ところで、採用は成功したのか?

 結果的に9名の学生に内々定を出すことができた。本稿執筆時点で1名の辞退者があり、内定式まで予断は許さないものの、多くの中小企業が苦戦を強いられている2016年の採用戦線においては、大善戦といってよいのではないだろうか。
  その内定者のうち2名に話を聞くことができた。1名は、田中さん(関東学院大学、ハンドボール部所属、男子)、もう1名は今仲さん(法政大学、第二体育会剣道部所属、女子)という学生である。

 2人とも、ダイワの会社説明会に参加するまでは、同社のことはもちろん、倉庫・物流業界にも全く関心のなかった学生だ。届いたダイレクトメールやサイトを見て、ただ何となく説明会に参加してみたのだという。

 説明会に参加してビックリしたのは、自分たちとそれほど年齢の変わらない若手社員たちだけで運営しているということ。他社の説明会は、慣れた人事部員がソツなく運営しているのに、ダイワの説明会は、いかにも素人が、たどたどしく汗をかきながら必死に進行している。そこに驚きとともに、共感や親しみの気持ちを抱いたのだという。
第6回 あえて 「効率的でない採用」 に挑んだD社の現場から -オモテとウラの成長記録(6)
  もう1つビックリしたことは、社長自らが登壇して語りかけるような講演を行ってくれたこと。他の会社では、中小企業であっても社長が登場することは滅多になかったという。冗談を交えながらのフレンドリーな曽根の素の姿での講演は、学生たちの心を射止めたようだ。

 説明会は、社長の講演、(プロジェクトメンバーによる)会社説明、若手社員たちとの座談会という3つの柱で構成されていたのだが、最後の座談会もまた、学生たちには好評だったようだ。
 「この人たちは、本当に会社のことを好きなんだな」ということがひしひしと伝わってきたと内定者の今仲さんは評価している。
  この2人の内定者に、新卒採用プロジェクトの意図を説明したうえで感想を聞いてみた。

 「先輩たちの一生懸命さが伝わってきたのが何よりよかったです。先輩を通じて会社のありのままを理解できたことが、僕が入社を決めた一番の理由です。自分も入社後にはこのプロジェクトにぜひ参加してみたいと思います」(田中さん)

 「説明会中、“頑張れ!”と思わず応援したくなりました。一生懸命考えてやってくれているんだなと感じました。数ある選択肢の中からこの会社を受けようと思ったのも、この会社に入社しようと決意したのも、先輩社員たちのおかげです」(今仲さん)

次年度プロジェクトの構想

  このように、ダイワへの理解が深まった学生に内定を出せたことで、このプロジェクトの大きなミッションは達成された。が、実はまだ終わりではない。10月に開催する予定の「内定式」。これも彼らプロジェクトメンバーの大事なタスクだ。そして採用とは直接関係ないが、11月の社員旅行の企画・運営も、彼らのタスクにしようと考えているそうだ。たしかに、社員旅行は全社横断のプロジェクト。彼らにとっては自分たちの成長を試すための絶好の機会なのかもしれない。

 そして、構想はすでに次年度の採用(2017年度新卒採用)に向かっている。
 曽根は、今回の新卒採用プロジェクトを来年以降も継続させる方針だ。ただし、メンバーは入れ替える。入社年次が一番上のメンバー(発足当時入社3年目だった5名)は卒業してもらい、今年の新入社員たちに新たにメンバーに加わってもらう。入社して3年間は、このプロジェクトに参加することで、現場に埋没することなく会社全体を見渡せる視野を養わせたい。若手社員が配属部門を越えたコミュニケーション機会を得ることで、先輩、上司も自ずと刺激を受け、それが組織全体の活性化につながっていくはずだ。

 今回のプロジェクトの振り返りは10月の内定式後に実施することになっているが、またそこで数々の反省点や改善点がメンバーから自発的に出てくるであろう。それらを次年度プロジェクトにきちんと引き継いでいくことで、この新卒採用プロジェクトそのものが成長し続けるプロジェクトになっていくことだろう。


(人事マネジメント 2015年9月号より転載)
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