企業が利益を生み出し続けていくためには、組織と従業員が共通した目標を掲げて業務に取り組んでいくことが重要である。多くの企業では、従業員ごとに期間中の目標を定めて業務の指針とする「目標設定」が行われているが、この内容によって、従業員のモチベーションや成果は大きく左右される。本稿では、モチベーションを高めるための「目標設定」のポイントや、「目標設定」に役立つフレームワークを解説する。
モチベーションを高める「目標設定」のコツとは? 5つのフレームワークを具体例を交えて紹介

「目標設定」の意味と重要性とは?

「目標設定」とは、最終的に目指す到達点となる目的を達成するために必要な行動や手段、方針を具体的な指標として示すことだ。例えば、「売り上げを伸ばしたい」は会社としての目的である。一方、「年間売上100億円を達成したい」、「来期の売上を今期よりも20%アップさせたい」といった指標に落とし込んだものが目標となる。

企業では、まずは会社全体や組織・部門の目標が掲げられ、それを部署や従業員の目標へとブレイクダウンしていくため、会社全体や組織、部門として適切な「目標設定」ができているかどうかが、組織としての目的達成のカギとなる。「目標設定」が妥当であれば、会社として、部署として、さらには従業員一人ひとりが何をすべきかが明確になる。その分、無駄な時間やコスト、労力を掛けることなく、スピーディーに目的を達成することができる。

◆「目標設定」のモチベーション向上効果を高める要素

「目標設定」がなぜ必要なのかを説いたのが、米国の心理学者エドウィン・ロック氏が提唱した「目標設定理論」だ。「目標設定理論」では、「目標設定」がモチベーションに影響を及ぼす要素として、以下の3点を指摘している。

(1)やや困難な目標であること
1点目は、目標の難易度をやや高めに設定することだ。簡単な目標よりも、実現に向けて努力を要する目標の方がモチベーションは高まり、結果としてパフォーマンスも上がる。目標をクリアするためには一つ一つの業務のレベルを上げる必要があるため、自然と成果を最大化する工夫を取り入れることとなり、結果として生産性の向上につながる。

ただ、一概に難易度が高ければ良いというわけでもない。高すぎる目標は本人の意欲をなくしてしまうし、本人が受け入れられる目標でないとモチベーションは上がらない。

(2)目標が明確であること
2点目は、目標を明確化することである。曖昧かつ抽象的な目標ではなく、定量的でしかも具体的な目標の方がモチベーションは高まる。例えば、「一生懸命努力して新規顧客を開拓しよう」と指示されるよりも、「毎月10社の新規顧客を開拓する」などの目標を設定する方が、すべきことの解像度が上がり、行動も効率的になる。

(3)適切なタイミングでフィードバックを行うこと
3点目は、適切なタイミングでフィードバックを行うことだ。「目標設定」とフィードバックを組み合わせることで、モチベーションを大きく高められる。特に、目標への達成進捗が遅れている従業員に対してフィードバックを行うと、パフォーマンスの改善につながりやすい。タイミングは早い方がよく、目標設定した期間が終了してから行うより、期間中にリアルタイムで行うとより効果が高いとされる。

「目標設定」を行うメリット

次に、企業にとって「目標設定」を行うメリットが何なのか整理したい。

●従業員のスキルアップにつながる

従業員一人ひとりが自分自身の目標を設定し、それを達成するためにトライを繰り返すというサイクルを積み重ねることで、それぞれのスキルアップにつながる。チームはメンバーの集合体でもあるので、結果的に全体のパフォーマンスが向上し、企業としての価値も高めていくことができる。

●生産性向上につながる

それぞれの部門や従業員の方向性がバラバラであっては、企業としての生産性は高くはならない。それを防ぐためにも、会社が掲げる目標を部門や従業員の目標に紐づけし、何をやるべきかを明確にする必要がある。しかも、部門や従業員一人ひとりが現時点でどこまで目標を達成できているか、そのレベルを把握できれば底上げもしやすい。結果的に業績にも良い影響がもたらされる。

●目的達成に向けた進捗管理ができる

目標が数値化されていると、達成度や進捗状況を把握しやすい。達成度合いが遅れていたら、当然何らかの強化施策を図ることになる。そのタイミングが早ければ早いほど、改善効果は期待できるので進捗管理ができるメリットは大きい。

●人事評価がしやすくなる

「目標設定」が明確であると、人事評価もしやすくなる。設定された目標への達成度やプロセスでの行動ぶりという軸に則って判断できるからだ。また、評価される従業員側も「目標設定」に準拠した評価であれば納得しやすい。

「目標設定」に役立つフレームワーク

ここからは、実際に「目標設定」を行う際に役立つフレームワークを紹介していこう。

●SMARTの法則

SMARTの法則は、「目標設定」の基本的なフレームワークである。SMARTとは以下のように「目標設定」に不可欠な5つの要素の頭文字を集約している。

S=Specific:具体的な目標
M=Measurable:定量的に測定可能な目標
A=Achievable:達成可能な目標
R=Realistic:経営目標に関連した目標
T=Time-bound:期限を定めた目標

例えば、「チームの売り上げを20%アップさせる」という目標のもと、SMARTの各要素を満たして「目標設定」を行う場合、メンバー一人ひとりに「アポイント20件を獲得し、そのうち5件は成約目標とする」といった具体的な数字を割り当てるとともに、月毎に達成率や前期の実績との比較ができるような仕組みを作っておくとよい。さらに、目標をいつまでに達成するかという期限の設定も必要である。

●ベーシック法

ベーシック法は、初めて「目標設定」を行う際にも活用しやすい。以下の4つのステップで構成されている。

1)目標項目の設定:何を達成するかを決める。「強化」、「改善・解消」、「維持・継続」、「創出・開発」の4つのタイプに分類できる。
2)達成基準の設定:何をゴールとするかを決める。目標に応じて「数値」、「状態」、「スケジュール」という3つの要素を設定する必要がある。
3)期限の設定:いつまでに達成するかという期限を決める。
4)達成計画の立案:どのような手段・ステップで達成するかを決める。

例えば、「従業員のTOEICスコアを100点アップさせる」ことを目標とするなら、期限を1年と定めた上で、週に2回外国人講師によるオンラインレッスンの受講という手段を設定し、2カ月に1回模擬テストを受験させる、などの方策を考えていく流れになる。

●OKR

OKRとは「Objectives and Key Results」の略称だ。日本語では「目標と成果指標」という意味であり、目標設定に役立つフレームワークの一つとされている。OKRには、以下の2つの要素がある。

O:Objective(野心的な目標)
KR:Key Results (目標を達成するための成果指標)

もし、「年間売上100億円を達成する」という目標を設定した場合、その目標に対して3~4個の成果指標を設定する。例えば、「毎月の新規顧客数を対前年度比較で10%増やす」、「1人あたりの目標売上金額を現状の4000円から5000円に引き上げる」、「顧客の満足度を0.5ポイント上げる」といった内容だ。これらを従業員の目標と連動させることで、組織全体としてのベクトルを一致させてくことができる。

●KPIツリー

KPIツリーとは、企業や組織としての大きな目標(Key Goal Indicator=KGI、重要目標達成指標)を設定して、その達成のために必要な要素(Key Performance Indicator=KPI、重要業績評価指標)を樹形図(ロジックツリー)として可視化していくフレームワークである。

例えば、ある店舗がKGIを「1ヵ月あたりの売り上げを現状よりも500万円アップさせる」と決めたら、それを達成するためには「客数」か「客単価」を上げなければいけない。そのためにはどうすれば良いか、「3つのSNSを毎日更新する」、「イベントを2週間に1回実施する」、「リピーター特典施策を実施する」など、具体的なアクションに落とし込む。最終的な目標につながるまで、プロセスとなる施策を可視化することにより、進捗管理もしやすい。

●SWOT分析

SWOT分析とは、自社の強みと弱みを抽出して「目標設定」に活用するフレームワークだ。SWOTとは以下の4つの項目の頭文字である。

S=Strengths(強み)
W=Weaknesses(弱み)
O=Opportunities(機会)
T=Threats(脅威)

例えば、ある介護事業会社が自社のSWOT分析をした場合、以下のような項目が想定される。

強み:運営する介護施設の立地が良い、ベテランスタッフが多い
弱み:新人スタッフの採用が上手く行っていない、サービスの質が低下傾向にある
機会:高齢化が進んでおり需要が拡大している、在宅介護ニーズが高い
脅威:競争が激化してきている、人材不足が続いている

「目標設定」の効果を高めるコツ

具体的に、どうすれば「目標設定」による成果を高められるかを解説していこう。

●自社の事業やビジョンと関連性のある目標にする

まずは、自社の事業やビジョンと関連性のある目標を設定することだ。他社の成功事例をそのまま流用するのではなく、自社の状況や課題に沿った目標設定を行うことが、求めている成果を出すための前提となる。

●具体的かつ達成を目指せる目標にする

前述のとおり、「目標設定」は具体的であることが重要である。例えば、「生産性の向上」を目的としている場合、「仕事に集中する」、「利益を伸ばす」、「現在の顧客との関係性を維持する」といった内容を目標として掲げても、具体性に欠け、判断基準をどこに置くのかが不明瞭だ。対して、目標を数値化し、週毎、月毎のアクションに落とし込むと行動化しやすい。また、多少のストレッチが求められても、「達成できるかもしれない」と思える目標を設定することもコツと言える。自然と努力や工夫を取り入れることができ、意欲や集中力を保てるからだ。当然ながら、簡単すぎる目標も良くない。

●チーム全体で難易度のバランスをとる

会社全体の目標をチームの目標、さらにはチームメンバーの目標へと落とし込んで設定していく際に、難易度のばらつきがあってはいけない。一人ひとりの性格や仕事に対する姿勢に違いがあったとしても、極端に難易度の差がある目標設定では、公平性を欠くだけでなくメンバーのモチベーション低下を招きかねない。チーム全体でバランスを取っていくことで、互いに不足を補いあうこともでき、全体的な底上げにつながるだろう。

●フィードバックでは結果だけでなくプロセスも評価する

適切なフィードバックが伴わないと、「目標設定」の効果は半減してしまうといえる。結果だけにフォーカスするのではなく、プロセスに対しても、良かった点や次回の改善点などを伝えることで、メンバーの学びが深くなるとともに、モチベーション向上につながりやすい。反対に、目標に届かない項目があったのであれば、プロセスのどこに問題があったのかを従業員が振り返れるような問いかけをしていくことも有効だ。


「目標設定」は、企業として目指す方向性に向けた従業員の行動指標となるため、従業員のモチベーション向上はもちろん、生産性を高めるためにも重要である。また、近年のテレワークの普及など、働き方が多様化するなかで、従業員の進捗状況管理にも役立つ。「目標設定」の成果をさらに高めるには、適切なフィードバックを行うことはもちろん、目標内容に合ったフレームワークを活用することも有効だろう。「目標設定」の方法に変化を取り入れてみると、新たなスキルの発掘にもつながるかもしれない。
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