テレワークで創出する障がい者雇用のあり方とは? 「障害者雇用 3.0」セミナーレポート

HRプロ編集部取材×注目人事トレンド

2019年7月5日に東京都港区で、慶應義塾大学 協生環境推進室と株式会社D&Iの共催による「障害者雇用3.0セミナー 地方創生×障害者雇用×テレワーク」が開催された。2018年4月に障がい者法廷雇用率が2.2%に引き上げられ、2021年4月までに2.3%への再引き上げが控えている。企業における障がい者雇用は“雇用安定化”と“障がい者の戦力化”が求められているものの先行きが不透明な部分が多い状況である。本セミナーは障がい者雇用の専門家を招き、障がい者雇用のあり方を考えることを趣旨として企画された。なお、3部構成となっており、第1部が慶應義塾大学商学部教授 中島隆信氏による講演、第2部はD&I代表取締役 杉本大祐氏による講演。第3部は講演した両氏に加え、積極的に障がい者雇用を実践する、日本ユニシスの特例子会社 NULアクセシビリティ株式会社の代表取締役社長 寺嶋文之氏、教育関連事業を展開する株式会社ウィザスの統括支援本部人事部次長 藤原秀永氏をゲストに迎え、「障がい者雇用の戦力化事例」をテーマにパネルディスカッションが行われた。本稿では各部の内容をサマリーで紹介する。

【第1部】中島隆信氏講演:「障がい者の経済学」からみた日本の働き方

携帯電話の普及をはじめ、昔では考えられない世界に私たちは生きています。新しい技術が生まれれば、それを活用した働き方が生まれ、障がい者雇用もまったく別の形に変わる可能性があります。

法定雇用率を達成するため無理やり従来型の障がい者雇用を行って、意味のない仕事をつくりだすのではなく、彼らを一人の企業人、戦力として採用するのが望ましい雇用の形だと思います。

現状の障がい者雇用の問題点は、障がい者ができる仕事は清掃や軽作業等と固定観念を持ち、それに彼らをはめ込むことです。制度的な面でも、親会社の特例子会社が障がい者を雇用し、グループ全体の雇用率にカウントする「グループ適用」を用いることで、大企業は法定雇用率を達成しています。

しかしこのやり方だと、子会社は親会社の特例子会社にフリーライドして、自ら障がい者を雇おうというインセンティブが生まれません。また、親会社の間接業務の仕事量はそれほど増えないため、今後障がい者雇用を増やしていくことは難しくなります。

また、こうした特例子会社は首都圏に集中しているため、特別支援学校の就職率も東京が突出しています。親会社から受注する単純事務作業などは地方になく、あったとしても案件が少ないため障がい者を雇うことはできないからです。

ある東京の特別支援学校は障がい者が仕事につくための就業技術科があり、就職率100%を目指していますが、単純作業ができそうな生徒を集め、学校内で事務など単純な仕事を3年間やらせて企業に見せる。そこで就職につなげるのです。生徒たちのゴールが決まっているとも言えるでしょう。しかし、そのような本業とはほぼ無関係の作業に長期間従事して、仕事のやりがいを持続することができますか? キャリアを形成し、ステップアップしていくならともかく、最初からできる仕事が決められているのです。特別支援学校の優秀な生徒たちでさえも、このような仕事・状態が終点なのです。

優れた経営者であればこのままじゃいけない、彼らが現場で戦力になるような働き方、仕事のつくり方をしなければもたないと考えるはずです。つまり本業で障がい者を活用する。それでは本業で障がい者の方たちの仕事を増やすにはどうしたらいいでしょうか。

障がい者雇用ありきではなく、戦力として採用する

まずグループ適用をやめ、本業で仕事を増やすことです。そのための手段として考えられるのが、グループ内の会社に未達成分相当の仕事を特例子会社に発注させることです。それが出来なければ人件費相当額を特例子会社に支払わせる。そうすれば、子会社はいかにして現場で仕事を作っていけるか考えるはずです。

次に、テレワークによって場所に縛られない雇用機会を増やし、地方での雇用機会を創出します。現在はネットワークが充実しているので、遠方にも発注が可能です。ですが労務管理の問題があります。例えば精神障害の方は毎日決まった時間に勤務することがなかなか難しいですし、深夜勤務希望の方もいます。そうなると発注側の管理が大変になってしまいます。

これらの問題を解消するには「みなし雇用」制度の導入が必要です。つまり「場所」「時間」「人数」に縛られない雇用を増やすのです。例えば25万円分の仕事であれば、それをサテライト代わりとなるAという障がい者関係の施設に発注し、障がい者各人の仕事のやり方は施設に任せる。深夜勤務が希望であれば深夜に、というように。しかしそれには企業とA施設を結ぶ仲介役が必要です。両者のマッチングを担ってくれるような企業はあまりないので、このような企業が増えればみなし雇用は爆発的に増えるのではないかとみています。

これからは、障がい者の雇用ありきというのではなく、戦力として彼らが必要だから雇うという企業が増えるのが望ましいです。無理に不要な仕事を増やすのではなく、障がい者の能力を活かし、やりがいを感じる仕事を与えつつ、徐々に雇用率を上げていくべきです。多様な働き方の実現こそがリスクを減らし、雇用機会を増やすのではないでしょうか。

【第2部】杉本大祐氏講演:多様な企業事例から学ぶ 障がい者雇用の新たなチャレンジ

10年前と比較して障がい者の雇用率は非常に増えていますが、障がい者雇用に関する課題に関してはほぼ変わっていません。

ひとつは定着率。精神障がい者の雇用でいいますと、入社3ヶ月で30%が退職し、1年以内では49.3%しか定着しない。理由として、ひとつは満員電車に乗れないなどの、通勤困難。ふたつめは社内調整、社内の中で理解を得る難しさがあげられます。

語弊はありますが、障がい者雇用では配慮のいらない軽度の方は引く手あまたなのです。それ以外の方ですと、人材によっては受け入れ部署への調整が難航し、採用活動が鈍化してしまうこともあります。現在障がい者手帳を持つ方は約950万人いらっしゃいます。そのうち一般就労をされているのが約50万人にすぎない。つまり、障がい者全体でみると約5%しか就労しておらず、働きたくても働けない人がたくさんいるのです。日本は労働力を必要としているにかかわらず、障がい者の方の活用はまだまだ発展途上です。

さらに業務構築の難しさもあります。「採用しなければならないから採用する」という現状があり、本業に即さない業務を障がい者に任せている企業も少なくありません。

障がい者採用の現状としては、健常者と生産性が変わらない約50万人の軽度の身体・精神障害の方(全体の約5%)に採用が集中しており、企業間で奪い合っている状況なので、残りの約900万人の方に活躍してもらうために新たな採用枠を創り出す必要があるのです。

そこで我々が提案するのが、テレワークと障がい者雇用を掛け合わせた「エンカク」というサービスです。テレワークのメリットとして、社会的には労働力の確保や地域活性化などがあり、就業者は多様で柔軟な働き方ができ、育児や介護の両立などが可能になります。企業にとっても生産性が上がり、コスト削減や新たな人材の確保ができるというメリットがあります。今まで“働きたくても働けない”という障がい者の課題をエンカクによって解消し、新たな就業機会を創出できると考えています。

詳しくはHRチャレンジ大賞受賞企業インタビューでチェック!

同社が展開するテレワークを活用した障がい者雇用支援サービス『エンカク』は、第8回 日本HRチャレンジ大賞『人材サービス優秀賞(採用部門)』にも輝いた。詳しい内容は、受賞企業インタビューで紹介しているので、詳しくはこちらをご覧いただきたい。

【第3部】パネルディスカッション:「障がい者の戦力化事例」

第三部は中島氏進行のもと、実際にテレワークによる障がい者雇用を導入しているNULアクセシビリティ株式会社 代表取締役社長 寺嶋文之氏と、株式会社ウィザス 統括支援本部人事部次長 藤原秀永氏、そして株式会社ウィザスのテレワークをサポートしたD&I 杉本氏によるパネルディスカッションが行われた。実例とともに、いかにして戦力としての障がい者雇用を実現したかに迫っている。

中島 テレワーク運用にあたり、苦労した点を教えてください。

藤原 勤怠管理に苦労していますね。管理システムを使っていないので出退勤はメールで送ってもらっています。深夜勤務の希望もありましたが、やはり勤怠管理の問題で難しいです。

寺嶋 現在は徳島県在住の5名を雇用しています。業務用PCは弊社より貸出し、ネットワークはVPNを使用してセキュリティを担保しています。勝手に時間外作業を行わないように、PCのON/OFFを管理しています。

中島 残業が発生することもあるのですか。

寺嶋 当社では原則として残業は認めていません。チームで運用している仕事ですので、遅延が発生した場合は、チームメンバーでカバーしていきます。

藤原 当社でもあまりやっていただいていません。時間管理マトリックスにおいて、「重要度」は高いが「緊急度」は低い業務をお願いしていることも理由です。


中島 テレワークの訓練などはしましたか。

寺嶋 訓練はしなかったので、はじめは手探り状態でした。社員は技術者なので、彼らにどのくらい生産性を求められるのかの見極めから始めました。納期を設定し、品質が悪い場合はそれを認識してもらうことで、技術者としてのやる気が芽生えるよう、動機づけをしました。

藤原 トレーニングなどは特にしていませんが、D&Iさんにアドバイスをもらい、弊社とD&Iさん双方から伝えるべきことは伝えています。どうしても生産性の上がらない方もいましたが、各人に合った業務を見極めて、その都度変えています。


中島 成果の評価と報酬への反映についてはどうされていますか?

寺嶋 金銭的な見返りではなく、名刺の肩書きをランクアップして渡しています。我々は評価していますよということを明確にして、モチベーションアップするように心がけています。

藤原 一般社員と同じ評価を取り入れているわけではないのですが、継続雇用ですので、毎年少しずつ昇給しています。


中島 障がい者テレワーカーのキャリア構築をどうお考えでしょうか。

寺嶋 基本的に会社勤めが初めての方ばかりなので、皆さんキャリアについて明確なビジョンを持っていないケースが多いです。ただ、当社で勤めたことが将来の人生においてプラスになってもらえればと思います。

藤原 弊社では一般社員も含め50歳のタイミングでセミナーを行っています。これからのキャリアを考え、定年後はどうするのかなど、キャリアを考えるきっかけ作りを支援しています。その後の判断は各自に委ねています。


中島 テレワークをするにあたって、どういう条件を整える必要がありますか。

杉本 テレワークで仕事をすることがどういうことなのか、始める前は彼ら自身も理解しきれていないことが多いのが現状です。まずはスタートしてみて、その状況によって企業と障がい者の間でルールを決めることがお勧めです。

寺嶋 各人の特性を考慮する必要から、勤務時間への配慮や特別有給休暇、コアタイムの無いスーパーフレックス制度などを整えました。

藤原 最初はルールがなくて手探り状態だったのですが、D&Iさんにサポートいただいたことで、大変助かりました。

中島 具体的に何かトラブルがあったのですか。

藤原 なかなか業務をスムーズに進められない方がいました。雇用を継続していいものか悩んでいたのですが、業務をその方に合う内容に見直して、きちんと仕事をこなしてもらえるようになりました。

寺嶋 未知の業務の場合、説明してもなかなか理解が進まないこともあります。ここでやり過ぎると結果的にいじめていることにならないか、かえって苦痛を与えてしまっているのではないかというジレンマはあります。そこは本人と話すことで指導のラインを見極めています。

中島 皆さんは働き方の一つとしてのテレワークの可能性をどう見ていますか。

藤原 可能性は大いにあるのではないでしょうか。今後は全国で展開している事業をテレワークでつなげることができればと考えています。例えば、通信制高校の特別講師がテレワークで授業できたら面白いですね。

寺嶋 AIなどテクノロジーの進歩が著しい中で、活用の可能性は無限大にあるのではないかと思います。


中島 最後にテレワークを検討している企業にメッセージをお願いします。

寺嶋 万全の準備をしてテレワークをはじめても、やってみなければわからないことが多々出てきます。万全の準備に時間を費やすより、まずは始めてみて改善をされる方がよいと思います。

藤原 自社だけでやるには限界があります。企業や自治体などのネットワークを駆使すれば効果は大きいですし、時間も短縮できます。

杉本 今こそ第一歩を踏み出すときです。そして、この人を採用したい、この人と働きたいと思う方を採用してください。テレワークは働く場所が違うだけなのですから。

登壇者プロフィール

慶應義塾大学 商学部教授
中島隆信 氏


商学博士。専門は経済学の実証分析。平成5年から7年まで米イエール大学エコノミックグロースセンター訪問研究員。平成13年から慶應大学商学部教授。著書は「障害者の経済学」「お寺の経済学」など多岐にわたる。
NULアクセシビリティ株式会社 代表取締役社長
寺嶋文之 氏


2018年、日本ユニシス(株)の特例子会社としてNULアクセシビリティ(株)を設立。Webアクセシビリティ検査という業務を通じ、地方の障がい者をテレワークで雇用している。
株式会社ウィザス 統括支援本部 人事部 次長
藤原秀永 氏


第一ゼミナール等の学習塾事業、通信制高校、幼児英語プレスクール・学童スクールなど約45年にわたり教育関連事業を展開する株式会社ウィザスに2012年に入社。採用・研修などの人材開発、人事制度設計など人事業務全般に従事。
株式会社D&I 代表取締役
杉本大祐 氏


2009年に(株)D&Iを創業。在宅雇用支援サービス「エンカク」や、障がい者求人サイト「BABナビ」などを展開。採用・定着支援など障がい者雇用のトータルコンサルティングと、放課後等デイサービスや就労移行支援事業などの教育事業を展開。
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著者プロフィール

HRプロ編集部

採用、教育・研修、労務、人事戦略などにおける人事トレンドを発信中。押さえておきたい基本知識から、最新ニュース、対談・インタビューやお役立ち情報・セミナーレポートまで、HRプロならではの視点と情報量でお届けします。

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