ダイバーシティや多様な働き方の推進を背景に、近年注目を集めている「サーバントリーダーシップ」。支援型のリーダーシップとも言われ、部下へのマネジメント手法において、従来の支配型のリーダーシップと大きく異なるのが特徴だ。本記事では「サーバントリーダーシップ」の定義や得られる効果のほか、デメリットや注意点、企業事例などをまとめて紹介したい。
組織活性化につながる「サーバントリーダーシップ」とは何か? 事例やデメリットを解説

「サーバントリーダーシップ」の定義とは

まずは、「サーバントリーダーシップ」の定義やリーダーシップとの違い、注目されている背景などを解説しよう。

●「サーバントリーダーシップ」とは

「サーバントリーダーシップ」とは、リーダーがメンバーに奉仕の気持ちを持って接し、その能力を最大限に発揮できるよう導いていくことを目的とする支援型リーダーシップだ。組織としてのビジョンやミッション、戦略を明確に提示し、メンバーを信頼するとともにその能力を認め、協力しあいながら、個の成長と組織全体の成長を促すことに重点が置かれている。

ポイントとなってくるのは、提示すべき方向性が自分勝手ではないこと。社会に貢献でき、会社に利益をもたらす価値ある目標を示して、その実現に向けて取り組むメンバーが自らの仕事を効果的、快適に進めていけるように努めることが大切になってくる。また、奉仕の精神を持つことも欠かせない。メンバーにまずは奉仕をして、その上でより良い思考・行動へ導いていくことを考える必要がある。

●支配型リーダーシップ、やさしいリーダーとは何が違う?

「サーバントリーダーシップ」は、日本でこれまで主流であった支配型リーダーシップとどう違うのだろうか。支配型リーダーシップとは、リーダーが自らの強い意思の下、権力や統率力を活かして、メンバーに一方的に指示や命令を与えて一定の成果を生み出していくスタイルだ。自分中心に組織を動かしていくので、強制型リーダーシップとも言い換えられる。

一方、「サーバントリーダーシップ」はメンバーを中心に考え、チームとしての成果を重視した組織運営を意味する。メンバーとの信頼関係と奉仕の精神を重視し、自主的・主体的に行動していける環境づくりを進めていくので、メンバーも安心して自分のやるべきことに専念でき、生産性も向上しやすい。

また、サーバントリーダーは単に優しいリーダーとも異なる。サーバントリーダーはメンバーに積極的に関わり、話に耳を傾け、組織の方向性を示すとともに、メンバー一人ひとりの可能性を開花させていく役割を担う。ただの優しいだけのリーダーだと、「メンバーの主張をすべて聞き入れてしまう」「メンバーの成長に無関心」という行動を取ることがある。優しさに見える行為が、実は無責任の表れかもしれないので注意が必要だ。

●注目されている背景

実は「サーバントリーダーシップ」は、1970年に米国の教育コンサルタントであるロバート・K・グリーンリーフによって提唱された。その理論が、今注目されている背景には急激に広がるグローバリゼーションや多様な働き方の推進、デジタル技術の進歩などによるビジネス環境の変化が挙げられる。それに適切に対応していくためには、もはや一人の支配型リーダーに指示や管理をすべて委ねていては間に合わない。また革新的なイノベーションも創出されない。メンバー一人ひとりの特性と能力を理解し、成果を生み出しながら成長していける環境を作り上げていく支援型リーダーが不可欠となっている。

「サーバントリーダーシップ」の10の属性

NPO法人「日本サーバント・リーダーシップ協会」は、「サーバントリーダーシップ」に重要となる10の属性を掲げている。それらを一つひとつ説明していこう。

●傾聴(Listening)

傾聴とは、相手の意見や考えにしっかりと耳を傾ける能力だ。リーダーとメンバーが確かな人間関係を構築するためにも、傾聴を実践し「部下が何を望んでいるのか」「どうすれば自分が役立つことができるのか」とじっくり考えなければいけない、また、自分自身の心の声にも耳を傾ける必要がある。自分が提示したミッションやビジョンが、本当に社会にとって役立つものであるのか、自分の存在意義とは何か、と問いかけ自身の成長につなげていきたい。

●共感(Empathy)

相手の立場に立って物事を考えることも大事な要素だ。そのためにも、権力を行使するのではなく、メンバーの気持ちやものの見方をしっかりと理解し、共感しようと努めなければいけない。相手に寄り添って可能性を理解するためには、感謝と思いやりを持って接する必要がある。共感力がある人には人望が集まりやすいことを覚えておきたい。

●癒し(Healing)

メンバーはいつも強い気持ちでいられるわけではない。時には落ち込んだり、傷ついたり、不安を抱いたりすることもある。そんな時に、心を癒してくれたり、本来持っている力を取り戻してくれたりするリーダーがいると、心強いものだ。組織内で欠けている点があれば、補完するという姿勢もリーダーの大切な役割となる。

●気づき(Awareness)

気づきとは、物事を客観的に見て本質を見極めたり、変化を察知したりする能力だ。これを持ち合わせていると、リーダー自身が気づきを得られるだけでなく、メンバーにも気づきを与えることができる。観察眼を持って、日々臨むようにしたい。

●説得(Persuasion)

地位や権限によってメンバーを服従させるのではなく、きちんと説明したり、意見を聞いたりなどして、メンバーの同意を得られるよう説得していくことも欠かせない。納得・説得が不十分であると、メンバーのモチベーションは下がっていくだろう。

●概念化(Conceptualization)

組織やプロジェクトがどうあるべきかというビジョンやコンセプトを持ち、それをメンバーにも分かりやすく示す必要がある。それができれば、リーダーとしての役割を最適化していける。

●先見力・予見力(Foresight)

先見力・予見力とは、過去の教訓や事例、現在の状況を踏まえ、将来どんなことが起きるかを予測する能力だ。その力があれば、正しい判断を下しやすくなる。

●執事役(Stewardship)

執事役は、自分の満足よりも相手のことを優先的に考える。同様にリーダーとして一歩引いた立ち位置を心がけ、メンバーに利益や満足を与えることを喜びとしなければならない。

●人々の成長に関わる(Commitment to the Growth of people)

会社を成長させていくには、一人ひとりの成長が欠かせない。それだけに、リーダーとしてはそれぞれのメンバーがどんな能力や特性、可能性を持っているのかを日頃からきめ細かく把握し、成長を支援・促進することにコミットしていく必要がある。特に目に見えない価値に気づけるかどうかがポイントになってくる。

●コミュニティづくり(Building community)

メンバーが成長するコミュニティを作り出していける能力を指す。また、生産性を高めていくために、そしてメンバー同士が協力しあえる職場環境にするためにも、リーダー自身がチームに奉仕する姿勢を見せていきたいものだ。

「サーバントリーダーシップ」を発揮することで得られる4つの効果

それでは、「サーバントリーダーシップ」を発揮しながら、組織を運営していくとどのような効果が得られるのであろうか。ここでは、4つ取り上げたい。

(1)メンバーの行動が変容する

まずは、メンバーの行動変容だ。リーダーがメンバーの話にしっかりと耳を傾けるとともに、本人の自主性を尊重すればお互いに信頼関係が生まれ、チームとしての一体感が形成されていく。自分を大切にしてもらえていると実感できると、責任意識も生まれ、行動の質も変わってくる。

(2)社内コミュニケーションが活性化する

メンバーが「自主性を尊重してもらえている」と思うことで、リーダーとのコミュニケーションも円滑になってくる。自ずとリーダーとメンバーの距離も近くなり、モチベーションの向上にもつながっていく。

(3)社員が自主的に目標を達成しようとする

組織のビジョンや目標を共有できていると、メンバーも自分が何をやるべきかが把握しやすくなる。全員が能動的・自主的に行動していくようになれば、組織としての成果を導きやすくなり、目標の達成に近づける。

(4)ユーザーファーストな経営ができる

「サーバントリーダーシップ」を導入した多くの企業では、逆ピラミッド型組織を取り入れている。新たに最上位に位置づけられたのは、顧客(ユーザー)だ。顧客を意識した経営を推進していくためにも、現場の声が尊重されやすくなってくる。

おさえておきたい「サーバントリーダーシップ」のデメリットや注意点

もちろん、「サーバントリーダーシップ」もメリットばかりではない。取り入れ方を間違えると、組織内にデメリットが生じかねない。どんなデメリットや注意すべき点があるのかを解説しておこう。

【デメリット】

・組織内の調整に苦労する
「サーバントリーダーシップ」は、対話型のリーダーシップである。対話を積み重ねる分、どうしても手間暇が掛かってしまったり、それぞれの意見調整に苦労したりする場面がある。

・ついていけないメンバーが出てくる
自ら思考していくとか、気づきを得るのが苦手だというメンバーも当然いる。上手くついていけないとなると、組織から脱落してしまう可能性もある。そのため、コミュニケーションスキルが不足しているメンバーへのフォローが重要になってくるだろう。

【注意点】

・経営層から「サーバントリーダーシップ」の意識を持つ
「サーバントリーダーシップ」を社内に浸透させていくためには、まずは経営層がサーバントな意識・精神を持つことが大切だ。影響力のある彼らが姿勢を変え、それを示していくインパクトは大きい。

・組織が逆ピラミッド型であることを意識する
多くの日本企業では、まだまだ社内ヒエラルキーが存在している。いわゆるピラミッド型組織だ。「サーバントリーダーシップ」を導入するにあたっては、それを逆にする。すなわち逆ピラミッド型にするという発想を持つことが重要となる。いきなりは困難かもしれないので、まずはできる範囲から実践してみるのはいかがだろうか。

気になる「サーバントリーダーシップ」の企業事例

最後に、「サーバントリーダーシップ」の導入事例を紹介しよう。

●資生堂

かつて経営が厳しい時期があった同社。そのタイミングで就任した当時の社長は「会社を再建する」「新しく生まれ変わらせる」というミッションの下、「店頭基点」を掲げた組織改革を遂行した。具体的には、顧客を最上位とする逆ピラミッド型組織にするために「サーバントリーダーシップ」を経営の中心概念として位置づけたのだ。その上で、社長は店舗で活躍するビューティーコンサルタントや営業職らの会議に積極的に参加。現場スタッフの意見や要望に耳を傾け、そこから得られた内容をもとに新たな施策を打ち出したり、環境の整備に力を注いだりなどして、社内風土を変え数々の改革を成功へと導いた。

●サイバーエージェント

サイバーエージェントは、社員の成長が組織の成長につながると考えている。子会社や新規事業を独自制度に基づいてランク分けし、互いに競争しあう環境を構築する。その一方、「2四半期連続で減収減益ならば、原則撤退を検討」というルールを定めている。これは、ルールの範囲のなかであれば社員の自己実現をサポートしていくという会社としての意思表示でもある。同社から、革新的なアイデアが次々と生み出されているのもそうした背景があるからだろう。
ビジネスの世界は今大きく変わりつつある。そうしたなかで、成長し続けていく組織となるには、リーダーの意識改革が不可欠となってきている。従来であれば、指示・命令を下すことがリーダーシップであると捉えられていたかもしれないが、それでは革新的なイノベーションはもはや起こりえない。メンバーに寄り添い、彼ら・彼女らが有する能力や資質を最大限に引き出し組織力として結実させていくマネジメントやリーダーシップが求められている。今回紹介した「サーバントリーダーシップ」のエッセンスを参考に、リーダー自らがスタイルを変え、より強い組織・チームを作り上げていただきたい。
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