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「退職証明書」とは
「退職証明書」とは、従業員が会社を退職したことを証明する書類だ。従業員からの請求がない場合は発行する必要はないが、労働基準法22条1項では、労働者から請求があった場合、「使用者(会社側)は、遅滞なくこれを交付しなければならない」と記しており、退職証明書の発行を会社の義務として位置付けている。●「退職証明書」の役割と法的位置づけ
「退職証明書」の役割は、元の勤務先に在籍していた事実を証明することだ。公文書ではないが、労働基準法第22条にも定められている書類である。雇用期間や業務の種類、役職、退職事由などが証明してもらえ、失業保険の申請書類として利用できる。●離職票との違い
「退職証明書」も離職票も退職に関連する書類となるが、その目的や役割には明確な違いがある。「退職証明書」が、退職した事実や使用期間を証明する書類で、転職先企業や自治体から求められることが多いのに対して、離職票は失業給付の申請に必要な書類で、退職後にハローワークに提出するためのものとなる。発行義務という点でも、「退職証明書」は労働者から請求があった場合にだけ交付されるが、離職票は雇用保険の被保険者であった従業員が退職した場合には会社側に発行義務がある(退職者が59歳未満で離職票を希望しない場合を除く)。●在籍証明書との違い
在職証明書は、当該従業員が企業に在籍していることを証明する書類だ。従業員が保育園の入園や金融機関への住宅ローンを申し込む際などに必要となる。会社側には発行の義務はないものの、依頼があれば対応するのが一般的だ。拒否してしまうと従業員のモチベーションや会社に対するエンゲージメントは下がってしまうと想定される。「退職証明書」が労働基準法に基づいて発行義務がある書類であるのに対して、在籍証明書には発行の義務がない点で違いがあるが、記載する項目に大差はないと言える。●解雇理由証明書との違い
解雇理由証明書は、労働基準法22条に基づいて会社から解雇されることになった理由などを明らかにした書類だ。労働者からすれば、解雇の有効性を争う際の重要な証拠となりえる。そのため、少しでも不当解雇の疑いがあるならば、必ず会社に解雇理由証明書の発行を申請するようにしたい。これも、「退職証明書」と同様に、労働者の側から会社側への発行申請がなければ交付されないことになっている。また、「退職証明書」との違いは何かといえば、職を辞した理由が退職なのか解雇なのかということだ。「退職証明書」の記載項目と書き方
では、実際に「退職証明書」にはどのような項目が記載されるのか。書き方はどうかについても触れておきたい。●記載項目と記入例
「退職証明書」の記載項目は必須項目と任意項目にわかれる。まず、必須項目としては以下の6点がある。
・書類の名称
・証明年月日
・退職した従業員の氏名
・退職年月日
・証明内容(退職した事実)
・発行元の事業所名・事業所住所・事業主名
一般的には、必須項目で事足りるが以下の任意項目も記載は可能だ。
・使用期間
・業務の種類、内容
・その事業における地位
・賃金
・退職の事由(解雇の場合は解雇理由)
ただし、労働基準法22条3項によると、「退職証明書には労働者の請求しない事項を記入してはならない」と定められている。よって、「退職証明書」に記載する事項は、労働者の権利に基づき自由に決めることができる。また、請求がない任意項目については記載する必要はない。
●「退職証明書」のテンプレート紹介
「退職証明書」は離職票や離職証明書のように統一されたフォーマットがあるわけではない。ただ、それだと申請者が悩んでしまうかもしれないので、以下に「退職証明書」のテンプレートを掲載しておいた。参照してもらいたい。
「退職証明書」の提出が求められるタイミング
次に、どんな場面で「退職証明書」の提出が求められるのかを押さえておこう。●転職先企業からの提出依頼
転職先企業から「退職証明書」の提出を求められることがある。転職先企業からすれば、労働者の前職における賃金や退職理由、勤務期間、仕事内容などを正確に把握しておきたいからだ。それらは、履歴書や面接などを通じて知ることもできるとは言え、あくまでも応募者自身による申告に過ぎない。齟齬がないことを確認しておきたいというのが、転職先企業の意図となる。ただし、以前の勤務先に申請できるのは2年以内と定められている。●国民健康保険・国民年金の加入手続き
会社を退職した場合には、退職者自身が国民年金や国民健康保険への切り替えを行う必要がある。社会保険(厚生年金保険・健康保険・介護保険)への加入資格を喪失するからだ。その際には、市区町村の窓口で退職した事実を証明する書類として、「退職証明書」の提出を求められることがある。資格喪失証明書や離職票を利用する人もいるが、発行までに時間を要するとあって、「退職証明書」が利用されることが多い。●ハローワークでの失業給付申請
ハローワークで失業保険の給付を申請する際には、「離職票」を提出する必要がある。ただ、この書類の発行も時間が掛かるため、手続きを迅速に進めたいという場合、代わりに「退職証明書」を利用することができる。「退職証明書」発行の流れ
ここでは、「退職証明書」発行の流れを整理したい。(1)記載項目の確認・照合
まずは、「退職証明書」にどんな項目を記載するべきであるかを退職者に確認する。「退職証明書」には、退職者が希望しない項目を記載してはいけないと定められているからだ。(2)離職票との整合性を確認
「退職証明書」の記載事項を確認した後、離職票との整合性を確認する。「退職証明書」を発行する際に、同じタイミングで離職票も発行しているはずだ。その離職票には、「退職証明書」と重複する記載項目があるので矛盾がないようにしておきたい。(3)退職日に合わせて発行・譲渡
離職票との整合性が確認できたら、退職日に合わせて「退職証明書」を発行・譲渡する。「退職証明書」に発行期限が定められているわけではないが、労働基準法でも「遅滞なく」速やかに交付することを定めている。「退職証明書」発行における実務上の注意点
次に、「退職証明書」を発行する際の注意点を取り上げたい。●発行拒否は原則不可・違法リスクあり
まずは従業員が発行を希望した場合、労働基準法により会社が「退職証明書」を発行することが義務付けられている。もし、退職者が申請をしたにもかかわらず、会社が「退職証明書」の発行を拒否したり、正当な理由がないのに迅速に交付されなかったりする場合には違法とされ、使用者(経営者や事業主など)に30万円以下の罰金が科される。●発行期限は退職後2年以内とされている
同様に労働基準法により、「退職証明書」の発行期限は退職日から2年間と定められている。この期間内に退職者から申請があれば、企業としては「退職証明書」を発行しなければならない。●記載は最低限に留める
「退職証明書」を発行する際の記載項目は、従業員本人に委ねられる。例えば、「転職先企業が仕事内容と在籍期間の確認を求めている」とのことであれば、退職理由や賃金などを「退職証明書」に記入する必要はない。あくまでも、必要となる最低限の項目だけをカバーしていれば良い。●コピーを保管する
企業としては、「退職証明書」を保管する義務はないとは言え、何があるかはわからないので、できれば2年間はコピーを保管しておくようにしたい。再発行の依頼があっても容易に対応できる。解雇時に求められる別書類について
従業員を解雇した際には、「退職証明書」とは別の書類が求められる。それらについても説明しておきたい。●解雇時に求められる別書類について
基本的に、従業員を解雇する際に必要となる主な書類は以下の通りだ(退職証明書を除く)・離職票
・雇用保険被保険者資格喪失届
ハローワークに提出する。
・源泉徴収票
・健康保険 厚生年金保険被保険者資格喪失証明書
ハローワークに提出する。
・解雇予告通知書
会社側が労働者に解雇を予告し、普通解雇する場合の通知書となる。
・解雇通知書
会社側が労働者を解雇する場合の通知書。解雇の30日以上前に予告、あるいは平均賃金の30日分以上の解雇予告手当を支払う必要がある。
・諭旨解雇通知書
会社が労働者に退職届を提出させた上で解雇する際の通知書。
・懲戒解雇通知書
会社側が労働者を懲戒解雇する際の通知書。予告や予告手当の支払いの必要はない。
・解雇理由証明書
上記に挙げた書類を、幾つかに分類することで違いや使い分けが明確になってくる。
●解雇理由証明書との違いと使い分け
まずは、労働者解雇前と解雇後の事務手続きに分けられる。解雇予告通知書や解雇通知書は解雇前。離職票や雇用保険被保険者資格喪失届、解雇理由証明書などは、解雇後に必要な書類となる。しかも、離職票や雇用保険被保険者資格喪失届は会社側がハローワークとの手続きの際に求められるもので、解雇理由証明書は労働者からの申請を受けて発行するものとなる。まとめ
採用難の今日、退職者にどう接するかがポイントとなってくる。「退職にあたって必要な手続きがスムーズに行われない」、「この期に及んでまだ『なぜ退職するのか』としつこく聞かれる」などという声がトラブルにつながりかねないからだ。そうした評判は、SNSを通じてすぐに拡散されてしまう。むしろ、退職者からの申し出には迅速に対応し、気持ち良く送り出してあげた方が、後々円滑な関係を構築しやすくなる。今注目されているアルムナイ採用も、退職時の人事や上司の態度に対してどんな印象を抱いたかで成否が変わってくる。人事からすると「退職証明書」をはじめとするさまざまな書類を発行することは、手間が掛かるかもしれないが一つひとつ真摯に対応してもらいたい。
よくある質問
●「退職証明書」の発行は必ず必要か?
退職証明書は、従業員から請求があった場合にのみ、会社が発行する法的義務がある。請求がなければ発行の必要はないが、退職者から申請があれば、企業は遅滞なく交付しなければならない。●「退職証明書」と離職票は同じか?
「退職証明書」と離職票は異なる書類。「退職証明書」は会社が発行し、主に転職先や各種手続きで退職事実を証明するもの。一方、離職票はハローワーク発行の公的書類で、失業給付申請時に必要となる。- 1