「給与」について、給料・手取り・所得などとの違いや、その計算方法について、人事担当者であればしっかりと理解しておく必要がある。また、従業員からの質問やトラブルに対応するためにも、給与の仕組みをしっかり押さえておきたい。そこで本稿では、給与の定義や計算方法、明細や源泉徴収票の見方、実務でのポイントをわかりやすく解説していく。
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「給与」とは

「給与」とは、企業が従業員に支払う労働の対価すべてのこと。これは、基本給だけでなく、残業代や各種手当、賞与(ボーナス)、現物支給なども含んだ報酬を指す。つまり、社宅や食事の提供なども「給与」の一部とみなされる。昨今は初任給の引き上げや給与体系の見直しが進み、人事担当者にとっても、給与設計や運用の重要性が増している。

所得税法第28条は、給与について以下のように定めている。

給与所得とは、俸給、給料、賃金、歳費及び賞与並びにこれらの性質を有する給与(以下この条において「給与等」という。)に係る所得をいう。

●「給料」との違い

「給料」は給与の中でも、毎月決まって支払われる基本的な報酬部分を指す。一方「給与」は、給料に加え、残業手当や各種手当、賞与なども含めたものだ。月給制の社員は「給料」として決まった額を受け取るが、繁忙期の残業代や通勤手当、年末のボーナスなどは「給与」に含まれる。つまり、「給料」は給与の一部であり、「給与」は「働いたことに対する総合的な報酬」と捉えるとわかりやすいだろう。

●「所得」との違い

「所得」は、給与などの収入から必要経費や給与所得控除を引いた後の金額を言う。この所得が、所得税や住民税の課税対象となるため、給与明細の金額と所得税計算のベースとなる金額は異なる。ちなみに、給与所得控除の計算方法は毎年見直されているので、人事担当者は最新の制度に注意が必要となる。

●手取りとの違い

「手取り」は、給与から所得税や住民税、社会保険料などの各種控除を差し引いた、実際に受け取る金額だ。給与明細で「差引支給額」として表示され、銀行口座に振り込まれる金額がこれにあたる。控除額は年齢や給与額、居住地によって異なり、同じ額面でも手取りは人によって大きく変わる。

「給与」を構成する項目

「給与」は、基本給、各種手当、現物給与、賞与(ボーナス)などで構成されている。それぞれを細かく説明していく。

●各種手当

各種手当は、基本給以外に支給される補助的な報酬と言える。例えば、通勤手当や住宅手当、家族手当、役職手当、資格手当、時間外労働手当(残業手当)、深夜労働手当などだ。特に、時間外労働手当(残業手当)、深夜労働手当、休日労働手当は法定手当と呼び、法律上の支払い義務があるものだ。一方で、会社独自で設定した手当は、任意手当と呼ばれ、支給条件や金額は企業ごとに異なる。

●現物給与

現物給与は、現金以外で支給する利益のことを言う。例えば、社宅や社員食堂の利用、会社商品を割安で購入できる権利、ユニフォームなどが該当し、福利厚生の一環として活用されることも多い。現物給与も原則として課税対象だが、一定の条件を満たす場合は非課税となることもある。

●賞与(ボーナス)

賞与(ボーナス)は、会社の業績や個人の成果などに応じて支給される一時的な報酬だ。「一時金」、「特別手当」とも言う。支給時期や金額は企業ごとに異なり、正社員だけでなく契約社員やアルバイトに支給される場合もある。一般的には、基本給をベースに計算する「基本給連動型賞与」が多いが、業績に応じて金額を決める「業績連動型賞与」のケースもある。従業員のモチベーション向上や定着率アップに効果的である一方、業績悪化時には、減額や支給停止となる可能性もあるため、制度設計には柔軟性と説明責任が求められる。

給与明細の見方・計算方法

給与明細は、勤怠情報、支給額、控除額、差引総支給額(手取り額)などが記載された重要な書類だ。各項目の見方や計算方法を解説しよう。

●勤怠情報

勤怠情報欄には、出勤日数、有給取得日数、労働時間、残業時間・深夜勤務時間、遅刻早退時間などが記載される。給与計算の土台となるデータであるが、間違いが発生しやすい項目であるため、人事担当者には正確な記載が求められる。労使トラブル防止のために、勤怠システムの導入や定期的なチェック体制を構築すると良い。

●総支給額

総支給額は、その月に会社から支払われる「給与」の合計額だ。基本給に加え、残業手当や各種手当、賞与なども含まれる。総支給額は、勤怠日数や残業時間を基に算出するもので、従業員の勤怠状況や会社の規定によって毎月変動することがある。

●控除額

控除額は、総支給額から差し引かれる税金や社会保険料などの合計を言う。主な控除項目としては、健康保険料、厚生年金保険料、雇用保険料、所得税、住民税などだ。控除額は年齢や給与額、居住地によって異なり、最新の税制や社会保険料率を反映した計算が必要となる。

●差引総支給額

差引総支給額は、いわゆる手取り額のことで、総支給額から控除額を差し引いた実際に受け取る金額だ。従業員が最も関心を持つポイントと言える。手取り額は総支給額の7~8割程度が目安だが、個人の状況や控除内容によって変動する。

差引総支給額=総支給額-控除額

給与所得の源泉徴収票について

「給与所得の源泉徴収票」は、1年間の給与収入や納付した所得税額などが記載された書類だ。その概要や提出タイミングを解説していく。なお、源泉徴収票には、「給与所得の源泉徴収票」、「退職所得の源泉徴収票」、「公的年金の源泉徴収票」の3種類があるが、ここで言う源泉徴収票は「給与所得の源泉徴収票」を指す。

●源泉徴収票とは

「給与所得の源泉徴収票」とは、会社が従業員に対して1年間に支払った「給与」や賞与、そこから天引きした所得税額などを記載した書類だ。確定申告や住宅ローン、各種審査などで必要となる。

●源泉徴収票を提出するタイミング

源泉徴収票は、通常、対象年の翌年の1月31日までに所轄税務署に提出しなければならない。また年末調整後には、必ず従業員にも交付する。年の途中で従業員が退職した場合は、退職後1カ月以内に会社から交付するのが原則だ。従業員からの再発行依頼や紛失時の対応も想定しておく必要がある。

●「給与」の源泉徴収票の見方

源泉徴収票には、「支払金額(年収)」、「給与所得控除金額」、「所得控除の合計額」、「源泉徴収税額」の項目が記載されている。

・支払金額
その年の課税対象となる給与総額。基本給や残業代、手当、ボーナスなどの合計で、いわゆる「年収」にあたる。

・給与所得控除金額
給与収入から自動的に差し引かれる「必要経費」と見なされる金額。給与の額に応じて一定の控除が設けられており、税金の計算時に年収から差し引かれる。

・所得控除の合計額
扶養控除や社会保険料控除、生命保険料控除など、個人の事情に応じて適用される各種控除の合計額。

・源泉徴収税額
1年間で実際に天引きされた所得税の合計額。給与所得控除や各種所得控除を反映した課税所得に基づき、税率をかけて算出される。

源泉徴収税額=(給与所得控除金額-所得控除の合計額)×所得税率

「給与」について企業が気につけるべきこと

給与の計算や支給に関して、企業が注意すべきポイントがいくつかある。主な5ポイントについて説明しよう。

●賃金支払い5原則

会社の都合によって給与が支払われず、労働者の生活が脅かされないよう、労働基準法では、「賃金支払いの5原則」が定められている。それが、①通貨払い、②直接払い、③全額払い、④毎月1回以上払い、⑤一定期日払いの5つだ。企業は、この5つの原則を遵守し、従業員が確実に賃金を受け取れるようにしなければならない。

●計算ミス

給与計算ミスは、手当や控除の反映漏れ、社会保険料の誤計算などが原因で発生しやすい。ミスが起きた場合は、従業員とトラブルに発展する可能性が極めて高いため、速やかに謝罪し、明細や源泉徴収簿の訂正、過不足分の精算を行う必要がある。また、計算ミスが発生しないよう、ツールの活用やダブルチェックを徹底したい。

●情報漏えい問題

給与情報の漏えいは従業員のモチベーション低下の原因になったり、企業の信用イメージ失墜につながったりする。給与情報は厳重に管理し、アクセス権限の設定や守秘義務の徹底が不可欠となる。

●給与計算のタイミング

給与計算は毎月決まったスケジュールで行う。勤怠情報の集計から支給額・控除額の計算、銀行振込まで、計画的に進めることがトラブル防止のカギとなる。締め日や支給日の設定、イレギュラー対応も事前にルール化しておくと安心だ。

●給与記録の保存

賃金台帳などの給与記録は、労働基準法により原則5年間の保存が義務付けられている。保存期間や記載内容を守り、適切に管理するようにしたい。近年は電子化による効率化も進んでいるが、法的要件を満たすことが前提となる。

給与取得者の年末調整について

年末調整とは、1年間に源泉徴収された所得税と実際に支払うべき所得税を精算する手続きのことだ。会社員の場合、毎月の「給与」から仮に天引きされていた所得税を、年末に家族構成や控除申請内容を基に再計算し、過不足分を還付または追加徴収する。

年末調整の対象者は、1年を通じて勤務した人や、年末まで在籍している人などである。控除申告書類の提出や、保険料控除・扶養控除などの適用が必要になる。年末調整によって払いすぎた税金が戻るケースも多く、給与明細に「還付金」として記載される。なお、複数の会社から「給与」を受けている場合や高額医療費がある場合は、確定申告が必要になることもある。

まとめ

「給与」は従業員の生活を支える最も重要な報酬であり、その計算や管理には細心の注意が求められる。人事担当者や経営層は、法令遵守はもちろん、従業員が安心して働ける環境づくりのためにも、正確な給与計算と情報管理を徹底するようにしたい。

「給与」について正しい知識をつけ、透明性を担保することが、企業の信頼と従業員満足度の向上につながる。また、社会環境や制度改正に柔軟に対応する必要もあるため、政府からの発表をチェックしておくことも大事になる。



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