売り手市場の採用現場では内定辞退が頻発し、企業・人事担当者の大きな課題となっている。近年の新卒採用では、卒業時点で1社以上の内定辞退を経験している学生が6割を超え、内定辞退率は高止まりの状態が続く。規模を問わず多くの企業がその対策に取り組む必要性が高まっている。本稿では、内定辞退の最新傾向や主な理由を解説するとともに、コストをかけて選び抜いた内定者を離脱させないよう企業・人事がとるべき対策、いざ内定辞退を受けた時の対応を紹介する。
「内定辞退」の文字が書かれたステッカー

内定辞退とは

内定辞退とは、採用のプロセスで企業が求職者に内定通知を出し、求職者も内定を承諾したにもかかわらず、求職者(内定者)側の都合で内定を辞退することをいう。

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●内定と内々定とは

「内定」とは、ある事項の決定を正式発表する前の段階、ほぼ決定している状態といった意味で、採用においては、企業が選考によって採用を決めたことを求職者に伝え、求職者側も承諾した状態をいう。「内定通知書」の発行・受諾によって内定とするケースが多い。

一方、「内々定」とは、内定よりも前の段階で求職者に採用の意向を通知すること。通知では、内定通知書などの文書ではなく口頭で伝えることもある。企業側は採用の意思を早い段階で求職者に伝えて、求職者には就職の準備をしてもらい、人材確保を確実にする意味合いが大きい。

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●内定取り消しとの違い

「内定取り消し」は、求職者に出した内定を、企業側が取り消すこと。内定辞退は求職者が辞退することだが、内定取り消しは内定を白紙に戻す主体が企業側である点が異なる。

なお、企業による内定取り消しは「客観的に合理的と認められ、社会通念の上で相当と是認できる場合」にのみ可能であるという判例があり、取り消しに相当する理由なく行ってよいことではない。

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●内定承諾後の辞退は可能?

企業と採用予定者の間で内定通知書の送付・承諾が行われると、基本的に労働契約は成立している状態と認識されているが、正式な雇用状態ではない。そのため、採用予定者の内定承諾後の求職活動の継続は労働基準法で厳しく制限できるものではない。企業は雇用を保障している状態だが、「職業選択の自由」が保証されている求職者は辞退することが可能といえる。

また、民法でも「雇用期間を定めない雇用契約はいつでも解約の申し入れができる」とされており、採用予定者から内定辞退の申し出があった場合、企業側がそれを拒否することは難しい。

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内定辞退の現状と傾向

リクルートキャリア(就職みらい研究所)が、2025年度卒業予定者を対象に行った「就職プロセス調査」から、内定辞退の現状と傾向について見ていく。25年卒の就職内定率は、卒業年の3月には98.8%で、就職活動した大学生のほとんどが内定を取得した。これを前提として、「就職内定率の推移」、「内定取得企業数」、「内定辞退の状況」に注目してみよう。

●就職内定率の推移と内定取得企業数

25年卒の就職内定率の推移を見ると、卒業前年2月時点で23.9%、同3月時点で40.3%。卒業年次が始まる4月時点で既に58.1%にものぼる。4月単月を見ると、10年前の15年度卒の同時期の割合(18.1%)の約3.4倍、3年前の22年度同月からも2倍以上の内定率となっている。
また、25年卒は、卒業前年2月までに初めて選考を受けた人が72.9%。大半が卒業年度を迎える前に就職活動を開始し、具体的な選考過程に進んだことがわかるデータもある。

学生の就職活動への動きが早いことと同様、企業側の選考開始から内定を出すまでのスケジュールの変化もうかがえる。最初の内定取得時期を見ると、卒業前年2月に内定取得したのは40.3%と、企業の内定出しの早期化が顕著である。この結果から、学生の半数以上で、企業が内定を出してから実際に入社・就業するまでに1年間もの期間が空いていることになる。その間に、候補者は複数の企業を比較したり、口コミや家族・学校からのアドバイスを踏まえて進路を再検討したりするため、内定辞退が発生しやすい状況が生まれていると考えられるだろう。

●内定辞退状況

25年卒ひとり当たりの内定取得企業数は平均2.64社。そして、内定辞退企業数の平均は1.61社である。内定辞退率を見ると25年度4月の時点で34.4%。企業としては、内定を出した学生の1/3程度から辞退されたことになる。年度末までの内定辞退率は63.8%で、かなり高い割合で内定辞退が頻発。また、1社以上の内定辞退が起きていることから、企業が内定を出した後も内定者は就職活動を継続していることがうかがえる。志望度が高くない企業でも内定承諾し、内定数を確保しようとする動きがあるのだろう。
内定取得企業数
なお、内定者から「就活で得らたこと」として以下のような内容が挙がった。
・就職活動をきっかけに知らない業界や企業を知ることで社会についての理解が深まった
・就職活動をきっかけに自己を俯瞰するきっかけとなった
・就職活動を通して自分が今後何をしていきたいのか、大切にしたいのか分かった

同じく、「就職確定先は就職活動開始前から知っていた企業だったか」の調査項目では、「就職活動を開始するまでは知らない企業だった」が過半数以上(54.1%)であった。

これらの結果から、就職活動自体が知らない業界や企業を理解する場となっていることがわかる。企業理解のほか、自己理解・キャリア観の形成についても、就職活動期間を通じて深化が進むといえる。選考のステップが進むにつれて企業理解や求職者が重視するポイントに変化が生じ、内定取得後も就職活動を継続する理由のひとつと考えられるだろう。

【参考】就職みらい研究所:就職プロセス調査(2025年卒)「2025年3月度(卒業時点)内定状況」(PDF)

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内定辞退が起こる主な理由

なぜ内定辞退が起こるのか、大きな理由は5つにまとめられるだろう。

●条件面の不一致

企業はある程度、仕事内容や勤務地、賃金などの待遇を公表しているが、採用選考の時点で求職者が詳細まで理解できているわけではない。選考のステップを経ることで公表されている内容以外の条件や実情に対する理解が進んでいく。そこで、「想定よりも給与水準が低い」、「勤務地や転勤の有無が想像と違う」など、求職者が希望条件とのギャップを感じると内定辞退につながる。

●企業文化や社風とのミスマッチ

内定辞退の防止策として、企業訪問や従業員との懇親会など、会社の実態に触れる機会を設ける企業も多い。内定者に働く姿を具体的に想像させることにつながるのでモチベーションアップに役立つ一方、交流した従業員や職場の雰囲気、業務内容に違和感をもった場合、希望条件とのギャップを目の当たりにすることになる。

繁忙期を避けた会社訪問の時期設定や、交流する従業員の選定など、機会を創出するにも企業内の協力大勢や配慮が必要である。

●選考対応への不満・不安

選考時の採用担当者、面接官の対応や印象が好ましくない場合、求職者が就職後も同様の対応を受けることを想像するため、内定辞退が起こりやすい。
具体的には、「電話やメールでの問い合わせや面接での対応が悪い」「採用試験や面接の通過連絡など、重要な伝達が遅い」「面接での採用担当者の様子・態度が悪い」などが挙げられる。求職者に対応する際、事務的で冷たいと感じられてしまう態度は控えるべきである。

●他社との比較・志望度の変化

企業が内定を通知した後も、内定者はまだ就職活動期間中ととらえている場合は、継続して他社との比較検討を続けていることが多い。その間に、内定者の希望とマッチする、志望度が高い企業が新たにできることがある。また、内定期間が長くなると、本当に内定企業に決めてよいのか、自身の選択に不安を覚えるタイミングが増えることもあり、内定辞退の要因になりえる。

●周囲の反対・影響

同時期に就職活動をしている学生の間や、インターネット上の口コミで、内定企業についてのネガティブな内容を見聞きして影響を受けるケースもある。ネガティブな情報は、家族や友人などの周囲から就職を反対される要因となり得るので、内定辞退につながる。

人事が押さえるべき内定辞退の防止策

内定辞退を防ぐために、人事・採用の担当者は内定を出した後もさまざまな対応をしなければならない。内定者の入社意欲を維持させ、他社との比較や周囲の情報によって気持ちが揺らがないようフォローしておく必要がある。内定辞退防止のめに人事が押さえるべきポイントを見ていく。

●条件・待遇の明確化とすり合わせ

求職者は職場環境や待遇などの条件面について詳しく尋ねないことが多々ある。選考が進む中で希望と実際とのギャップを感じることにつながるため、面接時には細かな点でも質問はないか確認し、選考の早い段階で正確な情報を提供するように努めることが重要だ。

企業の条件と求職者の希望に大きなギャップが起こらないようすり合わせをしないまま内定まで進んでしまうと、内定期間中に他社へ目移りしたり、就職後の明確なビジョンが持てない不安から内定辞退を考えたりすることになる。

●自社理解と魅力訴求の強化

求職者が開示されている企業情報を調べただけでは、企業への理解不足は否めない。企業の魅力は充分に伝わっていないといえる。社内報や自社ブログ、企業の公式SNSなどを活用して、企業の現状を内定者に積極的・毛継続的に発信し、内定者が頻繁に企業の情報に接する機会を作ることも防止策となる。

また、選考過程では、求職者が企業理解を深められるよう、疑問や不安を聞き取って素早く回答できる体制や仕組み作りをしておくことが必要である。

●内定者フォローとコミュニティづくり

内定から実際の就業までの期間が長くなると、内定者の不安が大きくなる可能性がある。企業は定期的なコミュニケーションを取って、内定後のフォローも万全にした方がよい。先輩社員のメンター制度といった体制作りも有効である。内定者が漠然とした不安を抱えた際も、何に対しての不安なのかを明確化させ、解決の糸口をつかむことにつながる。

また、就職後は同期となる予定の内定者同士で横のつながりを築かせることも採用予定者の不安解消につながる。昨今ではリアルな顔合わせの場を設けるだけでなく、SNSを使ったコミュニティをつくるケールも多く見られる。

【関連記事】「内定者フォロー」の目的や手法とは? 内定辞退を防ぐための事例やポイントを紹介

●先輩社員・現場との交流機会の提供

実際に働き始める前に研修や職場見学で企業の日常を見せたり、先輩社員や従業員との懇親会で社内の雰囲気を伝えたりすることも有効だ。実際にその企業で働く従業員の様子や雰囲気を知り、コミュニケーションを取る機会を増やすことで、自身の入社後の姿が想像しやすくなり、入社意識を高く保つことにつながる。

●定期的なコミュニケーションと不安解消

企業が、内定者から定期的な近況報告を受けられる場を設けて企業とのつながりを意識させることも有効である。内定者の近況を細かく知ることで、心的な変化に気づく可能性が高まる。すると、もし他の企業へ気持ちが揺らいだとしても気持ちを引き戻し、不安を解消するよう対応・対策を早いうちにとることが可能になる。

【関連記事】「内定者研修」とは? 目的・ゴール・内容と注意点を人事担当者向けに解説

内定辞退の連絡を受けたときの企業としての対応マナー

内定辞退の連絡は人事・採用担当が受けることになる。電話や対面、メールやなど、方法はさまざまだが、辞退の意思を伝えられた際でも、企業としての対応方法やマナーには注意しなければならない。内定辞退の連絡が来たときに必要な対応マナーについて説明する。

●辞退連絡への初期対応のポイント

内定辞退の連絡には、ビジネスマナーを守り、相手への配慮をもって対応する必要がある。主なポイントは4つあげられる。

・内定辞退に至った気持ちに寄り添った対応をする

連絡に対する返答はビジネスマナーなので、早めに行うよう心掛けた方がよい。また、感情的になることは避けるべきだが、事務的すぎても印象が悪い。内定者も辞退には多少なり後ろめたさを感じていることを想像し、連絡を受けたことを知らせつつ、「今後の活躍をお祈りしています」といった心遣いのある一言をそえるのが望ましい。

・メールで内定辞退の連絡が来た場合も、必ず返信をする

企業にとって採用は人的にも時間的にもコストをかけて行うため、メール1本で辞退されてしまうのでは、徒労感に苛まれるかもしれない。しかし、ポジティブな連絡ではないにせよ、ビジネスマナーと割り切って考えて届いた辞退連絡には早めに、確実に返信をすることが大切である。

・辞退の理由をヒアリングする

もし可能であれば、内定辞退をした理由を聞き取っておく。辞退に至った背景や原因を知り、同じことが起きないよう対策に活かすことができるだろう。

●辞退理由をヒアリングする際の注意点

理由を尋ねる際は内定者が責められていると感じないよう、まずは連絡を受け取ったこと、採用に応募してくれたことへの感謝を伝えるなどの配慮が必要である。そのうえで、「採用活動改善に役立てるため」といった、辞退理由を尋ねる動機も明確に伝える。

プライベートな理由である可能性もあるため尋ねる際の言葉は慎重に選び、話せる範囲でよいこと、社外秘を守ることなどを伝えことも必要である。

まとめ

企業にとって、必要な人材を確保して企業の成長・発展を促す採用戦略の重要性は高い。それと同様に、求職者にとっても就職は人生の岐路となる重要な決定だ。そのため、迷いや不安が生じることは当然のことだろう。内定辞退を減らすには、企業・人事が、大きな決断を前にした内定者に寄り添う姿勢を示すことが必要である。同時に、就業までの期間を上手く活用したコミュニティづくりや、必要な情報を提供し続けるフォロー体制の構築も行う必要がある。内定者の内面・環境ともに支える施策が内定辞退対策のカギと言える。

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