ましくない行為なのか。今回はこの点を考察してみよう。
第11回:なぜミスの「犯人探し」は問題なのか

「犯人探し」でミス再発の悪循環も

具体例で考えよう。A社の営業部門では、大型受注が期待できる新規顧客の紹介を受けた。しかしながら、営業担当者が顧客に提示した提案書・見積書に誤りがあり、結果として受注には至らなかった。

このようなとき、営業部門を統括するリーダーであれば、提案書・見積書の誤りというミスの原因を究明し、再発防止に向けた解決策を講じたいところである。その際、リーダーが部下に対し、「誰が間違えたんだ」と問い掛けたらどうだろうか。いわゆる犯人探しである。

確かに、リーダーが「誰が間違えたんだ」と尋ねれば、ミスを起こした部下は判明するかもしれない。しかしながら、リーダーのこのような問い掛けは、部下の心中に「怒られたくない」などのマイナス感情を醸成することがある。

このようなマイナス感情は、部下の好ましくない行動を引き起こすリスクをはらんでいる。ミスに対する虚偽報告・報告遅延・隠蔽などである。そのため、効果的な対策を講じることが困難になり、さらなるミスの発生という悪循環に陥るケースもあるようだ。

このように、ミス発生時に犯人探しを始める行為が有効な解決手段にならず、かえって問題を深刻化させることもあるのである。

失敗は「性格・能力が原因」と考えやすい

組織を統括するリーダーは、なぜミス・トラブルの発生時に犯人探しをするのだろうか。

リーダーがこのような行為に及ぶのは、必ずしもリーダー自身に何らかの原因があるからではない。ヒトには「他人の失敗はその人の性格や能力が原因だと考えやすい」という心理特性があるからである。

部下のミスなどに直面したリーダーの心理も同様だ。知らず知らずのうちに「提案書・見積書の誤りは、担当した部下の性格・能力が原因に違いない」と考えてしまう。「担当者の性格が大雑把だから間違いが発生したのではないか」、「部下の責任感の欠如が問題ではないか」などと考えやすいのである。そのため、その部下が誰かを探り出そうとするわけだ。このような心理傾向を『根本的な帰属の誤り』と呼ぶ。

ところが、ミスなどの発生原因は必ずしも個人の資質とは限らない。提案書・見積書の誤りも「提案書作成の指示に曖昧な点があった」、「見積書のデータ管理が部門内で不統一だった」など、本人以外に原因が存在するケースも多いものだ。この原因を突き止められない限り、ミスの再発防止は困難である。

「誰が問題か」ではなく「何が問題か」を問う

それでは、ミス・トラブルに直面したリーダーが適切な解決策を講じるには、どうすればよいだろうか。

このような場合に有効な方法のひとつは、「誰がミスを犯したのか」ではなく「何がミスを引き起こしたのか」を問うことである。つまり、「誰が問題か」ではなく「何が問題か」を尋ねるわけである。

「何が問題か」と問い掛けるポイントは、ミスが発生する仕組みを探り出して改善することにある。このように問い掛けられると、部下は「怒られたくない」という心理状況に陥りづらくなり、純粋にミスの原因である業務プロセスなどに思考を巡らせることが可能になる。その結果、「提案書作成の指示に曖昧な点があった」、「見積書のデータ管理が部門内で不統一だった」などの原因が、判明しやすくなるわけである。

もちろん、リーダーが「何がミスを引き起こしたのか」と問い掛けた結果、ミスを発生させた当事者が判明するケースも多い。しかしながら、あえて「誰がミスを犯したのか」とは問わないことにより、「怒られたくない」などのマイナス感情の発生を抑制し、前向きな行動を促すことが可能といえる。

「何が問題か」が部下の行動を変える

「誰が問題か」と「何が問題か」のいずれの視点をリーダーが持つかにより、部下の心理的安全性に与える影響は大きく異なる。「誰が問題か」を問う職場では部下の心理的安全性が低くなるのに対し、「何が問題か」を問う職場では高くなる。

そのため、「何が問題か」を問う職場では、ミスの発生という事態に対しても上席者に迅速に報告するなどの前向き・積極的な行動が期待できる。ミスによる被害の拡大を抑制でき、再発防止にも有効な対策が提案されやすいものだ。

職場全体で「何が問題か」を問うことが通常となれば、ミスはもとより些細な懸念事項までも情報が顕在化・共有化されやすくなる。その結果、ミスの未然防止・継続的な業務改善が実現できるものである。さらには、ミスが起きても犯人探しが始まらない職場環境は新しい取り組みへの挑戦を促し、前向きで活発な組織活動が期待できるだろう。

ミスやトラブルを完全になくすことは難しい。しかしながら、ミスなどを早期に発見し、再発しない組織はつくることが可能だ。その第一歩が「誰が問題か」ではなく、「何が問題か」を問う姿勢である。失敗の発生原因を個人に求め過ぎず、「何が問題か」に着目する姿勢が組織の活性化につながるだろう。
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