ハローワークで仕事を見つけて働き始めたAさん。初めてもらった給与明細書を見て思っていた額と違うことに気が付いて……

Aさん「あのう、基本給の額が違うようですが。」
人事部「それで間違いありませんよ。」
Aさん「しかし求人票では25万円だったのに20万円なのですが。」
人事部「ああ、求人票は少し古いですから。今は20万円です。」
Aさん「はあ、そうなんですか……。」
増加する求人票トラブルとその対策

 「正社員のはずが有期雇用」「社会保険完備のはずが未加入」「事務職採用なのに営業の部署に配属」……etc
 ハローワークの求人票や求人誌の募集内容(以下「求人票等」と記す)が実際の労働条件と異なるという苦情やトラブルが増えているようである。2012年度に全国の労働局に寄せられた同様の相談は約8千件にも及ぶという。相談するまでに至らないケースも考慮すると、実際には相当な数のトラブルが発生しているものと考えられる。

 なぜこのような実態と異なる求人票等が出回っているのだろうか。その遠因に次のような見解を厚労省が出していることが挙げられる。
 『労働基準法第15条には、労働条件の明示が定められていますが、この条文で言う労働条件の明示とは労働者個々人に対して書面で明示される労働条件のことです。つまり、求人誌やハローワークに掲載されている求人票はあくまでも募集の際に提示する労働条件の目安であり、労働基準法第15条で定める労働条件の明示には該当しません。』(厚労省HPより)
 つまり、多少乱暴に解釈させて頂くならば、“求人票等の内容は実態と異なっていたとしてもOK”なのである。本来求人票等とは別に、採用時には所定の労働条件を明示することになっているから(労働基準法第15条1項)、上記Aさんのようなトラブルは起こり得ないというのが厚労省の見解のようであるが、現実の採用の現場では必ずしも労働条件の明示は行われておらず、一方で求職者のほうからそれを求めるのも難しい訳で、その結果求人票トラブルが後を絶たないのである。
 しかし、だからと言って求人票等の内容が出鱈目で良いはずが無い。裁判例を見ると、求人票の記載内容と実際の労働条件が異なることについて特段の合意がない場合には、求人票の記載内容が労働契約の内容になる、としたものもある(千代田工業事件H2.3.8大阪高裁)。また、虚偽の広告や虚偽の条件を提示して労働者の募集を行った者に対して、罰則を設けた法律もちゃんとある。職業安定法第65条8項がそれであり、6か月以下の懲役又は30万円以下の罰金である。嘘の求人票等は明確に法律違反であり、場合によってはその内容が労働契約にもなり得るのである。上記Aさんの例については、求人票の内容が労働契約となるかもしれず、そうなれば会社は求人票に記載した額の給料の支払い義務が発生することになり、Aさんは労働契約の即時解除権の行使も可能である。(労働基準法第15条2項)

 さて、このような求人票トラブルを起こさないためにはどうしたらよいだろうか。現実問題として、求職者に対して「応募時によく確認して」というのは酷であろう。面接時等に「基本給は○○万円で間違いないですね?」などど聞くことはかなりハードである。そうすると採用する側が注意するしかなさそうだ。前述の労働条件の明示を適切に行うことは勿論であるが、求人票の内容が常に最新のものであるかどうかにも注意したい。実際の採用の現場では、ハローワークの求人票の内容は何年も放置されていて、現在の条件とは異なるというケースはありがちだ。日々の忙しい業務の中おろそかになりがちな部分であるが、始め半分、始めよければ終わりよし、良い求人票は良い採用に繋がる。貴重な応募者との出会いを台無しにしないよう、是非求人票等にも力を注いで頂きたいと思う。


出岡社会保険労務士事務所  出岡 健太郎

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