企業が応募者に対して内定の意思を示す書面となる「内定通知書」。法律上、どのような意味合いがあるのか、また「採用通知書」や「労働条件通知書」との違いについて理解しているだろうか。内定辞退や取り消しなど、内定者とのトラブルを避けるためにも、企業の人事・採用担当者は「内定通知書」に関する知識を備えておく必要がある。本稿では、「内定通知書」の意義やその法的効力、他の通知書との違い、記載項目、送付にあたっての注意点などを解説する。
「内定通知書」の内定辞退や取り消しに対する法的効力とは?  採用通知書や労働条件通知書との違いも解説

「内定通知書」の意義と法的効力とは?

「内定通知書」とは、企業が選考に進んだ応募者に対して内定したことを意思表示するための書類である。企業と応募者との間で雇用契約が合意されるのが内定であり、「内定通知書」は企業側から応募者へ「労働契約の承諾」通知する役割をもつ。よって、この書類は内定を応募者に知らせる証拠として扱われる。ただし、法的に交付が義務付けられているものではない。

「内定通知書」を交付する意義は二点ある。一点目は、トラブルの回避である。企業と応募者との口約束だけであると後々問題が生じやすいため、物的証拠として「内定通知書」を送る企業が多い。二点目は、他社よりも早く内定を通知し承諾を得ることである。複数の企業から内定を受ける応募者もいるため、入社してほしい人材に対してはスピーディーにその意思を伝え、応募者の意思決定を自社に有利なものとする働きかけが欠かせないといえる。

◆「内定通知書」発行後の内定取り消しは無効

内定は、労働契約法第6条に定められている「労働契約の成立」に該当する。よって、企業が「内定通知書」を発行し応募者に内定を通知すると、労働契約の開始時期が決定するとともに、内定取り消し事由に基づく労働契約の解約権が企業に留保されることになる。これは言い換えれば、「内定通知書」を発行した後は、正当な理由がない限り、内定取り消しは不可能であることを意味する。すでに成立した労働契約の解約に該当し、労働契約法第16条に示される「解雇権の乱用」となる。

ただし、「内定通知書」に明示した内定取り消し事由に該当する場合、また両者の間で取り消し事由に関する合意があった場合には、内定を取り消すことが認められる。具体的には、応募者による以下のケースが想定される。

●定められた期限までに学校を卒業できなかった場合(留年)
●健康を著しく害し勤務に重大な支障が出ると思われる場合
●履歴書や誓約書などに重大な虚偽がある場合(学歴の詐称など)

ただ、こうしたケースでも企業は解雇権の乱用と受け止められないよう、慎重な対応が求められる。

◆「内定通知書」承諾後の内定辞退は可能

逆に応募者が「内定通知書」を受領し、承諾した後に内定辞退することは可能なのか。もし可能な場合、その根拠はどこにあるのかについて解説したい。結論としては、内定辞退は可能だ。民法第627条1項で、「雇用期間に定めがないときは、解約(内定辞退)の申し入れから2週間が経過すると雇用契約が終了する」と定められている。すなわち、応募者は入社の2週間前までは内定を辞退できる権利を持っていることになる。そのため企業は、内定辞退者ができる限り出ないよう、内定者フォローを徹底する必要がある。

「内定通知書」と「採用通知書」、「労働条件通知書」との違い

次に、「内定通知書」と「採用通知書」、「労働条件通知書」の違い、また「内定承諾書」の意義についてそれぞれ説明する。

◆「内定通知書」と「採用通知書」の違い

「内定通知書」と「採用通知書」は、いずれも企業の雇用意思を伝える書類であり、発行義務もなく大きな違いはないと言って良い。強いて言えば、通知する内容に違いがある。言うまでもなく、「内定通知書」では内定が伝えられ、「採用通知書」では正式な採用が通知される。ただ、書類の意味合いや採用プロセスは企業によってさまざまであり、この2つの書類を別々に発行しているケースもあれば、兼用して「採用内定通知書」として発行しているケースも見られる。

◆「内定通知書」と「労働条件通知書」の違い

「労働条件通知書」とは、労働基準法第15条により労働契約の締結時に企業が、すべての労働者と取り交わすことが義務付けられている書類である。就業する場所や従事する業務の内容、休暇などの労働条件、オファー内容が記されているので、オファーレターとも呼ばれている。内定が労働契約の成立にあたると解説した通り、この書類は内定時に発行する必要がある。

◆「内定通知書」に同封する「内定承諾書」について

「内定通知書」に同封されることが多い書類に「内定承諾書」がある。これは、応募者が内定を承諾する意思を企業に示すための書類だ。企業が内定を得た応募者に労働契約を承諾したことを通知する「内定通知書」に対して、「内定承諾書」は、内定を得た応募者が「内定通知書」に記載された労働条件への同意を企業へ伝えるために提出する。企業によっては、「入社承諾書」、「入社宣誓書」と呼ぶ場合もある。

補足だが、「内定承諾書」には法的拘束力はない。署名後であっても、応募者が労働契約を解約できることを覚えておきたい。

「内定通知書」の記載項目

「内定通知書」には決まった様式はない。一般的な記載項目として、以下の内容があげられる。

・日付
「内定が確定した日付」、あるいは「内定通知書を送付する日付」を記載する。

・応募者の氏名
宛名として応募者の氏名を、履歴書通りに記載する。名前の間違いがないよう再確認しよう。

・社名
宛名の下に社名を記載する。省略せずに、正式な表記で記載する必要がある。

・代表取締役の氏名
会社として内定を出していることが応募者に伝わるよう、社名の下に会社の代表取締役の名前を記載する。

・採用試験への応募のお礼
本文に、自社に応募してくれたことに対するお礼を記載する。

・採用決定のお知らせ
内定が決まった旨を知らせることを記載する。

・入社日
・就業場所
・入社までに準備してもらう書類

・内定取り消し事由
万が一のケースに備えて、内定の取り消しにつながる可能性がある“やむを得ない事由”も提示しておく。内定者側の事由だけでなく、企業側に起こり得る事由も併せて記載することが重要だ。

・内定承諾書の送付期限

・担当者、連絡先
最後に問合せ先として、採用担当者の部署と氏名、連絡先を記載する。内定者に何か困ったことや質問したいことがあった場合に、担当者とスムーズに連絡が取れる環境を作っておくと、互いの行き違い、および内定辞退を防ぎやすくなる。

「内定通知書」送付の注意点

最後に、「内定通知書」を送付する際に何に注意したら良いのかを整理しておこう。

・採用決定後、約1週間以内に送付する
中途採用に関しては、「内定通知書」をいつ送付しなければいけないという明確な決まりがあるわけではないが、最終面接後1週間~10日以内を目安に、迅速に発送することで、応募者の意思決定を促すことができるだろう。ただ、新卒採用に関しては政府の要請から内定通知時期の決まりがあり、現行の採用選考スケジュールでは「卒業・修了年度の10月1日以降」と定められている。

・郵送の場合は書留で送付する
「内定通知書」の送付方法にも決まりはない。そのため、企業が自ら選択できる。郵送の場合だと、「配達記録を残せる」「企業への提出種類を同封できる」などのメリットがあげられる。しかし、「応募者のもとに書類が届くまでに時間がかかる」「送付するための手間やコストを要する」「他の郵便物に紛れて確認されない可能性がある」などのデメリットもあることを理解しておく必要がある。郵送で送付する場合は、紛失等を防ぐため、配達記録の残る書留で発送するとよい。

・メールによる送付も可能
「内定通知書」はメールで送付することもできる。メールだと、「すぐに内定を伝えられる」「手間やコストが少なくて済む」などのメリットがあるが、「迷惑メールに埋もれてしまう」「そもそもメールを開いてもらえない可能性がある」といった懸念点も留意しておこう。もし、「内定通知書」をメールで発行するのであれば、選考時にその旨を伝えておく必要がある。

・契約社員の内定に対しても交付した方がよい
「内定通知書」は、正社員だけでなく、非正規雇用で採用を予定している応募者にも発行することが望ましい。契約社員としての採用の場合も、基本的には交付すべきである。ただ、短期間での契約である場合、あるいは内定通知から採用までの期間が極端に近い場合は例外と言ってよいだろう。

・原則押印は不要
民法上の解釈によると、雇用契約は口頭のみでも成立し、「内定通知書」を作成したとしても押印は必要ないとされている。ただ、押印があると悪用の可能性も低くなり、企業が発行した公式の書類であると証明しやすくなる。


労働基準法では、労働条件の明示は義務付けられているが、「内定通知書」に関しては発行義務が記されていない。そのため、発行する・しない、発行する場合の様式や内容、発行時期などはすべて企業の判断に委ねられている。必ず認識しておかなければいけないのは、発行する場合には迅速かつ丁寧な対応を心がけること。そしてもう一点は、企業として応募者に内定を意思表示すると法的効力が発生すると言うことだ。正当な理由がなければ取り消しが無効となることは、留意しておくべきである。もし、そうしたトラブルを引き起こしてしまうと、企業イメージが大きくダウンしてしまいかねない。「内定通知書」は慎重に取り扱う必要があると言えよう。
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