「キャリア開発」とは、働く個人一人ひとりの職務や能力・スキルを中長期的に計画する考え方のことを意味する。少子高齢化にともなう人手不足が続くなか、従業員の離職を防いで企業が成長を続けるためには、自社内で働く従業員のキャリア形成・能力開発が必要不可欠になってきている。そこで本記事では、「キャリア開発」の意味や企業に必要な背景、キャリアデザインとの違いなどを解説していく。

「キャリア開発」とは? 意外と知らない意味や、「キャリアデザイン」との違いを解説

「キャリア開発」とは、働く個人一人ひとりの職務や能力・スキルを中長期的に計画する考え方のことを意味する。もともと「キャリア」とは、人の一生を含めた「経歴」や「実績」という意味だが、特にビジネス業界では「就職」や「出世」といった意味で使われる。

「キャリア開発」とは、英語では「Career Development(キャリア・ディベロップメント)」となり、業務に携わるプロセスによって培われた能力や知識、経験を「継続的に磨くこと」を指す。つまり、「キャリア開発」を行うにあたっては、従業員が自らのこれまでのキャリアを振り返ったうえで、「必要な能力獲得のために、今後どういった経験が自分に必要か」を企業とともに考え、実行していくことが必要といえるだろう。

また、企業側も、従業員の「キャリア開発」に向けて、一人ひとりのスキルアップを支援するよう施策に取り組む必要がある。例えば、教育研修や、社内異動の自己申告制といった施策があげられる。

●キャリアデザインやキャリアパス、キャリアアップとの違い

ビジネス用語には類似した言葉が数多くあるが、特に「キャリアアップ」、「キャリアデザイン」、「キャリアパス」との違いを把握しておこう。

・キャリアパス
従業員が目標としている役職や職位に到達するために、経験やスキルを高めていく方法のこと。

・キャリアアップ
従業員が自らのスキルを磨いて役職や仕事のレベルを上げていくこと。

・キャリアデザイン
スキルや役職といったビジネスシーンだけに限定せず、結婚やワークライフバランスといった、個人的なビジョンも包括した「人生設計」のこと。

つまり、企業が、従業員の「キャリア開発」を考える場合、それぞれが描く「キャリアデザイン」を把握し、それを実現するための「キャリアパス」を検討し、「キャリアアップ」への具体的な方策を立てることが必要になるわけである。

「キャリア開発」が企業に必要となった背景とメリット

日本では、高度成長期に定着した「終身雇用」や「年功序列」という雇用制度を前提に、企業でのキャリア形成が考えられてきた。そのため、企業が積極的に従業員個人の「キャリア開発」を考慮する必要はなかった。しかし現在では、「従業員の自律的キャリア形成」を実現するため、企業はそれぞれをサポートしていく必要がある。そのため、「キャリア開発」が注目され、多くの企業が注力しなければならない課題となった。

背景にあるのは「終身雇用の崩壊」、「働き方や価値観の多様化」といった社会全体の潮流の変化だ。企業にとっては変化への対応に苦慮することが予想されるが、企業や組織における課題の解決策となるメリットもある。

●組織の活性化

「働き方や価値観の多様化」などによって、従業員一人ひとりが「働き方」について向き合い、自分のキャリアを考える機会が増えた。企業も常に変化に柔軟に対応していくことが求められており、自社の従業員には「仕事に対して責任を持てる、自律した人材」であることを求めている。また、企業が成長を続けていくには、自らのスキルを活かす意欲がある、強みを把握している人材が必要だ。「キャリア開発」を通じて、従業員それぞれが能力を充分に発揮することによって、組織の活性化が期待できるだろう。

●生産性の向上

「キャリア開発」に前向きな企業は、従業員たちの「主体的な行動」が期待できる。従業員たちは、企業や上司が「自分のことを見てくれている」、「期待されている」と感じ、モチベーションがアップする。従業員のモチベーションアップによって、主体的に業務をこなす人材が増え、会社全体の生産性向上につながるだろう。これにより、新規事業へのチャレンジや、変化を見据えた事業戦略を採用できるようになり、さらなる成長も期待できる。

●優秀人材の獲得・定着率向上

社内の「キャリア開発」に熱心な姿勢は、その企業の評判を高め、優秀な人材から就職先として選ばれる確率が上がる。特に、積極的に新たなキャリア構築を考えている求職者にとって、「従業員のキャリア支援に積極的な企業」はアピールポイントになるため、企業側も優秀人材の獲得機会が増えるメリットがある。また、「キャリア開発支援」を行っている企業は、既存の従業員も長く就業することを希望するため、結果的に優秀人材が定着することにもつなげられる。

「キャリア開発」に取り組むうえでの注意点とデメリット

「キャリア開発」は、方法を間違えると従業員のモチベーション低下や退職につながるといったデメリットを生み出すため、注意が必要だ。最悪の場合、キャリアを考える中で「他社への転職」といった、退職の動機になってしまうこともある。

●あくまで「従業員主体」という認識を持つ

企業が主体となって、充実した能力開発や仕組を整備することは重要だ。しかし、「必要な人材に仕立てるために、必要としている能力だけを伸ばす研修を実施する」、「全方向に対応力のある人材を目指すために、全国各地の部署に配属させる」といった企業側の意図だけが突出していれば、従業員は、「本当は興味がなく、仕方なくやっている」、「会社の命令だから」といった受け身の姿勢のまま研修に参加することになる。それでは、従業員の成果・成長につながらない。従業員の自律的キャリア開発には、当人が目的意識を持つこと、自発的に取り組むことが大切だ。キャリア開発はあくまで従業員主体で、企業は、あくまでサポート体制を整えるものだと認識しておいた方がよいだろう。

●従業員の志向に応じたサポート

従業員が目指しているもの、志向が違えば、培うべきスキルや積むべき経験、目標としているキャリアもそれぞれ当然異なる。企業が一方的に考えた育成計画では、必要としない従業員が多い場合、なんの意味もなくなってしまう。そのため、キャリア開発の際には、その従業員が「営業職か、技術職か」、「マネジメント志向なのか、スペシャリスト志向なのか」といったように、属性や職種、志向などに応じてサポートすることが求められる。

●キャリア相談窓口の設置

従業員のすべてが、明確な目標に向かって自発的に行動できるわけではない。悩みを抱えた従業員の不安解消やメンタルヘルス対策として、気軽に相談ができる「キャリア相談窓口」を設けることも有用だ。近年では、社内に「キャリアコンサルタント」を配置している企業も増えているという。担当者を専任で常駐させるのが難しい場合には、先輩従業員(上司以外)が後輩の相談に乗る「メンター制度」といったような社内でのフォロー体制を整えるのも効果的だろう。

「キャリア開発」の取り組みにむけた4つのポイント

「キャリア開発」に取り組むうえでのポイントを、「人事管理」という面から考えてみよう。人事管理に必要な「報酬」、「評価」、「教育」、「人材配置」を、従業員側の視点で考えることで、キャリア開発に必要な体制構築のポイントが見えてくる。

(1)報酬

昨今、企業では、外的報酬(賃金・待遇など)だけでなく、内的報酬(信頼や達成感など)の重要性も高まっている。従来の年功序列型のキャリアアップ、昇給や昇進を前提とした外的報酬には限界見え、内的報酬を重視する人の増加により、「総合的な報酬の概念」の設定が重要になってきている。

(2)評価

従来、従業員の生産性・成果への評価は、「企業への貢献」という点でなされているが、従業員個人に目を向けた場合、「自分が立てたキャリアへの目標に対して、どのくらい達成できたか」という度合いをあわせて評価すべきである。企業が一方的に目標を提示するのではなく、従業員それぞれが異なる目標を設定して、それに対しての評価を行う必要がある。また、評価方法も、個人のスキルや、多様な能力を発揮できたか、といった「総合的な評価」に変えなければならない。評価をする人も、上司から一方的におこなわれるのではなく、各々が自己評価と自己理解を進めていける能動的な仕組みになっていることが重要だ。

(3)教育

従来の「社員教育」は、業務に携わるうえで必要なスキルや知識を高めることを目的にしていた。しかし、従業員個人とは、キャリアの選択肢を増やすために有効なスキル獲得と、それに役立つ教育を必要としている。単純な研修プログラムを用意するのではなく、それぞれの目標・志向に合致する、多様な、多岐にわたる教育機会を用意することが望ましい。

(4)人材配置

「キャリア開発」という観点では、人の配置も、希望を汲み取ることが望ましい。携わる業務や所属する部署、そこでのポジションは、個人のキャリア形成に対して大きな要素となる。組織から一方的に異動を言い渡されるのではなく、各従業員個人の自律的キャリア意識、自己責任によって、ある程度決められることも必要だ。ただし、企業は組織である以上、すべて自由というわけにはいかないので、人事戦略や事業計画との整合性がとれる仕組みとなるよう注意も必要だ。

「キャリア開発」の具体的な手法(方法)とは

それでは実際にキャリア開発を支援するために、企業はどのような方法を具体的にとればよいのだろうか。

●研修

一口に「キャリア開発」といっても、どう行動したらよいかわからないという従業員も多い。そのため、「最初のきっかけ」として研修を行うことは、有効な手段だ。「キャリア開発」を成功させるために、まず従業員が自分自身をよく分析することが大切であり、「自分が保有している強みと、それを伸ばす方法」や「数年以内に経験しておきたいこと」といった具体的なビジョンをきちんと確立・認識したうえで目標を考えておく必要がある。キャリア目標とそれを達成するためのプランを決める「キャリアデザイン研修」や、目標実現に役立つ知識・能力を学べる「テーマ別の研修」などが有効だろう。

●面談・面接

キャリアに関する従業員の悩みや不安を解決し、道筋を作ることも、支援するうえでのポイントの一つだ。面談や面接で継続的にフォローすることで、従業員が自らのキャリアに対する悩みや疑問を解消でき、業務に前向きな姿勢をとることができるだろう。企業としても、従業員の悩みや不安、不満を明確に把握できるため、「キャリア開発支援」の課題解決に取り組むことができる。上司と実施する1on1も有効だが、その他に、上司や先輩とキャリアについて話し合う「キャリア面談」、キャリアコンサルタントに助言を求める「キャリア相談」なども利用してみるとよいだろう。

●「キャリアパス」の提示

従業員は自分が所属している組織に目が行きがちなため、さまざまなキャリアが社内にあることに気付けない場合がある。そこで、従業員が目標としている役職や職位に到達するために経験やスキルを高めていく「キャリアパス」を、企業側が具体的に提示する必要がある。これによって、従業員はより前向きに、自分の目標とするキャリア実現に対し能動的に行動できるようになる。

●人事異動

従業員の中長期的なキャリアを考慮すれば、「人事異動」の実施も「キャリア開発」といえるだろう。例えば、異動を希望する部署に対して、自分の経験やスキルをアピールできる「社内FA制度」、増員が必要とされる部署や職種を従業員に公開して希望を募る「社内公募制度」、定期的に部署異動や担当業務の変更を戦略的に行う「ジョブローテーション」など、社内でのレベルアップのチャンスを用意するのも有効だ。

「キャリア開発」で活用できるツールやプログラム、助成金は?

従業員のキャリア開発を考える際、社内リソースだけでまかなうのではなく、国や外部の支援、ツールを活用する手もある。ここでは3つの手段を紹介したい。

●「キャリア開発」に利用できるツールやプログラム

・ジョブ・カード
厚生労働省が推奨している「生涯を通じたキャリア・プランニング」や「職業能力証明」の機能を担うツールで、就職活動のほかにも、企業内で行う従業員のキャリア・プランニングのツールとしても活用されている。形式としては履歴書や職務経歴書に近い。

・キャリアアンカー
アメリカの組織心理学者エドガー・シャインによって提唱された考え方で、従業員が「自身のキャリアを選択する際に、最も大切にしていて犠牲にすることはできない」と考えている価値観・欲求のことを指す。従業員に「自分にとっての『キャリアアンカー』とは何か」を考え、発表させることで、企業は従業員の「キャリア観」を把握でき、従業員は自身の気持ちを確認することができる。8つの分類(安全性、管理能力、技術的・機能的能力、創造性、自律・独立、奉仕・社会貢献、純粋な挑戦)による設問に回答する診断テストもある。

・外部講師による人材開発プログラムの活用
研修は自社企画だけでなく、外部講師を招いて実施することも有効だ。キャリア開発支援を得意とするコンサルティング企業もあり、予算や実施スケジュールに見合うか検討してみるとよいだろう。ワークショップや社外受講生といった外部との交流によって、新たな価値観に出会い刺激を受けることも期待できる。

●助成金

「キャリア開発」については国も促進している。ここでは厚生労働省がによる2つの助成金制度を紹介する。

・人材開発支援助成金
従業員のキャリア形成促進のため、企業が研修を実施し、国が定める要件を満たす場合に助成金が支払われる制度。「特定訓練コース」、「一般訓練コース」、「特別育成訓練コース」、「建設労働者認定コース」の4種類の助成金がある。

・キャリアアップ助成金
有期のパートタイマーや契約従業員といった「非正規雇用者」に対してのキャリアアップに取り組み、対象者が正規雇用に転換された場合に支給される助成金制度。「正従業員化コース」、「賃金規定等改定コース」、「健康診断制度コース」、「賃金規定等共通化コース」、「諸手当制度共通化コース」、「選択的適用拡大導入時処遇改善コース」、「短時間労働者労働時間延長コース」の7つの助成金がある。
従業員の自律的キャリア形成は、企業にとっても、従業員の育成と組織の活性化、優秀な人材の確保と定着、生産性向上といったメリットをもたらす。「キャリア開発」に取り組む際は、従業員に寄り添ったサポートとはどのようなものか、試行錯誤を続け、従業員一人ひとりに対して最大限のパフォーマンスを発揮できる場を提供していくべきだ。そうすることで、企業の成長にもつながるだろう。
  • 1