企業を経営する過程では内外の環境変化にともない、組織を率いるリーダーに困難な経営判断が要求されることも少なくない。その結果、「飛躍できる企業」もあれば、「歩みを止めてしまう企業」も存在する。両者の違いはリーダーの思考様式に依存するところが少なくないようである。
環境変化に強いリーダーが備える“3つの思考様式”とは

社会に貢献するために働くという「社会思考」

企業がさまざま環境変化に対応し、持続的な成長を遂げるために不可欠な要素が、経営者の“好ましい思考様式”である。代表的な“好ましい思考様式”は3つある。1番目は「社会思考」である。

ここでいう「社会思考」とは、「社会に貢献するために企業を経営する」という考え方のことである。この思考様式の対極に位置するのが「個人思考」である。こちらは、「自分が稼ぐために企業を経営する」、「家族、社員を養うために企業を経営する」という考え方である。

「社会思考」が強いリーダーの意思決定は、「それは社会に貢献する行為か」という視点で行われる。そのため、「社会の役に立つ行為ではないから行わない」という経営判断が下されることもある。

これに対して、「個人思考」が強いリーダーの場合には、「それは自分や家族、社員のためになる行為か」という基準で意思決定をしがちである。そのため、「社会思考」が強いリーダーが「行わない」と判断する行為でも、「個人思考」が強いリーダーは実行に移すことがある。

今般の新型コロナウイルス感染症の蔓延による営業自粛要請に対し、営業を中止した企業と継続した企業が存在したのは記憶に新しい。「社会思考」に照らせば、このような社会情勢の中で営業活動に踏み切る行為はさらなる感染症蔓延の要因となり得る。そして、社会不安をあおる行為のため、営業は行わないという経営判断にたどりつく。これに対し、「個人思考」に照らせば、従業員の生活を守るためには「営業継続もやむなし」という判断が下されることになる。

一般的には、「個人思考」による意思決定は、短期的には経営数値が上向いたとしても、持続的な成長には繋がりにくいといわれる。今般の営業自粛要請に対しては、多くの経営者が難しい経営判断を余儀なくされたといえよう。

原因は自分にあると考える「自責思考」

経営者に求められる“好ましい思考様式”の2番目は、「自責思考」である。

「自責思考」とは「原因は自分にある」という考え方である。これに対して、「原因は自分以外にある」と考える思考様式を「他責思考」という。

売上・利益が減少し、このままでは経営が立ち行かなくなるという状況に追い込まれたとき、経営者の間からこのような声を聞くことが少なくない。「経営が悪化しているのは景気のせいだ」、「政府の政策が悪いから、経営が悪化しているのだ」、「社会が悪いからダメなのだ」。

経営悪化の原因を景気・政策・社会などに求める「他責思考」の経営者は、ことのほか多い。しかしながら、仮に景気・政策・社会などに一定の責任があるとしても、条件はどの企業も同じである。そのような厳しい環境下でも、経営成績を維持・向上させている企業は存在している。それにもかかわらず、「景気が悪いから……」としか考えることができない「他責思考」のリーダーでは、自らの手で経営改善への打開策を講じることは期待できない。

これに対し、「自責思考」のリーダーが経営成績悪化などの状況に陥った場合には、「自分に責任があるのではないか」、「自分にも何かできることがあったのではないか」と、原因を自身に求めようとする。その結果、効果的な現状分析が行われやすく、経営悪化から脱却をはかる“新しい打ち手”を創出する可能性も高くなる傾向にある。

マイナス要因を“前向き”に解釈し直す「前向き思考」

最後は「前向き思考」である。

「前向き思考」とは、困難な状況に直面したときに「この状況を“前向き”に解釈したら、どのようなことがいえるか」と考える思考様式である。つまり、“マイナスの状況”を“プラス”にとらえ直すという思考転換能力ともいえる。

この対極に位置するのが「後ろ向き思考」である。こちらは、“マイナスの状況”を“マイナス”にしかとらえることができない硬直的な思考様式である。

例えば、感染症の蔓延で従前の営業活動ができないという“マイナスの状況”を、「通常の営業ができないのであれば、今までやっていなかったことを試すチャンスではないか」と“前向き”に解釈し直し、行動に移せるリーダーは環境変化に強い。

これに対し、「通常の営業ができないじゃないか。一体、政府は何をやっているんだ」などと、“マイナスの状況”を“マイナス”にしかとらえられない「後ろ向き思考」のリーダーの場合には、前述の「他責思考」とも相まって、自らの創意工夫で環境変化に対応するのは困難であろう。

企業を経営していると、想定外の“マイナスの環境変化”に直面することがある。そのような時に行われる経営者の意思決定は、リーダーの資質を決定づける大きな分水嶺である。トップリーダーとして企業を飛躍に導ける経営者になれるのか、それとも企業の歩みを止めてしまう経営者となるのかは、リーダーの意思決定の様式次第である。
大須賀信敬
コンサルティングハウス プライオ 代表
組織人事コンサルタント・中小企業診断士・特定社会保険労務士
https://www.ch-plyo.net

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