「県内新たに3基金解散へ 積立金不足で決断(信濃毎日新聞、平成26年1月7日付)」。昨年6月に成立した厚生年金基金に関する法律の施行まで2ヵ月余りとなり、昨今、このような報道を目にすることが多くなった。
厚生年金基金が続々解散へ ~ ウチの社員の年金はどうなる?

 法律の名称は「公的年金制度の健全性及び信頼性の確保のための厚生年金保険法等の一部を改正する法律」。通称、「健全化法」などという。しかし、「健全化」という名称の実態は、財務上の余力が非常に大きい厚生年金基金以外は、存続が困難になる仕組みである(1月6日付けHRプロニュース『厚生年金基金が危ない~存続基準の改正で存亡の危機に』を参照)。

 厚生年金基金が払う年金は「国の厚生年金の一部を代わりに払う分」と「基金独自の上乗せ年金」の合計額である。「基金独自の上乗せ年金」がある分、基金の“ない”会社に勤めていた場合よりも、老後の年金収入が多くなるのが基金制度の特徴である。

 しかしながら、改正法の施行を間近に控え、業務を辞める「解散」へと舵を切り始める基金が少なくない。そのため、基金のある会社の総務・人事担当者、現役社員、OBの間では、「ウチの会社は基金がなくなるらしい。もう年金がもらえないのでは?」などと囁かれているという。厚生年金基金がなくなると、本当に年金はもらえなくなるのだろうか。

 厚生年金基金が解散した後の年金の支払いについては、非常に誤解が多い。典型的な誤解が「もう老後の年金がもらえない」というものである。これは大きな間違いである。基金が解散した場合、基金が払う年金のうち「国の年金に相当する分」は、国が年金支払いを全額引き継ぐからである(本年3月までの解散の場合には、企業年金連合会という団体が、支払いを全額引き継ぐ)。具体的には、旧社会保険庁から公的年金業務を引き継いだ日本年金機構が支払いを行うことになる。「国の年金に相当する分」は、全額、国が“直接”払うのだから、この点で不利益を被ることはない。

 「厚生年金基金が“ない”会社に勤めていた人よりも損をする」という誤解もある。しかし、基金が解散したために、基金が“ない”会社に勤めていた人よりも年金が減り、損をするという事態は、原則として起こらない。国から払われる老後の厚生年金は、「現役時代の平均月収」「勤務期間の長さ」「生年月日」などで金額が決まるが、基金の解散を理由に、本来、国が払うべき年金額を減らすというルールは存在しない。あたかも、“最初から基金に入っていなかった”かのごとく、国から全額が支払われることになる。

 ただし、「基金独自の上乗せ年金」は、基金解散と伴に支払いが終了してしまう。通常、厚生年金基金の解散時には、基金は「国の年金に相当する分」の支払に充てる予定であった財産を国に返還する。その後、残った財産がある場合には、現役社員やOBなどの関係者に「分配金」として支払い、清算をすることになる。したがって、生涯もらえたはずの「基金独自の上乗せ年金」がもらえなくなる点に関しては、不利益を被るといえる。

 企業の立場から基金解散の影響を考えた場合、各企業が「基金独自の上乗せ年金」の支払いに備え、通常よりも余分に払っていた掛金が、企業に返還されるのかとの問題がある。残念ながら、この掛金が解散に伴い企業側に返されることはない。

 それどころか、もしも基金の持つ財産が「国の年金に相当する分」を払うために必要な金額を割り込んでいる場合、傘下の各企業が不足額の穴埋めを求められることになる。このような場合には、各企業は「企業の存続」「雇用の継続」などの面で、厳しい立場に立たされてしまうことがある。

 厚生年金基金が解散した場合には、「本来、国から払われるべき年金額は、支払いが保証される」という点に大きな特徴がある。不利益を被る点があるものの、「基金が“ない”会社の人よりも年金が減る」という事態には陥らない。基金解散の影響は正しく理解したいものである。


コンサルティングハウス プライオ 代表 大須賀信敬
(中小企業診断士・特定社会保険労務士)

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