「ワークエンゲージメント」とは、仕事に対してやりがいや誇りを持つとともに、働くことで活力を得られている充実した心理状態のことを指す。働く人のパフォーマンスや健康に大きく影響する要因であり、厚生労働省による「令和元年版労働経済白書」においてもその重要性が分析されている。従業員のモチベーションや働きがい向上は、企業におけるもっとも重要な課題の一つであり、対策には「ワークエンゲージメント」への理解が不可欠といえる。本稿では、「ワークエンゲージメント」の構成要素や「従業員エンゲージメント」との違いを解説し、「ワークエンゲージメント」の尺度(測定方法)と「ワークエンゲージメント」の向上施策もあわせて紹介する。
厚生労働省が重視する「ワークエンゲージメント」の意味とは? 尺度や高める方法など働きがい向上のポイントを解説

「ワークエンゲージメント」の意味と3つの要素

「ワークエンゲージメント」とは、オランダにあるユトレヒト大学のウィルマー・B・シャウフェリ教授が定義した言葉で、「仕事への意欲を持ち、満足している状態」のことである。シャウフェリ教授によると、「ワークエンゲージメント」は以下の3つの要素が満たされている状態を指す。

・活力
・没頭
・熱意

これらについて詳しく見ていこう。

●活力

業務を行う中で生まれるエネルギーのことである。活力が増すことで精神力が向上し、仕事の継続力も高まるとされる。また、仕事でトラブルやミスが発生してストレスを感じても、活力が十分にあれば回復も早く、業務に支障を来しにくいというメリットがある。

●熱意

自らの業務内容や職務能力、キャリアに対する誇り・やりがいを指す。仕事に対して熱意を抱いていると、業務改善や効率化、新商品開発などに積極的に取り組むようになる。また、仕事に活かせる新たな知識の吸収にもつながる。会社の業績アップに寄与する要素だといえる。

●没頭

集中して業務に取り組む力のことである。没頭した状態を長時間保つことができると、間違いが起きにくくなり、業務の正確性が高まる。さらに、作業効率、生産性の向上も期待できる。

「ワークエンゲージメント」に関する概念

●「ワークエンゲージメント」と「従業員エンゲージメント」の違い

「従業員エンゲージメント」とは、従業員が自社に対して抱く愛着心や帰属意識、貢献意欲のことである。「ワークエンゲージメント」が「個人が仕事に対して抱く意欲」であるのに対し、「従業員エンゲージメント」は「仕事だけでなく、会社や組織に対しても愛着を抱き、貢献しようとする意欲」であり、組織との関係性も含む概念であるという違いがある。

●「ワークエンゲージメント」に関連する概念

「ワークエンゲージメント」に関連する概念には、「バーンアウト」、「ワーカホリズム」、「職務満足感」がある。これらについても理解しておきたい。

・バーンアウト
「燃え尽き症候群」とも呼ばれている。仕事に対して過度のエネルギーを投じたことで疲弊し、仕事への意欲や自信、興味・関心を失くした状態のことを指す。「バーンアウト」は「ワークエンゲージメント」の対極にある概念である。

・ワーカホリズム
「ワーカホリズム」も「ワークエンゲージメント」と同様、仕事にまい進し、高いパフォーマンスを目指すものだが、心構えが異なる。

「ワークエンゲージメント」が、意欲や熱意を持って業務に当たる状態であるのに対し、「ワーカホリズム」は「この仕事をしなくてはならない」という強迫観念をもって業務に当たる状態のことである。仕事はするが、意欲が高いといえない状態のため、長期間同じペースで働くのは難しいことが予想される。

・職務満足感
現在の組織や職場環境、そして仕事での自分の役割に対してどの程度満足しているかを表すのが「職務満足感」である。立場や役割についての心理状態を表すものであるため、意欲を持って業務を行っている状態を表す「ワークエンゲージメント」に比べて活動水準が低い概念といえる。

「ワークエンゲージメントの」の尺度と測定方法

従業員の仕事に対する意欲の指標となる「ワークエンゲージメント」は、どのように測ることができるのだろうか。尺度や測定方法を紹介する。

●ユトレヒト・ワーク・エンゲイジメント尺度(Utrecht Work. Engagement Scale:UWES)

「ワークエンゲージメント」の測定に最も多く使われている方法である。

「活力」「没頭」「熱意」の3要素に関し、17項目の質問への回答で測定を行う。「仕事をしていると時間が経つのが早い」「仕事をしていると、つい夢中になる」などの内容に対し、「いつも感じる」から「ほとんど感じない」のどの部分に自分が当てはまるかを尋ねる「5段階スケール」(7段階の場合もある)で回答する構成である。質問項目が「9項目」の短縮版、「3項目」の超短縮版も開発されている。

●MBI-GS(Maslach Burnout Inventory-General Survey)

「ワークエンゲージメント」の対極となる「バーンアウト」を測定する方法が「MBI-GS」である。この結果から、間接的に「ワークエンゲージメント」を測ることが可能である。16項目の質問に対する回答で測定され、MBI-GSが低いと「ワークエンゲージメント」が高く、MBI-GSが高いと「ワークエンゲージメント」が低いとみなされる。

●OLBI(Oldenburg Burnout Inventory)

「OLBI」も「MBI-GS」と同様、「バーンアウト」の測定に使われる方法である。「疲弊」「離脱」という2つの因子について質問を行い、OLBIが低いほど「ワークエンゲージメントが高い」、高いほど「ワークエンゲージメントが低い」ということになる。


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「ワークエンゲージメント」を高める方法

従業員がやりがいを持って主体的に業務を進めるためには、「ワークエンゲージメント」の向上が重要なカギとなる。「ワークエンゲージメント」を高める要因は、「仕事の資源」と「個人の資源」の2つだ。それぞれ理解を深め、従業員の「ワークエンゲージメント」向上に役立てたい。

●仕事の資源

「仕事の資源」とは、下記の役割をもつ要因のことを指す。

・仕事量を適切に保つ
・業務負担から生じる悪影響を軽減する
・仕事に対する意欲を高める

具体的な方法としては、下記が該当する。

・1on1、コーチング
「1on1」とは、上司と部下が1対1で対話を行い、現状の確認や悩みについて話し合う場を設けることである。定期的な1on1の実施で、部下の現状を把握でき、仕事量の調整や負担の軽減、フィードバックを効果的に行うことができる。

また、上司が一方的に自分の意見を伝えて指導するのではなく、傾聴をベースとする対話の中で部下に気付きを与え、行動を促す「コーチング」も、「仕事の資源」を満たす取り組みとして有効である。

・業務効率化
仕事量を適切に保つには、業務効率化も重要である。現在の仕事に無理・無駄・ムラがないかを洗い出し、可能な部分はITツール等に切り替えるなどの対策を行うと効果的だ。同時に、無駄な残業をしていないか、特定の従業員に業務が偏っていないかも確認し、改善を進めることで、メンバーの「仕事の資源」を満たすことができる。

・柔軟な働き方制度の導入
育児や介護、治療など、さまざまなライフイベントと両立して仕事を続け、キャリアを築いていくことができる環境づくりは、「仕事の資源」の充実につながる。フレックス勤務や時短勤務、テレワークなど、柔軟な働き方ができる制度の導入は「ワークエンゲージメント」向上に有効である。

●個人の資源

個人の資源とは、ストレスを軽減し、仕事に対する意欲を高めるための要素である。労働者自身の内的要因であり、下記のようなものが含まれる。

・仕事への心理的ストレスの軽減
・仕事へのポジティブな意識や楽観性の向上
・自己効力感や自尊心の充実

「個人の資源」満たす方法としては下記があげられる。

・タイムマネジメントやコミュニケーションに関するトレーニング
時間を有効に使うための「タイムマネジメント」や、仕事をする上で必須となる「コミュニケーション」に関するトレーニングによって、仕事を全般的にうまく進められるようスキルを身に付ければ、従業員の自己効力感の向上につながる。

・ジョブ・クラフティング
「ジョブ・クラフティング」とは、従業員の「仕事をやらされている」と意識を、「働きがいを持って主体的に取り組んでいる」という意識に変換させる手法のことである。従業員一人ひとりが「自ら望んだ仕事ができている」と肯定的に捉えられることで、仕事に対しての意欲と満足感も向上し、心理的ストレスの軽減、自尊心の充実につながる。

・メンタルヘルスケア
従業員の意欲や熱意を高めることだけを重視すると、目標達成後や超えられない壁に当たった際に「バーンアウト」状態に陥る恐れもある。ストレスチェックや産業医による面談など、メンタルヘルス対策を定期的に行い、従業員の心理的負担を減らし、心身を健康に保つことが「個人の資源」の充実につながる。


「ワークエンゲージメント」とは、仕事に対する意欲や充実感のあるポジティブな心理状態を指し、業務の継続力や集中力、生産性向上のために重要なものである。「ワークエンゲージメント」を高めるためには、「仕事の資源」と「個人の資源」の2つの要因を満たすことが求められ、前者は適切な業務配分や業務負担の軽減、後者は従業員の自己効力感の向上、心理的負担の軽減などによって高められる。「ワークエンゲージメント」が極端に低下すると、仕事への興味・関心や自信を失う「バーンアウト(燃え尽き症候群)」の状態に陥ってしまうため注意が必要だ。

人的資本経営の潮流が示す通り、人材は最も重要な経営資源である。従業員の「ワークエンゲージメント」向上のための対策は、企業の人事戦略において必須といえるだろう。

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