「無期転換」とは、契約期間に定めのある有期雇用労働者が、所定の要件を満たすと有期雇用契約から無期雇用契約に転換の申込ができる制度です。その申込がなされると、会社側はそれを拒否することができません。しかし、労働者が無期転換の申込をする前に会社側が雇止めをすることで、労使間のトラブルも発生しています。そこで法改正が行われ、2024年4月より「有期雇用契約や無期転換に関する労働条件の明示方法」が追加されることになりました。今回は、この法改正で変更となる点について確認していきましょう。
2024年4月より「無期転換」に関する労働条件の明示方法が追加に。企業にはどんな対応が求められる?

「有期雇用契約から無期雇用契約への転換」とは、どんなルール?

「有期雇用契約から無期雇用契約への転換」は、いわゆる「無期転換ルール」と呼ばれるものです。労働者が、同じ企業で有期雇用契約が通算5年を超えて更新されたタイミングで、会社へ「無期雇用契約」を申込むと、次の労働契約のスタート時点より無期に転換される制度です。

例えば、毎年4月から翌年3月末までの有期雇用契約を結んでいる労働者が、2023年4月からの労働契約で通算5年を超えることになったとき「無期転換」の申込みをする、と2024年4月からは「無期雇用労働者」になります。

労働者が無期転換の申込をすると、会社側はこの申込を承諾したものとみなされます。「有期雇用契約が満了する日の翌日から無期雇用労働者になる」という契約が既に成立していることになるので、会社側は無期転換の申込を拒否することはできません。ただし、無期転換の申込をした時点では有期雇用契約の期間中となるので、会社側が次回の契約を更新しない、つまり契約期間満了による雇止めをする権利は残っています。

しかし、これまでの有期雇用契約の更新が形式的なものにすぎず、雇止めをすることが無期雇用契約の解雇と同じであると認められる場合や、有期雇用契約の更新について、労働者に期待を持たせる言動などがあったにもかかわらず雇止めをした場合など、それらの雇止めについて客観的に合理的な理由がなく社会通念上相当であると認定されない場合は、雇止めは認められません。つまり、世間一般的に納得できる理由で雇止めをしたのかどうかがポイントになるのです。

「雇止めが無効であるかどうか」は最終的には裁判所で判断されますが、安易な雇止めは労使間のトラブルの元となりますので、慎重に判断することが求められます。しかし、有期雇用契約を今よりも詳細に定めておくことは、労働者の誤解を防ぐことができ、将来の労使トラブルの防止にもつながります。そのために、労働条件の明示の段階で有期雇用契約の内容や無期転換についての案内をしておくというのが、今回の法改正の目的となります。

では、労働条件は具体的にどのように明示をすれば良いのでしょうか。

追加される「労働条件の明示事項」とは

「労働基準法」では、労働契約の締結時に会社側から労働者へ労働条件を明示することが定められています。具体的には、労働契約が成立したタイミングや、労働契約の更新が決定した際に「労働契約の期間」、「就業の場所や従事する業務の内容」、「始業時間や就業時間などの労働時間に関する事項」、「賃金の決定や計算、支払の方法」、「退職に関する事項」については必ず明示しなければなりません。昇給や退職手当、賞与などの事項については、それらの定めがある場合に明示します。今回の法改正で追加になった労働条件の明示事項は、以下の通りです。

●就業の場所や業務の範囲の変更の範囲
●有期雇用契約の更新にかかる上限の有無と内容
●無期転換の申込機会の明示
●無期転換後の労働条件の明示

「就業の場所や業務の範囲の変更の範囲」は、例えば、「別の店舗への配属替え」や「仕事内容の変更」など、配置転換に関する事項を明示します。また、「有期雇用契約を更新回数は4回までとする」というような「更新回数の上限」についても明示しなければなりません。もし、最初の有期雇用契約より後に、更新回数を新たに設置したり短縮したりするような場合は、該当する有期雇用契約労働者にその理由について説明をすることが求められます。

さらに、有期雇用契約労働者に無期転換の申込をする権利が発生した場合、そのタイミングごとに、労働者に対して無期転換の申込が可能であることも明示しなければなりません。そのため会社側は、それぞれの有期雇用契約労働者が通算何年働いているのかを正確に把握する必要があります。

無期転換後の労働条件については、原則として有期雇用契約時と同様ですが、就業規則などで無期雇用契約労働者に関する労働条件を別に定めている場合は、それについても明示しなければなりませんので注意が必要です。

今回の改正では、これまで以上に有期雇用契約労働者についての労務管理が重要視されることになります。ただ、これらは労働契約の内容をより具体的に掘り下げて労使が納得できるものとすることで、労使間のトラブルを防止することが目的ですので、会社を守るための対策としても準備を進められることをお勧めします。もし労務管理にご不安がある場合は、お近くの社会保険労務士にご相談してみてはいかがでしょうか。


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