休憩・着替え・喫煙・持ち帰り残業に賃金支払は必要?「労働時間と賃金」について解説/社労士監修コラム集

「労働時間」の基本的な考え方
労働時間とは「使用者の指揮命令下に置かれている時間」を指します。重要なのは、「黙示の指示」も含まれる点です。明確に業務指示をしていなくても、業務上必要な行為であると認識しながら業務を行わせている時間は、労働時間と扱われます。例えば、着用を義務付けられた制服への着替え、業務に必要な朝礼や清掃などの準備行為・後始末、研修の受講などの時間です。それをしないと業務に支障が出る・業務が行えない、評価に影響するようなものは、明確な業務指示がなくとも労働時間になる、ということです。
休憩・着替え・喫煙・持ち帰り残業に賃金支払は必要?「労働時間と賃金」について解説/社労士監修コラム集
よくある労働時間管理の違反事例
さて、労働時間の原則をおさらいしたところで、よくある違反事例を紹介していきます。事例1:勤怠管理システムの端数処理による切り捨て
勤怠管理システムの端数処理機能を使い、一定時間、例えば15分に満たない時間を一律に切り捨て、その分の賃金を支払っていないケースです。いわゆる残業時間をはじめ、遅刻早退の時間などで見られる運用です。「労働基準法」では、「1日ごと」に一定時間に満たない労働時間を一律に切り捨て、その分の賃金を支払わないことは認められません。過去には5分単位の切り捨てでも是正勧告がされた事例もあります。
ただし例外として、1ヵ月ごとに時間外労働、休日労働および深夜業の各々の時間数の合計に1時間未満の端数がある場合に、30分未満の端数を切り捨て、それ以上を1時間に切り上げることは認められています。端数処理はあくまで「1ヵ月単位」でのものに限られる点に注意が必要です。
なお、1日の労働時間については、「50分の時間外労働を60分と扱う」ように切り上げることは問題ありません。労働者に有利な端数処理は認められます。
事例2:一定時間以上でしか残業申請を認めない運用
残業申請は30分単位で行うよう指示しており、30分に満たない時間外労働時間については残業として申請することを認めず、切り捨てた分の残業代を支払っていないケースです。社内の申請ルールが実労働時間の適正な把握を妨げ、賃金の未払いを生じさせている典型例です。実際に時間外労働が発生している以上、その時間に応じた賃金を支払う必要があります。
事例3:始業前の作業を労働時間と認めていない
毎朝、タイムカード打刻前に制服への着替えや朝礼などを義務付けているが、その時間を労働時間として取り扱っていないケースです。前述の通り、着用を義務付けられた制服への着替えや参加が義務付けられた朝礼は、労働時間に該当します。「始業前だから」という理由で労働時間から除外することはできません。過去には、勤務時間前後の1日あたり合計80秒程度の点呼・移動を労働時間と認定した裁判例もあります。
適正な労働時間把握のための実務のポイント
適正な労働時間管理を実現するために、企業は次のような点に取り組む必要があります。●勤怠管理システムの設定の見直し
不適切な丸め処理機能が設定されていないか、実労働時間が正確に記録される設定になっているかを確認してください。●社内ルールの見直し
システム設定の見直しに加え、端数処理や残業申請、準備・片付け時間などの社内ルールが適切かを確認します。「昔からこのルールだから」、「これまで指摘されたことがないから」と考えないことが重要です。前述の通り、1日約80秒でも労働時間とされることがあるので、1分単位での労働時間管理が必要になっていることは言うまでもありません。また、準備・片付け時間を労働時間として扱うよう改善する場合、元々の1日の所定労働時間が8時間だと、毎日法定労働時間超えの労働が発生することになります。36協定をはじめ、割増賃金にかかる人件費なども同時に再確認することが求められます。
●社内周知
管理職や従業員に対して労働時間の正しい考え方を周知し、「一定時間単位でしか残業申請はできない」といった誤った認識を改める必要もあります。●定期的な運用状況のチェック
制度を整えても、実際の運用が適切でなければ意味がありません。定期的に実態を確認し、必要に応じて改善を図ることが大切です。*
いかがでしたか。適正な労働時間管理は、法令遵守の最も基本的な事項であり、従業員との信頼関係の基盤でもあります。「このくらいは大丈夫」という軽い認識が、「労働基準法」違反や未払い賃金問題に繋がるおそれがあります。この機に改めて自社の運用を再確認してみてはいかがでしょうか。
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